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第1節 「家事・育児・介護」と「仕事」のバランスをめぐる推移
この節では,個人や家庭において,「家事・育児・介護」と「仕事」のバランスがどのように推移してきたのかを把握するため,まず「家事・育児・介護」に使う時間(以下「家事・育児・介護時間」とする。)と「仕事」に使う時間(以下,通勤・通学及び学業に使う時間を含み「仕事等時間」とする。)の推移を概観する。その上で,労働時間や休暇取得の状況,女性の就業継続などの「仕事と生活の調和」(ワーク・ライフ・バランス(WLB))をめぐる状況の変化や,生活の変化の背景ともなる家族・世帯の状況の変化について見ていく。最後に,これらの関係を考察する。
1 「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の推移
最初に,「家事・育児・介護時間」や「仕事等時間」の一日あたりの配分が,過去数十年間にどのように推移してきたかを概観してみる。
I-特-1図 男女別に見た家事・育児・介護時間と仕事等時間の推移(週全体平均)(年齢階級別,昭和51年→平成28年)
(男女別に見た「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の推移)
「家事・育児・介護時間」の推移を男女別に見ると,女性(年齢計)は,平成8(1996)年以降の15年間約215分(3時間35分)と横ばいで推移し直近の平成28(2016)年に208分(3時間28分)とわずかに減少した。また年齢によって,数値が大きく異なるとともに昭和51(1976)年以降の増減の推移も異なっている。一方男性(年齢計)は,平成8(1996)年から平成28(2016)年にかけて24分から44分に増加している。また,年齢によって,数値や昭和51(1976)年以降の推移に女性のように大きな差異はない。男性の「家事・育児・介護時間」を女性と比較した場合,平成8(1996)年当時には約1割であったものが,平成28(2016)年では約2割となったものの,依然として女性より圧倒的に低い水準で推移している。
「仕事等時間」は,女性(年齢計)は,平成8(1996)年以降200~220分(3時間20~40分)前後で横ばいであるが,年齢による数値の差は「家事・育児・介護時間」以上に大きく,昭和51(1976)年以降の増減の推移も年齢によって異なっている。男性(年齢計)は,平成8(1996)年当時の404分(6時間44分)から平成28(2016)年には368分(6時間8分)まで減少している。59歳までの年齢層でみると女性ほど年齢による差は大きくないが,「家事・育児・介護時間」よりは年齢によって数値や推移が異なる。女性の「仕事等時間」を男性と比較した場合,平成8(1996)年当時には5割強であったが,平成28(2016)年には6割弱と比率はわずかに上昇している。
(男女の年齢階級別に見た「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の推移)
女性のうち「家事・育児・介護時間」が最も長い年齢階級は,昭和56(1981)年以降は一貫して30~39歳であり,昭和51(1976)年当時は309分(5時間9分)であったところ,平成3(1991)年に341分(5時間41分)まで増加した後減少に転じ,平成28(2016)年には273分(4時間33分)となっている。
「家事・育児・介護時間」が大きく減少したのは25~29歳であり,昭和51(1976)年当時は318分(5時間18分)で全年齢層で最長であったところ,平成28(2016)年には156分(2時間36分)とほぼ半減し20~24歳に次いで短くなっている。女性で「家事・育児・介護時間」が増加傾向にあるのは65歳以上のみで,昭和51(1976)年当時の158分(2時間38分)から平成28(2016)年には219分(3時間39分)となっている。
40~49歳,50~59歳及び60~64歳は横ばいであり,平成28(2016)年ではそれぞれ257分(4時間17分),242分(4時間2分),257分(4時間17分)となっている。
一方,男性の「家事・育児・介護時間」は年齢による相違が少なく,昭和51(1976)年当時は,どの年齢も10~20分弱の範囲にあったのが,平成28(2016)年では,21分(20~24歳)から65分(65歳以上)の範囲で分布している。
また,女性の「仕事等時間」については,昭和51(1976)年から平成13(2001年)までは20~24歳及び25~29歳を除き減少傾向にあり,平成13(2001)年以降は65歳以上を除き概ね増加傾向にある。25~29歳は変化が特に大きく昭和51(1976)年の199分(3時間19分)から平成28(2016)年には337分(5時間37分)と1.7倍に増加している。平成13(2001)年以降は30~39歳も大きく増加し,平成13(2001)年の198分(3時間18分)から平成28(2016)年には249分(4時間9分)となっている。平成28(2016)年では,30~50代が250分(4時間10分)前後に集中している。60~64歳は減少傾向だったのが平成18(2006)年の131分(2時間11分)を底に反転し,平成28(2016)年には165分(2時間45分)となっている。
