コラム5 男性の家事・育児等参画の必要性・効果

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コラム5

男性の家事・育児等参画の必要性・効果


本文で男性の家事・育児等参画が進むことの必要性を、主に生き方、働き方の観点から考察してきたが、本文では触れなかった側面の必要性・効果について例示する。

一つ目は、配偶者(妻)の健康・命に関わることである。医療が進んだ現在でも出産は命がけであるが、個人差はあるものの、妊娠した女性は、妊娠中から様々な心身のトラブルに見舞われる。そして、出産時の身体へのダメージは交通事故に例えられることもあるほど、非常に大きく、産後もそのダメージの後遺症を抱えながら育児を行うことになる。

また、妊娠中の女性の約10%、産後の女性の10~15%前後にうつ病のリスクがあり、妊産婦の自殺の背景の1つに精神疾患があるとの研究・報告がある。うつ病の要因は、妊娠・出産に伴う女性ホルモンの大きな変化のほかに、周囲のサポート不足、妊娠中のうつ症状や不安、精神疾患の既往が挙げられている(図1)。さらに、妊産婦の精神的な不安定は、子供の発育・成長にも大きく影響するとも言われている1

(図1)妊娠・出産時のうつ病で生じる悪循環別ウインドウで開きます
(図1)妊娠・出産時のうつ病で生じる悪循環

家族の姿が変わり、妊娠・出産・子育てにあたり、かつては当たり前だった親兄弟や地域の手助けが少なくなっている現在、夫の家事・育児等の参画に家族の将来がかかっていると言っても過言ではない。出産後も就業継続を希望する女性が増えており、女性の心身を支える社会の仕組みの充実も大切であるが、一番身近な存在である夫の理解、家事・育児参画はますます重要になる。両親学級(パパママ学級)等では、赤ちゃんのお風呂やおむつ替え等の実技のほか、妊産婦の体と心の変化等についても学ぶことが多い。妻と一緒に積極的に参加し、妊産婦の状況を正しく理解し、適切なサポートを行うことが求められる。そのためには、雇用側も男性に育児休業を取得させることだけを目的とするのではなく、男性が両親学級等に参加できるよう後押しをすることが大事である。そうすることで、育児休業を取ったものの家事・育児に参画せずに単なる休暇になってしまう、いわゆる「取るだけ育休」となる懸念も減るのではないか。

二つ目は、出生についてである。国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」(平成27(2015)年)2によると、「理想の子供数を持たない理由」について、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」を挙げる割合が最も大きいが、正規雇用労働者として働いている女性の場合、「自分の仕事に差し支えるから」という理由を選択する割合が大きく、仕事か家庭かの選択に迫られ、子供を持つことをあきらめている可能性がある(図2)。

また、本文で考察してきたとおり、有償労働は男性に、無償労働は女性に偏っている我が国では、仕事がある日の1日の時間の使い方として、子育て中の男性は長い仕事時間の隙間に家事・育児時間を入れようとし、働いている女性は、家事・育児等の大半を担いながら仕事も抱えている状況で、男女ともに日々の仕事・家事・育児で疲弊し、なかには更なる子供を持つことを考えられない夫婦もいると推察される。

(図2)理想の子供数を持たない理由別ウインドウで開きます
(図2)理想の子供数を持たない理由

(図2)[CSV形式:1KB]CSVファイル

一方、厚生労働省「第8回21世紀成年者縦断調査(平成24年成年者)」(令和2(2020)年11月25日公表)によると、夫の休日の家事・育児時間別に、この7年間の出生状況をみると、子供が一人以上いる夫婦では、夫の「家事・育児時間無し」で50.0%、夫の「家事・育児時間有り」では7割以上で第2子以降が生まれており、平成14年成年者(第8回)と同様に、家事・育児時間が長いほど子供が生まれる割合が大きくなる傾向がある(図3)。

(図3)夫の休日の家事・育児時間別にみたこの7年間の第2子以降の出生の状況(平成14(2002)年成年者)(平成24(2012)年成年者)別ウインドウで開きます
(図3)夫の休日の家事・育児時間別にみたこの7年間の第2子以降の出生の状況(平成14(2002)年成年者)(平成24(2012)年成年者)

(図3)[CSV形式:1KB]CSVファイル

家事・育児等については、まずは家族でよく話し合い、お互いの状況を理解すべきではあるが、今や、男性の家事・育児等参画は、直接、家族の在り方に関わってくる。男性本人はもちろんのこと、家族、雇用側、その他取り巻く周囲にとっても、男性の家事・育児等参画が当たり前という社会となるよう、さらに機運を高める時ではないか。

1公益社団法人日本産婦人科医会「妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル~産後ケアへの切れ目のない支援に向けて~」(平成29(2017)年7月)、厚生労働省「健やか親子21」ホームページhttps://sukoyaka21.mhlw.go.jp/、厚生労働省「e-ヘルスネット」ホームページhttps://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-001.htmlより。

2令和4(2022)年9月に第16回の調査結果の概要は公表されているが、詳細統計は未公表。