特集 「家事・育児・介護」と「仕事」のバランス~個人は,家庭は,社会はどう向き合っていくか

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特集 「家事・育児・介護」と「仕事」のバランス~個人は,家庭は,社会はどう向き合っていくか

これまで,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)における取組では,個々人の,働き過ぎ防止による健康の確保や仕事と家庭の両立などに着目した取組がなされてきた。

一方,我が国では,女性が「家事・育児・介護」の多くを担っている現状の中で,「仕事」での働き過ぎだけでなく,家庭における「家事・育児・介護」での働き過ぎの影響も考える必要がある。また,共働き世帯の増加など家族の在り方が変化する中で,「家事・育児・介護」において男性が主体的な役割を果たしていくことがますます重要になっている。

そこで,本年の特集では,「家事・育児・介護」に多くの時間を割いている人にとってのバランスをめぐる状況や家庭内での「家事・育児・介護」の分担に焦点を当て,あらゆる男女にとってのバランスの推移や現状,課題を整理することにより,「家事・育児・介護」と「仕事」のより良いバランスを考え,見直してみることの意義や重要性を示すとともに,各個人にとってだけでなく,各家庭にとって,さらには社会も含めた最善の分担や配分を考えていく材料を提供することを目指した。

まず,第1節では,「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の数十年間の推移を男女別・年齢別等で分析した。その際,労働時間や休暇取得の状況,女性の就業継続などのワーク・ライフ・バランスをめぐる状況や,生活変化の背景ともなる家族・世帯の状況の変化についても見ていき,「家事・育児・介護時間」と「仕事等時間」の推移との関係を考察した。

次に,第2節では,多様化した家族類型ごとに,また子供の年齢別に,「家事」「育児」「介護」「仕事」時間・実施頻度を把握している。また時間量では把握できない「見えない家事」ともいわれる家事・家庭のマネジメントについても,夫婦間の分担状況を分析した。さらに,小さな子供のいる夫婦,介護が必要な者がいる家族に焦点を絞り,時間の長短のみならず,実施している内容や頻度にも着目して,バランスや分担を掘り下げている。

最後に,第3節では,生活時間の配分についての希望を家族類型や育児・介護の負担の有無別に分析するとともに,「育児」「介護」時間の長さと生活満足度やディストレス(抑うつ・不安)の関係を把握し,生活の質への影響を分析した上で,より良いバランスや分担を実現するための視点を整理した。

特集のポイント


第1節 「家事・育児・介護」と「仕事」のバランスをめぐる推移

  • 「家事・育児・介護時間」の推移を男女の年齢階級別に見ると,女性は30代が昭和56(1981)年以降一貫して最長。25~29歳は大きく減少。40代,50代,60~64歳は横ばいであるが,65歳以上のみ増加傾向。男性はどの年齢も10~20分弱の範囲にあったのが,平成28(2016)年では21分(20~24歳)から65分(65歳以上)の範囲で分布。
  • 「仕事等時間」の推移を男女の年齢階級別に見ると,女性は25~29歳の変化が特に大きく昭和51(1976)年の3時間19分から平成28(2016)年には5時間37分と1.7倍に増加。平成13(2001)年以降は30代も大きく増加(3時間18分→平成28年は4時間9分)。男性は30代及び40代が最も長く,期間を通じて8時間20分前後で横ばい。
  • 6歳未満の子供を持つ夫婦における状況は,妻の「家事・育児・介護時間」は共働き世帯,夫有業・妻無業世帯のいずれも増加している。共働き世帯の妻の「仕事等時間」は4時間~4時間20分で,夫の5割程度。夫の「家事・育児・介護時間」は妻の就業状況による差が無い。「仕事等時間」は妻の就業状況にかかわらず8時間40分~9時間前後。妻は「家事・育児・介護」に,夫は「仕事」に多くの時間を使っている状況は変わらない。
  • 世帯の家族類型別割合の推移(昭和55(1980)年→平成27(2015)年)は,「夫婦と子供」から成る世帯及び「3世代等」の世帯の割合が低下し,「単独」世帯及び「夫婦のみ」の世帯の割合が上昇している。ひとり親と子供の世帯の割合も上昇し(「女親と子供」7.6%「男親と子供」1.3%),「3世代等」の世帯(8.6%)を上回っている。30~50代で「夫婦と子供」世帯割合の低下や「単独」世帯割合の上昇が顕著。
  • 共働き世帯は年々増加し,平成9(1997)年以降は専業主婦世帯数を上回っており,特に平成24(2012)年頃からその差は急速に拡大。共働き世帯数の増加の大部分は,妻がパートの共働き世帯数の増加(直近は昭和60(1985)年当時の約3倍)によるものである。
  • 女性における「家事・育児・介護時間」の減少は,晩婚化や未婚化等によるもので,結婚し子供を持つことで,共働きであろうが専業主婦であろうが「家事・育児・介護時間」は大きくは変わっていないかむしろかつてより増加。
  • 「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」(性別役割分担意識)に反対する者は6割程度になっているが,実際は妻が「家庭を守る」役割を果たしている夫婦がほとんど。
  • 女性の「仕事等時間」は,過去20年間で男性の5割から6割程度に増加も,20歳代以外は男性の40~50%前後で変化なく「共働き」の妻では減少している。男性の「仕事等時間」は全体では減少するも,30~40歳代は横ばい,6歳未満の子を持つ共働き世帯では妻の約2倍。夫も妻も「外で働く」ようになったが,働く時間は夫の方が圧倒的に長く,特に子育て期の男性の仕事負担は重い。稼得役割の多くを夫が担うという分担は変わっていない。