男性の「仕事等時間」は,30~39歳及び40~49歳が最も長く期間を通じて500分(8時間20分)前後で横ばいである。次いで「仕事等時間」が長いのは,25~29歳,50~59歳であり平成8(1996) 年以降は450 ~480分(7時間30分~8時間)前後で推移している。もっとも25~29歳は20~24歳とともに昭和61(1986)年から平成13(2001)年に減少傾向であったのに対して,50~59歳は期間を通じて横ばいである。昭和51(1976)年以降,最も顕著な減少傾向を示していた60~64歳は,平成13(2001)年に反転して急激に増加し,平成28(2016)年では334分(5時間34分)となっている。
なお,平成28(2016)年時点では,20~59歳の年齢階級における「仕事等時間」の特徴は男女で対照的であり,女性では20代が長く30代から50代は短いが,男性では逆に30代から50代が上位を占め20代が短くなっている。また,20~24歳の女性の「仕事等時間」を同年齢層の男性との比較でみると,昭和51(1976)年当時の75.1%から平成28(2016)年には93.5%にまで上昇するなど,男女差が大きく縮小している。
(夫婦の状況)
夫婦の「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の推移について,妻の就業状況(共働き世帯か否か)による相違を見てみる(I-特-2図)。
I-特-2図 夫婦の家事・育児・介護時間と仕事等時間の推移(週全体平均,夫婦と子供の世帯)(共働きか否か別,昭和61年→平成28年)
妻の「家事・育児・介護時間」は,共働き世帯においては期間を通じて250~260分(4時間10~20分)の間で推移しているが,夫有業・妻無業世帯においては444分(7時間24分)から413分(6時間53分)に減少している。
夫の「家事・育児・介護時間」は,妻の就業状況により差が無く,昭和61(1986)年当時の20分弱から増加して平成28(2016)年には40分前後となっている。もっとも共働き世帯の妻と比較しても圧倒的に低水準という状況は変わらない。
共働き世帯の妻の「仕事等時間」は昭和61(1986)年当時の349分(5時間49分)から減少し,平成28(2016)年には296分(4時間56分)となっている。共働き世帯の夫の「仕事等時間」は平成13(2001)年まで減少傾向だったが反転し,平成28(2016)年には490分(8時間10分)となっている。夫有業・妻無業世帯の夫の「仕事等時間」は昭和61(1986)年の497分(8時間17分)から減少し,平成28(2016)年には455分(7時間35分)となっている。
「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の合計時間については,期間を通じて,共働き世帯の妻が最も長い。次いで,共働き世帯の夫と夫有業・妻無業世帯の夫が同水準である。
(6歳未満の子供を持つ夫婦の状況)
さらに,6歳未満の子供を持つ夫婦について,妻の就業状況(共働き世帯か否か)による相違を見てみる(I-特-2図(参考))。
妻の「家事・育児・介護時間」は,共働き世帯において平成18(2006)年当時の337分(5時間37分)から平成28(2016)年には370分(6時間10分)に,夫有業・妻無業世帯において同じく520分(8時間40分)から565分(9時間25分)にいずれも増加している。
夫の「家事・育児・介護時間」は,妻の就業状況により差が無く,平成18(2006)年当時の60分弱から微増し,平成28(2016)年には80分前後となっている。共働き世帯においても夫は妻の2割程度の低水準であるという状況は,期間を通じて変わらない。
共働き世帯の妻の「仕事等時間」は期間を通じて240~260分(4時間~4時間20分)前後である。夫の「仕事等時間」は妻の就業状況にかかわらず520~540分(8時間40分~9時間)前後である。
「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の合計時間については,6歳未満の子供を持つ夫婦においても,期間を通じて,概ね共働き世帯の妻が最も長く,次いで,共働き世帯の夫,夫有業・妻無業世帯の夫が同水準である。ただし,夫有業・妻無業世帯の妻の「家事・育児・介護時間」は一貫して増加していることに伴い,同世帯の夫の「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の合計時間との差は,平成28(2016)年では44分であり,平成23(2011)年以前の同世帯の夫の合計時間との差が60~70分前後であることと比較して短くなっている。
