コラム2 歴史考察~昭和より前の時代の、我が国の家族を取り巻く状況~

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コラム2

歴史考察~昭和より前の時代の、我が国の家族を取り巻く状況~


第1節では、昭和の時代から現在までの結婚と家族を取り巻く状況の変化を見てきたが、さらに長期的な視点で見ると、昭和より前の時代の我が国の家族の姿は、また異なっていたことが分かる。

例えば、昭和と比較して、現在は離婚件数が増加していることを紹介してきた。しかしながら、明治時代まで遡って見てみると、我が国の離婚件数は非常に多く、明治32(1899)年の離婚率1(1.53)は、令和2(2020)年の離婚率(1.57)とほぼ同水準であった。なお、明治16(1883)年の離婚率は3.39(人口千対)と、令和2(2020)年の離婚率の約2倍であった(図1)

(図1)離婚率の推移別ウインドウで開きます
(図1)離婚率の推移

(図1)[CSV形式:2KB]CSVファイル

また、現在、我が国では、婚外子の割合が諸外国と比較して低く2、令和2(2020)年の婚外子の割合は2.4%であった。しかし、明治時代まで遡って見てみると、婚外子の割合は高く、明治36(1903)年は9.4%と、令和2(2020)年の4倍近くであった(図2)

(図2)婚外子の割合の推移別ウインドウで開きます
(図2)婚外子の割合の推移

(図2)[CSV形式:1KB]CSVファイル

さらに、我が国では、以前は養子縁組が非常に多かった。幕末の農民の場合、全戸主の2割前後は養子で、武士ではこの割合はもっと高く、多産多死で成人する子供が少ない中、養子縁組により家制度を維持してきた3。現在、婚姻により氏を変える人は、女性が圧倒的に多く、令和2(2020)年では全体の95.3%を占めている(図3)。しかし、男性が氏を変えないようになったのは、第2次世界大戦後であり、出生率が高く、成人する子供も多かった時代に、養子を取らなくてはならないケースが減ったことが背景にある3

関連して、我が国における氏の制度の変遷を見ると、平民に氏の使用が許されるようになったのは、明治3(1870)年以降である。さらに、明治9(1876)年の太政官指令では妻の氏は「所生の氏」(=実家の氏)を用いることとされており、夫婦同氏制が導入されたのは、今から124年前、明治31(1898)年の民法成立時である4

女性の労働に目を向けると、女性の労働参加率(15~64歳)5は、戦後の高度経済成長期に低下し、昭和50(1975)年に底を迎えた後、上昇傾向に転じ、令和3(2021)年には73.3%となった(図4)。女性の労働参加率(15歳以上)6の長期推移を見ると、明治43(1910)年以降、昭和50(1975)年に底を迎えるまで、長期的に低下傾向をたどっているが、この要因には、明治初年に始まる工業化への努力により、以前は家族従業者として就業していた層が非労働力化したことが寄与していると考えられる7 8。以前は農業や自営業が多かったため、家業に従事している女性が多く、現在の女性とは働き方こそ異なるものの、女性は無償労働だけでなく、有償労働にも従事していた。「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」という考え方も、産業構造が転換し、それまでの農家や自営業者を中心とする社会から、雇用者を中心とする社会に変わった際に生まれたものであることが分かる。

このように、我が国の伝統的なものと思われているものの中には、長期的な視点で見ると比較的新しいものも含まれている。また、離婚が少なく、専業主婦が多かった昭和の時代の家族の姿の方が、我が国の長い歴史の中では特異であったという見方もできるだろう。

(図3)夫の氏・妻の氏別婚姻件数の構成割合別ウインドウで開きます
(図3)夫の氏・妻の氏別婚姻件数の構成割合

(図3)[CSV形式:1KB]CSVファイル

(図4)女性の労働参加率の推移別ウインドウで開きます
(図4)女性の労働参加率の推移

(図4)[CSV形式:2KB]CSVファイル

1人口1,000人当たりの離婚件数。

2平成30(2018)年の婚外子出生割合は、日本2.3%、アメリカ39.6%、イギリス48.2%、フランス60.4%、OECD平均40.7%(OECD,“Family Database”)。

3落合恵美子「21世紀家族へ(第4版) 家族の戦後体制の見かた・超えかた」(2019年、有斐閣選書)より。

4法務省ホームページ「我が国における氏の制度の変遷」より。

5生産年齢人口(15~64歳の人口)に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合。

615歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合。

7総理府統計局「昭和55年国勢調査モノグラフシリーズNo.4 人口の就業状態と産業構成」より。

8なお、近年、労働参加率(15歳以上)が50%前後で推移しているのは、人口高齢化によるものである。