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第3節 誰でも再就職・起業等ができる社会を目指して
最後に,女性が安心して子育てしながら再チャレンジできる環境づくりを進めることにより実現される我が国社会の将来像を提示するとともに,求められている支援策や実際の支援の事例について紹介する。また,現在の国の再チャレンジ支援策を紹介するとともに,今後さらに必要とされる取組について言及する。
1 我が国社会の将来像
女性のチャレンジは企業や地域社会をはじめ社会全体に活気を与える。女性が安心して子育てしながら再チャレンジできる環境づくりを進めることは,21世紀の新たな社会構造につながるものであり,男性も含めて多様なライフスタイルが可能となることで個々人の個性・能力が発揮できる,以下のような社会が実現できると考えられる。
(1)誰もが再挑戦できる社会
誰もが就業や起業等に何度でも再挑戦でき,主体的に人生を切り開くことによって,その個性と能力を十分に発揮できる社会。また,子育て等で離職したことが,女性のキャリア形成にとって障害にならない社会。
(2)自分の選択する人生設計のできる社会
一人一人の女性が,家族の協力や社会の支援の下に,仕事と子育て等とをバランスよく両立しながら,ライフステージに応じて柔軟に活動を選択でき,自分に合った人生設計ができる社会。
(3)安心して子育てできる社会
ライフステージに応じた多様な選択や再挑戦が可能となることにより,自らのキャリア形成に不安を感じることなく,男女が互いに協力しながら安心して子育てに取り組むことができる社会。
2 企業のニーズと女性の意欲
(企業では専門的・技術的人材に不足感)
子育て中・子育て後の女性の採用実績がある企業で,採用している職種としては事務一般職が最も多く,管理的職業従事者は皆無となっている(第1-特-33図)。一方,企業側に不足感がある職種分野を聞いたところ,事務一般職はほとんどなく,特に正社員として再就職女性の採用実績のある企業では,専門的・技術的職業従事者の不足感が大きい(第1-特-34図)。専門や技術を身につけた女性は再就職先を見つけやすい状況にあるといえる。
第1-特-33図 子育て中・子育て後の女性の採用等の実績がある企業が採用している人材の職種
第1-特-34図 再就職女性の採用実績別,企業が不足感を感じている職種
(子育て期の女性の高い学習意欲)
女性の希望に沿った再就職はなかなか難しいのが現状であるが,就業希望者が多いだけでなく,子育て期の女性は高い学習意欲を持っている。厚生労働省の委託調査によると,12歳以下の子どもを持つ女性に,自分の時間で子育て期に並行して行いたいことを聞いたところ,「自己啓発や資格取得のための勉強」が最も高くなっている(第1-特-35図)。このような意欲を生かせる人材活用の取組が求められる。
第1-特-35図 自分の時間で子育て期に並行して行いたいこと
(求められる企業ニーズと女性の意欲のマッチング)
以上のように,企業が求めている人材がある程度明らかであり,女性の側も意欲や希望を持っているにもかかわらず再チャレンジがなかなか実現しない状況を改善するためには,どのような支援策が有効なのだろうか。
子育て等でいったん家庭に入った女性は,自分の将来のキャリア形成の見通しが立ちにくい,子育て等が一段落して何か始めたいが具体的イメージが描けないといった場合も見受けられる。実際に再就職・起業やNPO,地域活動等再チャレンジして活躍している女性も注目されており,これら好事例をロールモデルとして収集・紹介することは,子育て中・子育て後の女性に再チャレンジへの意欲を持ってもらい,自分にとって適切な選択を行うための具体的イメージを描いてもらう上で重要である。
また,実際に再就業のための活動をしている女性が求めている支援についてみてみると,情報提供に関する要望が多くなっており,必要な情報を容易に入手できる環境整備が求められているといえる(第1-特-36図)。
第1-特-36図 希望の仕事に再就業するためにあったらよい支援
3 企業,NPO等による支援
