第3節 より良いバランス・分担に向けて

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第3節 より良いバランス・分担に向けて

第1節では「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の推移をその背景となる状況の変化とともに検証し,第2節ではこれら時間の個人や家族におけるバランスを,家族類型や子供の成長度合いごとに詳細に分析するとともに,時間では測れない家庭のマネジメント責任の夫婦間の分担状況等についても分析した。

この節では,「家事・育児・介護時間」や「仕事等時間」の現状を変えたいか否かといった希望や,「育児時間」や「介護時間」の長さが生活満足度等からみた生活の質にどのような影響を与えているかを分析するとともに,仕事と育児・介護との両立を難しくする時間以外の要因を見る。そのうえで,最後に,個人や家庭にとって「家事・育児・介護」と「仕事」のより良いバランスや分担を実現するための視点を整理する。

1 バランスや分担をめぐる課題

(1)「家事・育児・介護」と「仕事」のバランスに対する意識

第2節では,単身でいると男女の「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の配分に大きな差異はないが,結婚したり子供を持ったりすると,女性は「仕事等時間」が短くなる一方,家事や育児などに要する時間が長くなるとともに家庭のマネジメント責任の多くを引き受け,いわば,家事や育児に生活の重点を置く状況にある人が多いことが分かった。他方男性は「仕事等時間」が長くなる一方,家事や育児などに要する時間は女性より圧倒的に短く家庭のマネジメント責任も限定的であり,いわば,仕事に生活の重点を置く状況にある人が多いことが分かった。一方で家族の介護を担うこととなった場合は(育児の必要性と重なった場合には特に),男性の仕事偏重傾向が薄れることも判明した。

こうした自らの「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の現状に対して,人々がどのように認識しているのかを,それらの現状をどのように変えたいと希望しているか等を通じて見てみる。

(「仕事等時間」「家事時間」「育児時間」「介護時間」の配分についての希望)

「仕事等時間」については男女,世帯の状況を問わず「現状のままでよい」という回答割合が6~7割程度である。もっとも,介護をしている「夫婦と子供世帯」の男性では5割程度と若干低めになっている。「仕事等時間」を「増やしたい」という回答割合は,おおむね1割前後であるが,「単独世帯」の介護をしている男性や「ひとり親+子供世帯」の女性ではそれより高く15%前後,「夫婦のみ世帯」の男女や「夫婦+子供世帯」の男性でそれより低く5%前後となっている。「仕事等時間」を「減らしたい」という回答割合が3割を超えるのは,「夫婦+子供世帯」の介護をしている男性(41.0%),「ひとり親+子供世帯」の男性(33.9%),「夫婦+子供世帯」の男性(33.7%),「夫婦のみ世帯」の介護をしている男性(30.5%),「夫婦+子供世帯」の介護をしている女性(30.1%)である。すべての類型において「仕事等時間」を「減らしたい」とする割合は女性より男性の方が高く,男性の中でも介護をしていたり子供がいたりする場合に高くなっている。

「家事時間」についても「現状のままでよい」という回答割合が概ね6~7割程度であるが,「夫婦のみ世帯」の男性や「単独世帯」の男性,「夫婦+子供世帯」の男性では8割程度と高めである。「増やしたい」という回答割合は,おおむね1割前後であるが,「単独世帯」の介護をしている男性や「夫婦のみ世帯」の女性,「単独世帯」の男性,「夫婦+子供世帯」の女性ではこれより低く5%前後となっている。家事時間を「減らしたい」という回答割合が3割を超えるのは,「単独世帯」の介護をしている男性(33.3%),「夫婦+子供世帯」の女性(33.0%),「夫婦+子供世帯」の介護をしている女性(32.1%)である。概ねすべての類型で「家事時間」を「減らしたい」とする割合は男性より女性の方が高いが,男性の場合でも「単独世帯」で介護をしている場合には割合が高くなっている。

「育児時間」については「現状のままでよい」という回答割合が7~8割程度であり,「仕事時間」や「家事時間」よりも「現状のままでよい」という回答割合が高い。「減らしたい」又は「増やしたい」という回答割合は,「夫婦+子供世帯」「ひとり親+子供世帯」のいずれについても男女とも2割を超えない。