6歳未満の子を持つ夫婦は,夫婦全体と比較すると,妻はもともと長い「家事・育児・介護時間」が大幅に長くなり,夫は高水準の「仕事等時間」がさらに長くなるとともに「家事・育児・介護時間」がわずかに長くなっており,妻は「家事・育児・介護」に,夫は「仕事」に,より多くの時間を費やしていることがうかがわれる。
2 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス(WLB))をめぐる状況
(労働時間及び休暇取得の状況)
週間就業時間60時間以上の雇用者の割合を男女別に見ると,特に,子育て期にある30代及び40代の男性において,女性や男性の全年齢平均と比べて高い水準となっている(I-特-3図)。
I-特-3図 週間就業時間60時間以上の雇用者の割合の推移(男女計,男女別)
年間就業日数が200日以上の就業者について,週間就業時間60時間以上の就業者の割合を正規の職員・非正規の職員・自営業主別に見ると,平成19(2007)年以降,男女ともにいずれの就業形態においても減少傾向である。男女で比較するといずれの就業形態においても,男性の方が週間就業時間60時間以上の割合が高くなっている(I-特-4図)。また,年間就業日数200日以上かつ週間就業時間60時間以上の就業者数は,平成29(2017)年において正規の職員は女性約64万人,男性約315万人,非正規の職員は女性約13万人,男性約22万人,自営業主は女性約9万人,男性約68万人となっている1。
I-特-4図 年間就業日数200日以上かつ週間就業時間60時間以上の就業者の割合の推移(男女別)
パートタイム労働者を除く常用労働者の年次有給休暇の取得率を見ると,平成4(1992)年の56.1%をピークに平成16(2004)年の46.6%まで低下傾向にあったが,平成26(2014)年以降は上昇傾向が続き,平成30(2018)年は52.4%まで回復している。男女別に見ると,男性は女性より低く,平成30(2018)年の取得率は,女性58.0%,男性49.1%となっている(I-特-5図)。
1「総務省「就業構造基本調査」(平成29年)
(女性の就業継続)
一般労働者の勤続年数の推移を男女別に見ると,10年以上勤続している者の割合は,男性が5割程度で推移しているのに対して,女性は,平成11(1999)年は30.9%であったが,令和元(2019)年は37.8%まで増加している(I-特-6図)。
第1子出産前後に女性が就業を継続する割合は上昇している。これまでは,4割前後で推移してきたが,最新の調査では約5割へと上昇した。特に,育児休業を取得して就業継続した女性の割合は,昭和60(1985)~平成元(1989)年の5.7%(第1子出産前有職者に占める割合は9.2%)から28.3%(同39.2%)へと大きく上昇した(I-特-7図)。
「正規の職員」と「パート・派遣」に分けて見ると,平成22(2010)年~平成26(2014)年に第1子を出産後に就業を継続した者の割合は,「正規の職員」では69.1%(うち育児休業制度利用者の割合は59.0%)であるのに対し,「パート・派遣」では25.2%(うち同10.6%)にとどまっている(I-特-8図)。
(小さな子供のいる夫婦の家事・育児の実施状況)
6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児の実施状況を,1日当たりの行動者率2で見ると,「家事」については,妻・夫共に有業(共働き)の世帯で約8割,夫が有業で妻が無業の世帯で約9割の夫が行っておらず,「育児」については,妻の就業状態にかかわらず,約7割の夫が行っていない(I-特-9図)。
I-特-9図 6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連行動者率
2行動者率は,該当する行動をした人の割合(%)。社会生活基本調査では15分単位で行動を報告することとなっている15分間にいくつかの行動をした場合は,そのうち1番時間が長かったものを報告することとなっているため,短時間の行動や他の行動と並行して育児や家事を行った場合は報告されない可能性があることに留意が必要。
3 家族・世帯等の状況
(世帯構造の変化)
世帯の家族類型別割合について昭和55(1980)年から平成27(2015)年の変化を見ると,「夫婦と子供」から成る世帯および「3世代等」の世帯の割合が低下し,「単独」世帯及び「夫婦のみ」の世帯の割合が上昇している。ひとり親と子供の世帯(「女親と子供」と「男親と子供」の合計)の割合も上昇し,昭和55(1980)年には5.7%であったところ,平成27(2015)年には8.9%に達しており「3世代等」の世帯(8.6%)を上回っている(I-特-10図a)。