子育て中・子育て後の女性の再就職を促進するためには,再就職を希望する女性への各種支援と併せて雇用の受け皿である企業の取組が重要である。近年,再雇用制度の導入などが進められているが,女性が子育て後にそれまでの経験を生かせる職場に復帰できるという点でメリットが大きく,こうした取組の普及が望まれる。また,子どもの成長とともに,フルタイムの仕事や責任ある仕事を希望する主婦の割合が高まること等を踏まえ,子育て等でいったん退職した女性が再就職する場合に,正社員も含めて門戸が広がるよう,企業等の積極的な取組を促す必要がある。
NPO等の団体は,女性の再チャレンジの選択肢として有力であるとともに,再チャレンジ支援を行う主体としても重要な役割を果たしていると考えられる。専業主婦や子育ての経験を生かして,NPO等で主婦の再就職を支援する事例やさらに就業支援NPO等の活動が起業に転化する事例も注目されており,身近な地域できめ細やかな再チャレンジ支援を行う上で,これらの取組との連携・協力は必要であると考えられる。
実際に女性が再就業に当たって企業に対応して欲しいことをみると,「子どもの病気や行事時などの休暇制度」などの家庭との両立に関する事項や,「採用時の年齢制限の緩和,撤廃」などの企業の採用行動に関する要望が多くみられる(第1-特-37図)。これらの声を踏まえ,より幅広い人材活用を可能にするためにも,企業における更なる取組が期待される。
4 行政による支援策(現状と今後の課題)
(女性の再チャレンジ支援プラン)
政府においては,「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」を踏まえ,再チャレンジしようとする女性が直面する問題点について,再チャレンジに関する情報収集等が困難,
再チャレンジに向けたスキルアップが困難,
求職活動・起業準備活動が困難,
企業の雇用ニーズとのミスマッチ,
仕事と子育て等との両立が困難,との整理を行い,それぞれの課題を克服するための施策を講じることとした。そして,平成17年12月,関係閣僚から構成される「女性の再チャレンジ支援策検討会議」において「女性の再チャレンジ支援プラン」を取りまとめた(第1-特-38図)。
本プランでは,子育て等でいったん就業を中断した女性の再就職・起業等を総合的に支援するため,次の5つを主な柱として平成18年度を中心に具体的施策を講ずることとしている。
(1)地域におけるネットワークの構築等による再チャレンジ支援
子育て中の女性が再チャレンジに必要な支援情報や相談サービスを受けにくい事情を踏まえ,男女共同参画センター等を活用し,身近な地域における支援ネットワークづくりに取り組む。また,女性が子育てしながら働ける地域環境づくりを推進する。
(2)学習・能力開発支援
再チャレンジを希望する女性に対する就業等も視野に入れた学習・能力開発の機会の充実を図る。
(3)再就職支援
マザーズハローワークの設置など子育て等により離職した女性が円滑に再就職できるよう,総合的な再就職支援策の充実を図る。また,経済界・労働界への働きかけや好事例の収集・顕彰,求人年齢制限緩和の促進,中小企業における少子化対応経営の普及など,企業における取組を促進する。
さらに,優れた研究者の出産・育児等による研究中断からの復帰支援を行う。
○マザーズハローワーク
平成18年度より,全国12か所で整備される。求職活動の準備が整い,かつ具体的な就職希望を有する者に対する就職支援サービスの提供を行う。具体的には,子連れで来所しやすい体制の整備,求職者のニーズを踏まえた担当者制によるきめ細かい職業相談・職業紹介,地方公共団体等との連携による子育て情報の提供,求人開拓などを実施することとしている。
(4)起業支援
経営に必要なノウハウ・知識の習得支援,融資等の資金援助を行う。
(5)国における総合的な情報提供・調査
再就職や起業などに関する情報をインターネット上で効率的に入手できるようにする。また,就業,起業,学習,地域活動といった女性のライフプラン設計の支援に関する調査を行うとともに,得られたデータを元に,出産前後の母親を対象に行う総合的ライフプランニング支援プログラムを作成する。
(地域における女性の再チャレンジ支援事業)