「介護時間」については「現状のままでよい」という回答割合が,「単独世帯」の男女及び「夫婦+子供世帯」の男女で6割程度,「夫婦のみ世帯」の男女で7割程度である。介護をしている「単独世帯」の女性を除きいずれの家族類型の男女についても「減らしたい」という回答割合が「増やしたい」という回答割合より高く,「単独世帯」の男性において「減らしたい」という回答割合が特に高い(29.2%)(ただし,「単独世帯」については回答者数が少ないことに留意が必要である。)。

(「楽しむ・くつろぐ時間」についての希望)

「楽しむ・くつろぐ時間」については,男女ともほぼすべての類型において,「仕事等時間」「家事時間」「育児時間」又は「介護時間」と比較して「増やしたい」という回答割合が高く,特に,子供のいる人の回答割合が高い。

「夫婦+子供世帯」では,介護の要否を問わず「家族と楽しむ・くつろぐ時間」「ひとりで楽しむ・くつろぐ時間」については「増やしたい」という回答割合が男女ともに30~35%程度であり,「友人と楽しむ・くつろぐ時間」は男性が女性より「増やしたい」割合がやや低くなる。「ひとり親+子供世帯」や「単独世帯」(介護の要否を問わない)では,女性の方が男性より,すべての「楽しんだり,くつろいだりする時間」について「増やしたい」とする回答割合が高い。

「家族と楽しむ・くつろぐ時間」を「増やしたい」とする回答割合が最も高いのは,「ひとり親+子供世帯」の女性(38.4%)である。「友人と楽しむ・くつろぐ時間」を「増やしたい」とする回答割合が最も高いのも「ひとり親+子供世帯」の女性(37.5%)である。

「ひとりで楽しむ・くつろぐ時間」を「増やしたい」とする回答割合が最も高いのは,介護をしている単独世帯の女性(44.8%)であり,ついで「ひとり親+子供世帯」の女性(41.7%)である。母子家庭において特に現状より「楽しむ・くつろぐ時間」増加の希望が強いことがうかがわれる。

I-特-30図a 家族類型(男女別)ごとの1日当たりの家事・育児・介護時間と仕事等時間別ウインドウで開きます
I-特-30図a 家族類型(男女別)ごとの1日当たりの家事・育児・介護時間と仕事等時間

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I-特-30図a 家族類型(男女別)ごとの1日当たりの家事・育児・介護時間と仕事等時間

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I-特-30図a 家族類型(男女別)ごとの1日当たりの家事・育児・介護時間と仕事等時間

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(子供がいる女性の「家事時間」「育児時間」「仕事等時間」の配分についての希望)

第2節1.でみたとおり,子供がいる女性は同条件の男性より「家事時間」や「育児時間」が長い。仕事をしている場合には「仕事等時間」と「家事時間」「育児時間」の合計時間も長くなる。他方,仕事をしていない場合には仕事をしている場合よりさらに「家事時間」や「育児時間」が長くなる。こうした傾向を踏まえて,子供がいる女性に着目して,これらの時間の配分についての希望を,その就業状況別に見てみる。

「仕事等時間」については,家族類型・就業状況別を通じてすべての類型において「現状のままでよい」という回答割合が最も高いが,その回答割合は就業状況により異なる。「フルタイム」の人は,「現状のままでよい」という回答割合が「夫婦+ 子供世帯」で60.0%,「ひとり親+子供世帯」で54.4%であるが,「減らしたい」という回答割合も高く,特に「ひとり親+子供世帯」では4割近くにのぼる。「増やしたい」という回答割合は,他の就業状況より際立って低い。「短時間勤務」の人は,「現状のままでよい」という回答割合が「夫婦+子供世帯」で68.1%,「ひとり親+子供世帯」で60.5%である。「減らしたい」又は「増やしたい」という回答割合は,いずれも15~20%程度で拮抗しているが,「ひとり親+子供世帯」で「短時間勤務」の人は「増やしたい」という回答割合が最も高く22.1%である。「家事・通学・その他」の人は,「現状のままでよい」という回答割合が「夫婦+子供世帯」で81.8%,「ひとり親+子供世帯」で73.9%にのぼり,他の就業状況と比較して最も高い。