こうした構成割合の変化がどの年齢で生じているのかを見るため,年齢階級別の家族類型別割合を平成7(1995) 年と平成27(2015)年とで比較してみる(I-特-10図c)。世帯の家族類型別割合(全体)の変化で見られた,「夫婦と子供」から成る世帯および「3世代等」の世帯の割合の低下と「単独」世帯の割合の上昇の傾向は,30代,40代,50代で顕著である。なかでもこれらの世代においては「夫婦と子供」から成る世帯割合の低下が顕著であり,30代及び50代では10%ポイント程度,40代は,6.2%ポイント低下している。
「単独」世帯割合の上昇は特に顕著であり,いずれの年齢階級においても上昇しているが,特に30代,40代,50代においていずれも10%ポイント以上上昇している(I-特-10図c)。
「単独」世帯については,高齢層の世帯数の増加も顕著である(I-特-10図d)。80歳以上での構成割合の上昇は7%ポイントだが,世帯数の変化と併せて見ると,特に女性において,70代及び80歳以上の高齢者層における単独世帯数の増加が著しい。高齢者人口の増加に伴い配偶者と離別・死別した者が増加していることの影響が考えられる。男性においては60代の単独世帯数の増加が顕著であるが,これには50歳時の未婚率が女性に先行して上昇してきたことの影響も考えられる。
30~50代の「夫婦と子供」から成る世帯の割合低下及び「単独」世帯の割合上昇と単独世帯数の増加は,未婚率が上昇していることが影響していると考えられる。50歳時の未婚割合を見ると,男女とも平成2(1990)年以降に上昇幅が大きくなっており,平成27(2015)年では女性は14.1%,男性は23.4%となっている(I-特-10図b)。
(共働き世帯の増加)
昭和55(1980)年以降,夫婦共に雇用者の共働き世帯は年々増加し,平成9(1997)年以降は共働き世帯数が男性雇用者と無業の妻から成る世帯数を上回っており,特に平成24(2012)年頃からその差は急速に拡大している。令和元(2019)年には,雇用者の共働き世帯が1,245万世帯,男性雇用者と無業の妻から成る世帯が582万世帯となっている(I-特-11図)。
共働き世帯数を妻の就業時間別に見てみると,妻がフルタイム(週間就業時間35時間以上)の共働き世帯は平成5(1993)年以降,緩やかに漸減傾向で推移したのち,平成27(2015)年以降は上昇傾向である。直近の令和元(2019)年の世帯数(495万世帯)は,過去最多水準で500万世帯以上であった平成2(1990)年から平成6(1994)年の世帯数に迫っている(I-特-12図)。
一方,妻がパート(週間就業時間35時間未満)の共働き世帯数は昭和60(1985)年以降,概ね一貫して上昇しており,直近の令和元(2019)年の世帯数(682万世帯)は,昭和60(1985)年当時の世帯数(229万世帯)より453万世帯増加し,当時の約3倍である(I-特-12図)。
直近の令和元(2019)年の共働き世帯数は昭和55年(1980)年と比較すると631万世帯増加しているが(I-特-11図),増加の大部分は,妻がパートの共働き世帯数の増加によるものであるといえる。
(家庭生活等についての意識の変化)
「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という考え方(性別役割分担意識)に反対する者の割合(「反対」+「どちらかといえば反対」)は,男女とも長期的に増加傾向にある。平成28(2016)年の調査では,男女ともに反対する者の割合が賛成する者の割合(「賛成」+「どちらかといえば賛成」)を上回り,直近の令和元(2019)年の調査では,反対する者の割合が女性で63.4%,男性で55.7%となっている(I-特-13図)。
I-特-13図 「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という考え方に関する意識の変化(男女別)
また,直近の令和元(2019)年の結果を,男女それぞれ年齢別に見ると,反対する者の割合が高い年代は, 女性では18 ~ 29歳(69.4%),50~59歳(68.2%),60~69歳(68.1%),男性では30~39歳(70.2%),18~29歳(65.8%),50~59歳(60.8%)となっている(I-特-14図)。
I-特-14図 「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という考え方に関する意識の現状(男女別・年齢階級別)
一般的に女性が職業をもつことについては,昭和59(1984)年には,「子供ができても,ずっと職業を続ける方がよい」と考える人(以下「職業継続パターンがよいと考える人」という。)と「子供ができたら職業をやめ,大きくなったら再び職業を持つ方がよい」と考える人(以下「再就業パターンがよいと考える人」という。) で, 女性は65.4%,男性は51.8%であったが,令和元(2019)年には,女性83.4%,男性79.1%に増加している(I-特-15図)。
