コラム4 我が国の育児休業制度は世界一!?男性の育児休業の変遷と背景

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コラム4

我が国の育児休業制度は世界一!?男性の育児休業の変遷と背景


UNICEF Office of Research - Innocenti(ユニセフの専門研究センター)の報告書「先進国の子育て支援の現状(Where Do Rich Countries Stand on Childcare?)」(令和3(2021)年6月)では、経済協力開発機構(OECD)及び欧州連合(EU)加盟国を対象に、各国の保育政策や育児休業政策を評価し、順位付けしている。総合評価では、ルクセンブルク、アイスランド、スウェーデン、ノルウェー、ドイツが上位国であるが、我が国は、育児休業制度では1位と順位付けられている(表1)。完全賃金の週数に再計算した父親の育児休業の期間が最も長いこと(図2)が評価された結果である。なお、同報告書では、制度を導入した際は男性の取得率は低かったものの、近年では取得率が上がっていること、政府がさらに取得率を上げることを目的に、令和3(2021)年により柔軟な内容となるよう、制度を改正したことも紹介されている。

(表1)育児休業、保育へのアクセス、保育の品質、保育の価格別ランキング別ウインドウで開きます
(表1)育児休業、保育へのアクセス、保育の品質、保育の価格別ランキング

(表1)[CSV形式:1KB]CSVファイル

(図2)育児休業の週数(完全賃金の週数に再計算したもの)(平成30(2018)年)別ウインドウで開きます
(図2)育児休業の週数(完全賃金の週数に再計算したもの)(平成30(2018)年)

(図2)[CSV形式:1KB]CSVファイル

以降では、我が国の育児休業制度について、その変遷と、制度が求められた背景を、特に男性の育児参画や育児休業取得の促進の視点から紹介する。

平成3(1991)年に成立した育児・介護休業法について、平成21(2009)年(平成22(2010)年施行)の改正では、「パパ・ママ育休プラス」が創設された。これにより、「父母ともに育児休業を取得した場合」は、育児休業を子が1歳2か月に達するまで(のうち1年間まで)取得できるようになった(原則は1歳まで)。さらに、出産後8週間以内の父親の育児休業取得の促進のため、妻の出産後8週間以内に父親が育児休業を取得した場合、特例として、育児休業の再度の取得を認めた(パパ休暇)。また、配偶者が専業主婦(夫)であれば育児休業の取得を不可とすることができた制度が廃止された。

この背景について、政府の社会保障国民会議1最終報告(平成20(2008)年11月)で「男性(父親)の長時間労働の是正や育児休業の取得促進などの働き方の見直しが必要。」と指摘されたことのほか、当時の現状認識として、次の点が挙げられている2

○勤労者世帯の過半数が共働き世帯となっているなかで、女性だけでなく男性も子育てができ、親子で過ごす時間を持つことの環境づくりが求められている。

○男性の約3割が育児休業を取りたいと考えているが、実際の取得率は1.56%(図3)。男性が子育てや家事に費やす時間も先進国中最低の水準。

○男性が子育てや家事に関わっておらず、その結果、女性に子育てや家事の負荷がかかりすぎていることが、女性の継続就業を困難にし、少子化の原因にもなっている。

(図3)男性育児休業取得率別ウインドウで開きます
(図3)男性育児休業取得率

(図3)[CSV形式:1KB]CSVファイル

平成29(2017)年(同年施行)には、男性の育児参画を促進するため、就学前までの子供を有する労働者が育児にも使える休暇が新設された。これは、事業主に対し、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、育児に関する目的で利用できる休暇制度の措置を設けることに努めることを義務付けたもので、背景には、配偶者の妊娠・出産に際して男性が取得した休暇・休業制度をみると、育児休業制度以外の休暇が多く利用されており、育児を目的とした休暇は高いニーズがあると見込まれたことがある3

最も新しい改正は、令和3(2021)年6月(令和4(2022)年4月より順次施行)で、「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設された。これにより、男性の育児休業促進のため、出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みが用意されたほか、妊娠・出産等(本人又は配偶者)の申出をした労働者に対して事業主から個別の制度周知及び休業の取得意向の確認のための措置を講ずることを、事業主に義務付けた。また、同改正によって、従業員数1,000人超の企業について、男性の「育児休業等の取得率」又は「育児休業等及び育児目的休暇の取得率」の公表の義務付けが令和5(2023)年4月に施行され、父親の育児・家事分担をさらに後押しするものとなっている。

国立研究開発法人国立成育医療研究センターによる研究分析4結果では、乳児期の父親の育児への関わりが多いことが、子供が16歳時点でのメンタルヘルス不調を予防する可能性が示唆されている。父親が育児休業を取得しやすくなるよう、職場や社会の環境を整備することは、母親の負担を減らすだけでなく、子供へも好影響が見込まれることから、ますます重要性が高まっている。

しかしながら、日本の男性の育児休業取得率は直近の令和3(2021)年度でも13.97%であり、諸外国と比較しても、まだまだ低い5。一方、前述のユニセフの専門研究センターによる報告では、「男女共同参画の取組が進んだ北欧諸国でさえ、男性の育児休業制度が導入された当時は取得率が低かった」と、制度が定着するためには時間がかかることも指摘されている。取得率の向上に向け、引き続き充実した制度を活用できる方向へ政策を図っていくことが重要である。

(表4)「育児・介護休業法」における特に男性の育児参加を促進するための改正別ウインドウで開きます
(表4)「育児・介護休業法」における特に男性の育児参加を促進するための改正

1社会保障国民会議は、社会保障のあるべき姿と財源問題を含む以降の改革の方向について、国民目線で議論する場として、内閣総理大臣の下に平成20(2008)年1月に設置され、同年11月に最終報告を取りまとめた。

2厚生労働省「平成21年改正法の概要『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律の概要』」及び「改正育児・介護休業法参考資料集」より。

3厚生労働省「平成29年改正法の概要」より。

4国立研究開発法人国立成育医療研究センターが厚生労働省及び文部科学省が実施している21世紀出生児縦断調査を用い、平成13(2001)年に生まれた子供がいる世帯で、父親の育児への関わり(「おむつを取り換える」「入浴させる」など)の程度を最も少ない群から多い群まで4群に分けて、それぞれの群における16歳時点での子供のメンタルヘルスの状況を比較した結果、最も関わりが少ない群と比較して、最も多い群では、メンタルヘルスの不調のリスクが10%下がっていた(令和5(2023)年1月12日付国立研究開発法人国立成育医療研究センターニュースリリース「乳児期における父親の育児への関わりが多いことが、子どもが16歳時点でのメンタルヘルスの不調を予防する可能性」より)。

5ユニセフの専門研究センターの報告によれば、比較可能な11か国(スロベニア、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、スペイン、リトアニア、エストニア、アイルランド、ポーランド、オーストラリア及びハンガリー)の男性の育児休業の平均取得率は55%である(UNICEF Office of Research ? Innocenti「先進国の子育て支援の現状(Where Do Rich Countries Stand on Childcare?)」(令和3(2021)年6月)より)。