「家事時間」については,「仕事等時間」と比較すると,「夫婦+子供世帯」「ひとり親+子供世帯」のいずれについても,「短時間勤務」と「家事・通学・その他」の女性において「現状のままでよい」という回答割合が低く,「減らしたい」という回答割合が高い。また,「夫婦+子供世帯」「ひとり親+子供世帯」ともに,「短時間勤務」の女性が「減らしたい」という回答割合が他の就業状況の女性より高い。

「育児時間」については「現状のままでよい」という回答割合が7~8割程度にのぼり,「夫婦+子供世帯」の「家事・通学・その他」の女性を除くすべての類型において現状肯定度合いが最も高い時間となっている。「フルタイム」の女性は他の就業状況の女性より「増やしたい」という回答割合が高く,「家事・通学・その他」の人は,「減らしたい」という回答割合がやや高い。

全体的に見ると,いずれの類型,いずれの時間においても「現状のままでよい」という回答が過半数以上を占めるものの,「仕事等時間」を減らしたいという希望を持つフルタイムの人が3~4割に達すること,「家事時間」については就業状況や世帯類型にかかわらず減らしたいという希望を持つ人が3~4割前後いること,「育児時間」については「現状のままでよい」という回答が多数を占めていることが分かる。

I-特-31図 子供がいる女性の仕事等時間と家事・育児時間についての希望(就業状況別)別ウインドウで開きます
I-特-31図 子供がいる女性の仕事等時間と家事・育児時間についての希望(就業状況別)

I-特-31図[CSV形式:1KB]CSVファイル

(2)「家事・育児・介護」における「働き過ぎ」

第2節「1.家族類型ごとに見た状況」で見たとおり,女性については,「仕事等時間」は必ずしも長いとは言えず,「家事・育児・介護時間」が長い。特に小さな子供がいる女性は,仕事をしている場合でも,同じく小さな子供がいて仕事をしている男性より家事や育児の時間が圧倒的に長く,その結果「仕事等時間」,「家事時間」,「育児時間」及び「介護時間」の合計時間の長さは,仕事をしている「夫婦+子供(就学前)世帯」の女性が最も長かった。また,小さな子供がいる女性が仕事をしていない場合には,その分家事や育児の時間が長くなる。

加えて,家事や育児の時間が長いだけではなく,家事や育児をめぐるマネジメントに象徴される様々な責任の多くを女性が担っており,子供が成長してもその状況は変わらない。

以上のことから,「家事・育児・介護」における「働き過ぎ」が,女性の生活の質にどのように影響するかに着目する必要があると考えられる。ここでは,生活満足度とディストレス(抑うつ・不安)の程度から生活の質を見ることとする。

(育児時間の長さと生活満足度等との関係)

まず,育児時間の長さ別に生活満足度の状況を見てみる。

仕事をしている人について見ると,女性は「仕事のある日」の育児時間が「6時間超」の者,男性は同「3~4時間」の者において,満足寄りの回答割合が最も低い。仕事をしていない人は,男女いずれも育児時間「8時間超」の者が,満足寄りの回答割合が最も低い。

仕事をしている女性の「仕事のある日」においては育児時間が長くなるほど満足寄りの回答割合が低くなるとともに不満寄りの回答割合が高くなる傾向にある。しかし,仕事をしていない男女や仕事をしている男性においてはこのような傾向は認められず,仕事をしている女性の「仕事のない日」についても同様の傾向は認められない。

次に,育児時間の長さ別にディストレス(抑うつ・不安)の状況を見てみると,仕事をしている女性の「仕事のある日」においては,概ね育児時間が長いほどディストレスの高得点層が多いという傾向が認められる。

最も育児時間が長い区分の者(仕事をしている人は「6時間超」の区分,仕事をしていない人は「8時間超」の区分)は,ディストレスの高得点層(「38点以上」)が最も多い(ただし,仕事をしている女性の仕事のない日,仕事をしていない男性には当てはまらない)。