これまで,地域の男女共同参画センター等において,先駆的な取組として,例えば以下のような女性の再チャレンジを支援する事業を実施してきている。
○東京ウィメンズプラザ
平成15年度に「再就職したい?再就職するなら!-女性のための実践的プログラム-」を開催。これは,出産・育児・介護等で離職した女性が,就職活動を効果的に行う方法や,家事や育児と仕事を両立させるコツなど具体的ですぐ役立つ再就職のノウハウを学ぶための講座であり,2日間の開催で75名の参加を得ている。
○男女共同参画センター横浜/横浜南/横浜北
開館(昭和63年)以来,女性のための職業計画プログラム「再就職準備講座ルトラヴァイエ」を継続的に開講。平成15年9月に実施した修了者の追跡調査では,回答者の就業率は75%。現在は働いていないが過去に働いた経験がある人をあわせると, 87%の人がなんらかの職業についており,大きな成果を上げている。講座は1コース11日間の基本プログラムと,オプションのパソコン講座で,年に3コース(各センターで1コースずつ)開催。 さらに「母子家庭のお母さんのための適職発見セミナー」「就職支援パソコン講座」等も行政と連携して実施している。
○京都府女性総合センター
京都府における女性のチャレンジ支援の拠点施設として,キャリアカウンセラーによる女性チャレンジ相談,実践的ノウハウやスキルを学べる再就職準備セミナー,女性のための起業セミナー,起業を目指す女性の交流サロンCo-Co等を実施。全国初の女性起業家向けインキュベーション「女性チャレンジオフィス」には6社が入居し,子育て支援や生活を楽しく豊かにするビジネスを展開中。これらを通じ,再チャレンジする女性たちの幅広いネットワークが形成され,多彩なコラボレーションが発展中。平成18年度は,内閣府「再チャレンジ支援地域モデル事業」の採択を受け,育児女性等に対する再就職総合支援事業を実施していく予定。
○熊本県男女共同参画センター
くまもと県民交流館(パレア)の複合施設(男女共同参画センター,NPO・ボランティア協働センター,生涯学習推進センター,しごと相談・支援センターが併設)としての特徴を活かし,技術講習会やキャリアカウンセラーによる就業相談,キャリアアドバイザーの養成,女性の起業支援講座を実施するほか,「熊本の女性のチャレンジ事例集」を作成し,具体的に再チャレンジをイメージできるようにしている。
(今後の取組課題)
女性が安心して子育てしながら再チャレンジしやすい環境を整備するために,「女性の再チャレンジ支援プラン」の施策を着実に進めるとともに,今後,さらに次のような課題に取り組む必要があると考えられる。
(1)子育て中の女性の利用しやすさに配慮した支援
子育て中の女性は時間的制約から必要な情報・サービスを入手しにくいといった事情を抱えている。このため,インターネット等を活用した情報提供,能力開発支援,相談等をさらに充実する必要がある。また,子ども連れで行く身近な場所で保育や就業支援に関する情報を入手できたり,子ども連れでも各種支援機関を利用できたりする環境整備も引き続き必要となる。
さらに,本人のニーズや活動段階に応じて必要な情報・サービスをワンストップで受けられるよう,男女共同参画センター等を中核とし,各種支援機関のネットワーク化や地域で気軽に相談できる窓口の設置もさらに進める必要がある。
(2)再チャレンジに必要な子育て支援の充実
情報収集や各種セミナー・講座の受講,求職活動など再チャレンジに向けて準備を進める段階でも,保育サービス等仕事と家庭の両立支援策を利用しやすくする必要がある。
(3)企業における再就職女性が活躍しやすい取組の促進
再雇用制度の普及促進や育児等でいったん退職した者に対し正社員も含めて門戸を広げる取組の推進,求人年齢制限の緩和など,再チャレンジ女性を積極的に採用する取組を,さらに進める必要がある。また,短時間勤務,テレワークなど多様で質の高い働き方,パート・アルバイトから正社員への転換等柔軟な人事管理,パートタイム労働者と正社員との均衡処遇などの取組が進むよう支援を行う必要がある。
上記の課題に取り組むと同時に,引き続き,男女の職業生活と家庭・地域生活の両立の支援と,働き方の見直しを大幅に進めることが重要である。