第2節 家族類型から見た「家事・育児・介護」と「仕事」の現状

  • 仕事をしている人の「仕事のある日」を見ると,女性の「家事時間」は家族類型により大きく異なるが,男性の場合は家族類型により異ならないという傾向がある(「単独世帯」では男女差がほぼないが,夫婦になると女性は男性の2倍以上になる。)。
  • 「夫婦+子供世帯」で仕事をしている人の「仕事のある日」を見ると,「育児時間」は,女性が男性の2.1~2.7倍程度になっている。
  • 女性は「仕事等時間」の短い順に,「夫婦+子供世帯(小中学生)」,「夫婦のみ世帯」と「夫婦+子供世帯(就学前)」,「単独世帯」となるが,男性は,「単独世帯」と「夫婦のみ世帯」,「夫婦+子供世帯(小中学生)」,「夫婦+子供世帯(就学前)」となり,ほぼ反対の傾向を示している。「仕事等時間」「家事時間」「育児時間」「介護時間」の合計時間は,子が就学前の男女が長い。
  • 介護をしている人の状況として,女性は,育児に加えて介護も担う状況が生じても,介護分負担純増でなく家族のケア全体の一部とし,WLBは大幅に変わらない。男性は,育児と介護両方を担う状況が生じた場合に「仕事等時間」を短縮し,家事・育児・介護に振り向けている。
  • 主だった家事・家庭のマネジメントの項目について,夫婦に分担状況を聞くと,「妻」「どちらかというと妻」との合計が,おおむね5割以上(「食材や日用品の在庫の把握」「食事の献立を考える」は8割超)である。
  • 小さな子供がいる夫婦で,夫の育児分担割合は約3割。妻の育児負担は子供の成長により軽くなるとはいえない。実施内容・頻度からは,妻は日常的な育児(毎日,毎回)を担い,夫が限定的な場面(週に1~2回,月に1~2回等)で関わる傾向。「予定管理」「情報収集」「保護者会活動」などは,妻の就業状況にかかわらず,夫の関わりが薄い。また,夫の週間就業時間が長いほど,育児時間が短くなる。
  • 介護者全体に占める男性の割合は平成28(2016)年で39.7%。同居の主な介護者を続柄別に見ると「子の配偶者(女性)」が大きく減少し(平成10(1998)年:27.4%→平成28(2016) 年:16.3 % ),「息子」(同6.4 % →17.2 % ) 及び「夫」(同11.3 %→15.6%)が増加。
  • 介護者のボリュームゾーン(50~60代)で仕事を持つ割合は高い。30歳未満の男性介護者は,最近5年間で,仕事を持つ割合やフルタイム勤務の割合が大きく低下。この年代の男性介護者における仕事と介護の在り方が短期間で大きく様変わりしている可能性がある(女性30歳未満は仕事を持つ割合やフルタイム勤務の割合が上昇し男性30歳未満と割合逆転。)。
  • 家族が実施している介護の内容や頻度は,育児と比較して男女差が大幅に少ない。
  • 外部サービス(家事・育児・介護支援サービス)の利用率は低いが,潜在的な利用意向は利用率より高い(介護62.9% 育児33.5% 家事26.3%)。

第3節 より良いバランス・分担に向けて

  • 有業者の仕事のある日の育児時間や介護時間が長いと,生活満足度の低下や,ディストレス(抑うつ・不安)が強い傾向が見られ,生活の質を下げることにつながる可能性がある。
  • 第1子の妊娠・出産を機に仕事を辞めた理由は,「子育てをしながら仕事を続けるのは大変だったから」が最も高く過半数である。また,「正社員でフルタイム勤務」を希望する女性は,末子が未就園児の時は約1割だが,中学生以降は4~5割。しかし,実際に「正社員でフルタイム勤務」をしている人は末子が中学生以降でも2割弱である。
  • 介護と仕事との両立については,介護が必要な親の有無にかかわらず,男女ともに7割以上が不安を感じている(40~50代の就労者)。不安の内容は,「自分の仕事を代わってくれる人がいないこと」「介護休業制度等の両立支援制度を利用すると収入が減ること」等。
  • 「家事・育児・介護」の負担が女性に偏り,生活満足度等への影響,就業継続や仕事との両立の難しさにつながっている状況を改善するには,男性に期待されている「仕事」の在り方や男性自身の「仕事」への向き合い方の変革と併せて,男性の「家事・育児・介護」への参画を進めていくことが必要。
  • 女性の「仕事」による稼得役割を確保し,男性が家族ケアを担えるようにしておくことは,家庭単位で見た場合のリスクヘッジという側面もある。
  • 「家事・育児・介護」を家庭内で分担するのみならず,担い手の多様化や多様な外部サービスの活用等が重要。