「職業継続パターンがよいと考える人」と「再就業パターンがよいと考える人」の回答割合について見ると,職業継続パターンがよいと考える人の割合が増え,再就業パターンがよいと考える人の割合は減っている。女性のうち「職業継続パターンがよいと考える人」の回答割合は,平成24(2012)年時点で「再就業パターンがよいと考える人」の回答割合を上回り,直近では6割を超えている。男性では「職業継続パターンがよいと考える人」の回答割合は,平成14(2002)年時点で「再就業パターンがよいと考える人」の回答割合を上回り,直近で約6割に達している(I-特-15図)。
4 WLBや家族・世帯等の状況と「家事・育児・介護時間」・「仕事等時間」の変化との関係
1.で概観した「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の推移の背景には,「2.仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス(WLB))をめぐる状況」や「3.家族・世帯等の状況」の変化等があるものと考えられる。
女性の「家事・育児・介護時間」は,昭和の終わりから平成の始め頃を境に25~29歳,30~39歳において減少したが,結婚している女性にあっては期間を通じて変わらない(有業の妻)か,微減(無業の妻)にとどまっており,さらに結婚していて6歳未満の子を持つ女性にあっては,有業・無業を問わず増加している。このことから,女性における「家事・育児・介護時間」の減少は,晩婚化や未婚化,相対的に当該時間が短い高齢層の増加によるものであって,結婚しさらに子供を持つことで,共働きであろうが専業主婦であろうが,「家事・育児・介護時間」は大きくは変わっていないかむしろかつてより増加していることがうかがわれる。「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という考え方(性別役割分担意識)に反対する者の割合は賛成の割合を上回り,直近では6割程度になっているが,実際の行動としては,妻が「家庭を守る」役割を果たしているという夫婦がほとんどであると評価できる。
男性の「家事・育児・介護時間」は,ほとんどの年齢層において低水準であるが増えている。単独世帯の増加により自分で家事をしなければならない男性が年齢にかかわらず増えていることや,相対的に当該時間が長めである高齢層の増加の影響が考えられる。また,結婚している男性の中で6歳未満の子を持つ場合は,もともと男性の中では「家事・育児・介護時間」が長めであり,かつ共働き世帯か否かにかかわらず近年増加もしている。しかしながら,女性と比較すると圧倒的に低水準である状況は変わらず,妻の有業・無業にかかわらず時間量にはほとんど差が無い。
育児によって仕事と生活の調和が大きな課題になると思われる6歳未満の子を持つ共働き世帯に着目すると,その妻は「仕事等時間」を多少削減しつつ「家事・育児・介護時間」を大幅に増加させて,育児を機に仕事と生活のバランスを大きく変えていることがうかがわれる。これに対して夫は,「仕事等時間」は変わらず,「家事・育児・介護時間」は25分増えていることから,男性においては育児をきっかけに仕事と生活のバランスを見直すのではなく,「仕事等時間」は削れない(むしろ増える)中で,「家事・育児・介護時間」も可能な範囲で増やそうとしている状況にあると考えられる。夫婦ともこのような傾向は最近10年間において基本的に変わっていない。
女性の「仕事等時間」は,65歳以上を除き増加しており,平成8(1996)年当時男性の5割程度だったものが平成28(2016)年には6割程度となっている。もっとも年齢層別に女性の「仕事等時間」を同年齢層の男性との比較でみると,20~24歳では1.で前述したとおり昭和51(1976)年当時の75.1%から平成28(2016)年には93.5%になり,25 ~ 29歳でも同じく41.5 % から74.9%に上昇しているものの,その他の年齢層では昭和51(1976)年当時も平成28(2016)年も40~50%前後で大きな変化はない。一方で「共働き」の妻の「仕事等時間」は減少している。このことは,女性の「仕事等時間」の増加も晩婚化や未婚化によるものであること,また近年の共働き世帯数の増加も,ほとんどが,妻は短時間勤務の就業であることが背景にあると考えられる。
男性の「仕事等時間」は全体では減少しているが,30代40代は期間を通じて500分(8時間20分)前後で横ばいであり25~29歳,50代は,ここ20年は450~480分(7時間30分~8時間)で推移している。6歳未満の子を持つ場合,妻の有業・無業にかかわりなく520~530分(8時間40分~8時間50分)前後であり,これは共働きの妻の約2倍である。現役世代の夫婦で見た場合,仕事をする妻は増えたがその場合のほとんどが短時間勤務であり,妻が仕事をする分,夫が仕事を減らしている訳ではない。夫も妻も「外で働く」ようになったが,働く時間は夫の方が圧倒的に長く,特に子育て期の男性の仕事負担は重い。その結果,稼得役割の多くを夫が担うという分担は大きく変わっていないと評価できる。