以上のことから,仕事をしている女性の「仕事のある日」の育児時間が長くなることが,生活の質を下げることにつながっている可能性があると考えられる。

I-特-32図 「育児時間」の長さと生活満足度との関係(男女別)別ウインドウで開きます
I-特-32図 「育児時間」の長さと生活満足度との関係(男女別)

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I-特-33図 「育児時間」の長さとディストレス(抑うつ・不安)との関係(男女別)別ウインドウで開きます
I-特-33図 「育児時間」の長さとディストレス(抑うつ・不安)との関係(男女別)

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(介護時間の長さと生活満足度等との関係)

介護時間の長さ別に生活満足度の状況を見てみる。

仕事をしている人について見ると,女性は,概ね介護時間が長いほど生活満足度が下がる傾向がある。男性も,仕事のある日については,回答者数が少ない「4~6時間」の者を除くと,介護時間が長いほど生活満足度が下がる傾向がある。

次に,介護時間の長さ別にディストレス(抑うつ・不安)の状況を見てみる。

仕事をしている人について見ると,男女とも,仕事のある日については,回答者数が少ない「4~6時間」の者を除くと,介護時間が長いほどディストレスの高得点層が多い傾向がある。仕事のない日については,男女とも,極端に介護時間が長い(「4~6時間」)とディストレスの高得点層が多くなる。

以上のことから,男女とも,仕事をしている人の仕事のある日において,介護時間が一定程度長くなることや仕事のない日に極端に介護時間が長くなることが,生活の質を下げることに繋がっている可能性があると考えられる。

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I-特-34図 「介護時間」の長さと生活満足度との関係(男女別)

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I-特-35図 「介護時間」の長さとディストレス(抑うつ・不安)との関係(男女別)別ウインドウで開きます
I-特-35図 「介護時間」の長さとディストレス(抑うつ・不安)との関係(男女別)

I-特-35図[CSV形式:2KB]CSVファイル

(3)就業継続や両立等の難しさ

1育児をしている場合

(就業継続等の難しさ)

第1節「2.仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)をめぐる状況」で見たとおり,第1子出産前後に依然5割弱の女性が退職している。平成30(2018)年に実施された調査10によると,第1子の妊娠・出産を機に仕事を辞めた理由としては,「子育てをしながら仕事を続けるのは大変だったから」が最も高く過半数の者が理由に挙げている。続けて「子育てに専念したかったから」,「自分の体や胎児を大事にしたいと考えたから」を4割以上の者が挙げている。「夫や家族などの家事・子育てのサポートが得られなかったから」との回答は,「子どもの体調の悪いときなどに休むことが多かったから」「保育所など,子どもの預け先を確保できなかったから」,「夫や家族が仕事を続けることに賛成しなかったから」と同程度でいずれも1割前後の者が挙げている。

また,上位に挙げられている「子育てをしながら仕事を続けるのは大変だったから」「自分の体や胎児を大事にしたいと考えたから」という理由は,「夫婦+子供(就学前)世帯」の女性が「仕事等時間」,「家事時間」,「育児時間」及び「介護時間」の合計時間が最も長いこと(第2節「1.家族類型ごとに見た家事・育児・介護時間と仕事等時間」参照)と関連があると考えられる。

I-特-36図 第1子の妊娠・出産を機に仕事を辞めた理由(子供がいる25~44歳の既婚女性)別ウインドウで開きます
I-特-36図 第1子の妊娠・出産を機に仕事を辞めた理由(子供がいる25~44歳の既婚女性)

I-特-36図[CSV形式:1KB]CSVファイル

同じ調査で,既婚女性と子どもが欲しい気持ちがある未婚女性に,ライフステージに応じてどのような働き方が理想的だと思うかをたずねたところ,「正社員でフルタイム勤務」を希望する割合は,第一子出産までが6割程度と最も高いが,子供が生まれた後は末子の成長とともに割合が上昇し,末子が未就園児の時は既婚者・未婚者いずれも約1割であるのに対し,末子が中学生以降になると4~5割程度まで回復している。

