平成23年版男女共同参画白書

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第1節 ポジティブ・アクションの概念

平成17年10月に内閣府男女共同参画局で取りまとめた「ポジティブ・アクション研究会報告書」では,ポジティブ・アクションについて,一般的には,社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して,一定の範囲で特別の機会を提供すること等により,実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置をいうとしている。以下,ポジティブ・アクションについて関連する条約,我が国の法律の規定を見ていく。

1 女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約における規定

女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約第4条1では,「締約国が男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置をとることは,この条約に定義する差別と解してはならない。ただし,その結果としていかなる意味においても不平等な又は別個の基準を維持し続けることとなつてはならず,これらの措置は,機会及び待遇の平等の目的が達成された時に廃止されなければならない」と暫定的特別措置について規定している。

2 我が国におけるポジティブ・アクションの関連規定

我が国では,法律においてポジティブ・アクションという用語を用いるものはないが,ポジティブ・アクションに関連する法律の規定としては次のものがある。


(1) 男女共同参画社会基本法上の「積極的改善措置」

男女共同参画社会基本法(以下,本編において「基本法」という。)第2条第2号では,積極的改善措置につき「前号に規定する機会1に係る男女間の格差を改善するため必要な範囲内において,男女のいずれか一方に対し,当該機会を積極的に提供すること」と規定している。

基本法上の積極的改善措置は,女性だけでなく男性も対象とするが,個別の措置については男性か女性のいずれか一方が対象となる。

1 男女が,社会の対等な構成員として,自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会。


(2) 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律における規定

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「男女雇用機会均等法」という。)第8条において,女性労働者に係る措置に関する特例として「前三条の規定2は,事業主が,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。」としている。

これは,過去の女性労働者に対する取扱い等が原因で雇用の場において男性労働者との間に事実上の格差が生じている場合,その状況を改善するために女性のみを対象とした措置や女性を有利に取り扱う措置を行うことが法違反にならないことを定めたものである。

また,男女雇用機会均等法第14条は,事業主が,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的とし,一定の措置を講じる,又は講じようとする場合には,当該事業主に対して国が援助できることを定めている。

男女雇用機会均等法第14条における措置には「女性のみ」又は「女性優遇」の措置と男女双方を対象として行う措置の両方があるが,このうち「女性のみ」又は「女性優遇」の措置については,事業主が講じることができるのは男女雇用機会均等法第8条により法違反とならないものに限定される。

2 性別を理由とする差別の禁止(男女雇用機会均等法第5条,第6条),性別以外の事由を要件とする措置(男女雇用機会均等法第7条)。


3 本白書におけるポジティブ・アクションの整理

以上を踏まえると,男女が社会の対等な構成員として社会のあらゆる分野における活動に参画する機会に係る男女間の格差を改善することを目的として行う措置には,(1)当該措置の対象者,(2)当該措置の講じられる期間,(3)内容について次のようなパターンが考えられる。


(1) 当該措置の対象者

  • 「女性のみ」など男女のいずれか一方のみを対象とした措置
  • 男性と比較して女性を有利に取り扱う措置
  • 男女双方に同様に講じられる措置

(2) 当該措置の講じられる期間

  • 男女間の格差が解消されるまでの間の暫定的な措置
  • 当該措置の目的が必ずしも男女間の格差の解消にとどまるものではないため,男女間の格差が解消された後も継続されることも考えられる措置

本白書においては,以上のパターンを全て包含した概念として,以下「ポジティブ・アクション」という文言を使用する。

これを前提に,ポジティブ・アクションの内容に着目した場合,次のような分類が可能である。


(3) 内容

ア クオータ制

性別を基準に一定の人数や比率を割り当てる手法をいう。

なお,クオータ制は法律で定められるものだけではなく,政党が党規約において議員候補者のうち一定数を女性にすることを定める場合のように自発的に行われるものもある。

第2節で後述するように,諸外国では政治,行政,経済等の分野においてクオータ制が導入されている例も見受けられる。また,法律によるクオータ制の中には定められた割当比率を遵守しない主体に対し制裁を課しているものもある。

イ ゴール・アンド・タイムテーブル方式

女性の参画拡大に関する一定目標と達成までの期間の目安を示してその実現に努力する手法をいう。

「2020年30%」の目標や,第3次基本計画の成果目標(国家公務員の採用・登用に占める女性割合,国の審議会等委員に占める女性の割合等)は,ゴール・アンド・タイムテーブル方式に分類される。

ウ 女性を対象とした応募の奨励,研修,環境整備等

女性の応募の奨励,女性の能力向上のための研修等は,女性が少ない分野における女性の参画促進や,活動範囲の拡大につながるポジティブ・アクションの手法の一つである。国や地方自治体の制度においてこれらの取組を積極的に評価することで,取組の実施に向けたインセンティブ付与がなされる場合がある。

エ 仕事と家庭の両立支援,子育て支援

仕事と家庭の両立支援や子育て支援は,男女双方を対象に行われることが一般的であるが,現状において,男性と比較して女性は仕事と家庭の両立や子育ての影響により活動が制限される場合が多い。したがって,女性に対する機会の付与という意義が大きいと言えポジティブ・アクションとしての一面を持つ場合もある。

これらの取組についても,国や地方自治体の制度において積極的に評価することで取組の実施に向けたインセンティブ付与がなされる場合がある。

コラム1 ポジティブ・アクションとダイバーシティ