しかしながら,実際の働き方は,末子が中学生以降であっても正社員フルタイム勤務は2割弱にとどまっている。また,希望どおりに,末子の成長とともに実際に正社員フルタイム勤務の割合が高くなるのではなく,末子が保育園児・幼稚園児段階でいったん上昇した割合が,末子が小学生段階で末子が未就園児段階と同等まで落ち込んでいる。その際「非正社員で短時間勤務」が増えていることから,末子が小学生になった段階は,「正社員でフルタイム勤務」を続けたいと思っていても,現実には「非正社員で短時間勤務」という働き方に切り替えざるを得ないという状況が生じている可能性がある。

第2節「3.(1)育児の実施状況」で見たとおり,子供の成長に応じて,必ずしも育児・家事負担が軽くなるものではなく,希望していた通りには働くことができなくなっている可能性も考えられる。

I-特-37図 ライフステ-ジに応じた働き方(希望の働き方/実際の働き方)別ウインドウで開きます
I-特-37図 ライフステ-ジに応じた働き方(希望の働き方/実際の働き方)

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10株式会社明治安田総合研究所「25~44歳の子育てと仕事の両立―出産・子育てに関する調査より―」(平成30年6月)

2介護をしている場合

(介護離職の状況)

介護をしている人の離職割合は1~2割程度とされる11

一方,介護・看護を理由として過去1年以内に離職した者の状況を,総務省「就業構造基本調査」で見ると,平成29(2017)年には9.9万人となっており,その内訳は,女性7.5万人,男性2.4万人であり,女性が76%を占める。離職者総数は減少しておりその主たる要因は女性の離職者数が平成14(2002)年から平成29(2017)年までに約3割減少している点にあると考えられる。その結果,離職者に占める女性の割合も少しずつ低下してはいるものの,依然として介護・看護を理由に離職する者の多くは女性である。

I-特-38図 介護・看護を理由とした離職者数の推移(男女別)別ウインドウで開きます
I-特-38図 介護・看護を理由とした離職者数の推移(男女別)

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11独立行政法人労働政策研究・研修機構「介護者の就業と離職に関する調査」(平成28年5月)

(両立をめぐる困難・不安)

「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」(平成24年度厚生労働省委託調査・三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)によると,40代及び50代の就労者を対象に,仕事と介護を両立することにどの程度不安を感じるか尋ねたところ,実際に介護が必要な親がいるか否かに関わらず,「非常に不安を感じる」又は「不安を感じる」と回答する人が男女ともに7割以上に上る。不安を感じている人の具体的な不安内容を見ると,介護が必要な親がいる人は「自分の仕事を代わってくれる人がいないこと」(介護を担っている就労者で33.5%,介護を担っていない就労者で30.7%),「介護休業制度等の両立支援制度を利用すると収入が減ること」(介護を担っている就労者で25.1%,介護を担っていない就労者で20.8%),「介護休業制度等の両立支援制度がないこと」(介護を担っている就労者で17.5%,介護を担っていない就労者で14.7%)が多い。介護が必要な親がいない就労者においては「介護サービスや施設の利用方法がわからないこと」(25.8%)も多い。

また,離職割合が1~2割程度にとどまっていることは必ずしも両立しやすいことを意味しておらず,就業を継続し出勤はしていても介護疲労の蓄積によって思うように仕事ができないという問題が生じているとの指摘もある。特に,男性は介護負担が重くてもなかなか仕事を休まず,健康状態の悪化が業務上の過失や事故につながる可能性が高いことも指摘されている12

12独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究報告書№192(平成29年3月)「育児・介護と職業キャリア―女性活躍と男性の家庭生活―」

コラム3 男性介護者への支援

2 より良いバランス・分担に向けた視点

(1)男性の「家事・育児・介護」参画と個人や家庭の対応力向上

(家庭の対応力を高める男性の「家事・育児・介護」への参画)

これまで見てきたとおり,「家事・育児・介護」の負担が女性に偏っている現状があり,生活満足度等の生活の質への影響,女性の就業継続の難しさや仕事との両立の難しさにつながっている。このような状況を改善するためには,男性の「家事・育児・介護」への参画が必要であるが,その際重要なことは,男性に期待されている「仕事」の在り方や男性自身の「仕事」への向き合い方の変革と併せて男性の「家事・育児・介護」への参画を進めていく必要があるということである。現状では,男性は,育児と介護の負担が重畳的に発生した場合に初めて「仕事等時間」を短縮し「家事・育児・介護時間」を増やすという生活の変革を実行している(実行することが可能になっている)。しかし,今後は,結婚や子供の誕生というライフイベントに応じて,家庭における家事や育児の負担をどのように分担するかを,男性も女性とともに考えること,その際,「仕事」による稼得役割を家族間でどのように分担するかについても併せて考え,家族のライフプランにそって,男性も家事や育児,さらには介護に積極的に参画していくことが求められる。

また,女性の「仕事」による稼得役割・機会を確保し,男性が「家事・育児・介護」という家族ケアを担えるようにしておくことは,家庭単位で見た場合のリスクヘッジという側面もあると考えられる。すなわち,夫が今までどおりに仕事をすることが出来なくなる事態や,妻が今までどおりに「家事・育児・介護」をすることが出来なくなる事態が発生した時の対応力を高めることにもつながる。

(男性にとっての意義)

家庭にとってだけでなく,個々の男性自身にとっても「家事・育児・介護」への参画は重要である。特に若い世代で積極的に育児をしたいという希望を持つ人が出てきている13。また,家庭での家事・育児・介護等の経験が,仕事にとっても,ひいては人生にとってプラスになったと考える人も多い。

さらに,介護の担い手の多様化が進み,男性が介護者となることが増えている。「介護」の負担は多くの場合中高年期に生じている。極端に「仕事」に偏った生活を送り「家事」や「育児」といった家族のケアに係る経験が乏しい場合,中高年になって初めて,「介護」という家族のケアに直面し,働き方も制約される事態になることで,戸惑いやストレスを生じやすいと考えられる。男性も,女性と同様により早い時期から様々なライフイベントを機に自身の生活の時間配分を組み換え,「仕事」以外の役割も果たせるようになることは,中高年期になって突然生活の大変化にさらされるリスクを軽減することにもつながると考えられる。

13「仕事と家庭の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(平成28年度厚生労働省委託調査・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)によると,20~40代の子ども(末子が3歳未満)を持つ男性の正社員・職員を対象に調査したところ,育児休業を取得しなかった男性のうち,育児休業を取得したかったと答えた者は34.0%となっている。

コラム4 男性従業員の育児参加に積極的な企業の例1

コラム5 男性従業員の育児参加に積極的な企業の例2

(2)「家事・育児・介護」における「働き過ぎ」を防ぐ視点

「働き方改革」は,働く人々が,個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革である。なかでも,長時間労働の是正は,個人のワーク・ライフ・バランスを改善することに結び付く。

「家事・育児・介護」における働き過ぎも,個人や家族の生活の質を悪化させるおそれがあるほか,仕事に就いたり仕事を続けたりする際の妨げとなっている。「家事・育児・介護」の負担が女性に偏っている現状において,女性の「家事・育児・介護」における「働き過ぎ」を防ぐという視点からも,男性の家事や育児等への参画が必要である。

一方,特に小さな子供がいる家庭やひとり親家庭では,女性,男性にかかわらず,「家事・育児時間」と「仕事等時間」の合計時間が長く負担も大きい。また,介護については,「介護時間」の長さによる負担や仕事との両立困難は,もはや男女にかかわらず直面する問題といえる。家庭内で分担するのみならず,担い手の多様化や多様な外部サービスの活用等が重要となっている。

しかしながら,日本の育児時間は諸外国と比較して際立って長く(第2節コラム1参照),「第2節5.外部サービスの利用」で見た通り,家事支援サービスや育児支援の利用は低水準にとどまり,一般的な利用からは程遠い状況である。介護についても外部支援に頼らない介護をしている場合が多いことがうかがわれる。

今後は,外部サービスもより柔軟に取り入れることによって,家事・育児・介護はもとより仕事への取り組み方も含めた生活設計の選択肢を増やすとともに,「家事・育児・介護」の過度な負担に起因するディストレスを改善し生活の質を向上させることが期待される。

コラム6 「シェアリングエコノミーを活用した家事支援サービス」