「共同参画」2024年3・4月号

特集1

改正配偶者暴力防止法が施行されます

内閣府男女共同参画局男女間暴力対策課

令和5年5月に成立した配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律(令和5年法律第30号)(以下「改正法」という。)が、令和6年4月1日に施行されます。

本稿では、今回の改正の主な内容として、「保護命令制度の拡充」、「基本方針・都道府県計画の記載事項の拡充」、「協議会の法定化」について解説します。

⒈保護命令制度の拡充

保護命令制度とは、配偶者からの暴力の被害者(以下「被害者」という。)からの申立てにより、裁判所が、相手配偶者に対して、被害者の身辺へのつきまといや住居等の付近のはいかい等の一定の行為を禁止する命令を発令する制度です。「配偶者」には、法律婚の相手方、事実婚の相手方、生活の本拠を共にする交際相手が該当します。

相手配偶者が保護命令に違反すると刑罰が科されます。改正法により、保護命令に違反した者に対する罰則が、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金から、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金へと加重されます。


①保護命令の種類(図1参照)

保護命令の主な種類は、被害者の身辺へのつきまといや住居・勤務先等の付近のはいかいを禁止する命令(被害者への接近禁止命令)と被害者とともに住む住居からの退去、住居付近のはいかいを禁止する命令(退去等命令)です。

これらのほか、被害者が自ら加害者に会いに行かざるを得ない状況にならないよう、被害者への接近禁止命令に加え、被害者への電話等禁止命令、被害者と同居する未成年の子への接近禁止命令、被害者の親族等への接近禁止命令を併せて発令することができます。

今回の改正により、被害者への電話等禁止命令の対象行為に、①緊急時以外の連続した文書の送付・SNS等の送信、②緊急時以外の深夜早朝のSNS等の送信、③性的羞恥心を害する電磁的記録の送信、④GPSを用いた位置情報の無承諾取得が追加されました。

さらに、子への接近禁止命令とあわせて、被害者への接近禁止命令の実効性を確保するため、被害者の子への電話等禁止命令が創設されました。その対象行為は、①行動監視の告知等、②著しく粗野乱暴な言動、③無言電話、緊急時以外の連続した電話、文書送付、FAX・メール・SNS等の送信、④緊急時以外の夜間早朝の電話、FAX送信、⑤汚物等の送付等、⑥名誉や性的羞恥心を害する告知等、⑦GPSを用いた位置情報の無承諾取得となります。

被害者への接近禁止命令の有効期間は、これまで6月とされていましたが、改正法により、1年に伸長されます。

また、退去等命令の期間については、原則は2か月であるところ、改正法により、住居の所有者又は賃借人が被害者のみである場合には、被害者からの申立てにより6か月とする特例が新設されます。


【図1】
【図1】


②保護命令の要件(図2参照)

保護命令のうち接近禁止命令等の申立てをすることができる被害者は、これまでは、「身体に対する暴力を受けた者」と「生命又は身体に対する脅迫を受けた者」でした。つまり、実際に殴る、蹴るなどの暴力を受けた者か、「殺すぞ」などといった生命・身体に対する害悪の告知による脅迫を受けた者に限定されていました。

配偶者からの暴力は、加害者が自己への従属を強いるために用いることが指摘されています。このような配偶者からの暴力の特殊性に鑑み、害悪を告知することにより畏怖させる行為について広く対象にする必要があることから、今回の改正では、「自由、名誉又は財産に対する加害の告知による脅迫を受けた者」についても、接近禁止命令等の申立ての対象とされました。

このうち、「自由」については、身体・行動の自由、謝罪に関する意思の自由、職業選択の自由、性的自由などが対象となり得ます。具体的な言動が接近禁止命令等の対象となる「脅迫」に該当するか否かは、個別の事案における証拠に基づいて、裁判所が判断することになりますが、例えば、外出しようとすると怒鳴る(自由に対する脅迫)、性的な画像をネットに拡散するなどと告げる(名誉に対する脅迫)、キャッシュカードなどを取り上げるなどと告げる(財産に対する脅迫)ことなどが対象となり得ると考えられます。これらのほか、個別具体的な状況により、生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨の告知と認められるものは、「脅迫」に該当し得ます。

また、接近禁止命令等の発令要件も変わります。これまでは、更なる身体に対する暴力等により「生命・身体に対する重大な危害を受けるおそれが大きいとき」であったところ、「身体」が「心身」に改められます。つまり、心(精神)に重大な危害を受けるおそれが大きいときも接近禁止命令等の対象となることとされます。

ここで、「重大な危害」とは、少なくとも通院加療を要する程度の危害のことで、精神への重大な危害としては、うつ病、PTSD、適応障害、不安障害、身体化障害が考えられ、配偶者からの身体に対する暴力又は脅迫を受けたことにより、これらのうつ病等の通院加療を要する症状が出ており、配偶者からの更なる身体に対する暴力又は脅迫を受けるおそれがある場合には、基本的に「重大な危害を受けるおそれが大きい」と評価し得るものと考えられます。(迅速な裁判の観点から、上述の「うつ病等の通院加療を要する症状が出て」いるという事実を立証するため、申立ての際に、医師の診断書の添付が必要となります。)

なお、退去等命令については、申立てをすることができる被害者の範囲及び要件は、これまでと変わりありません。

保護命令の申立ての対象となる被害者は、性別を問いませんので、男性の被害者も申立てをすることができます。また、同性カップル間の暴力についても、保護命令の対象となった例があります。

これらの保護命令制度に関する内容については、パンフレットにも掲載しています。

【図2】
【図2】


パンフレットについては、こちらをご覧ください。
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/keihatsu/pdf/pamphlet_01.pdf


⒉基本方針・都道府県計画の記載事項の拡充

配偶者暴力防止法は、被害者保護のための関係機関の連携協力や、民間団体に対する援助の努力義務を定めています。また、被害者の自立のためには、職業や住居の確保、各種の経済的支援等の制度の活用が必要となるため、これらに関わる機関の連携及び協力体制の構築により、被害者の自立支援が円滑に行われることになります。しかしながら、従来の規定では、関係機関の連携協力は、主務大臣が定める基本的な方針(以下「基本方針」という。)や都道府県における基本的な計画(以下「都道府県基本計画」という。)の記載事項としては明記されていませんでした。

これらを踏まえ、改正法では、基本方針及び都道府県計画の必要的記載事項として、関係機関の連携協力が明記されました。

あわせて、国及び地方公共団体の責務規定(第2条)について、被害者の保護に「被害者の自立の支援」が含まれることを明確にする改正が行われました。これにより、被害者の自立の支援についても、基本方針及び都道府県計画に必ず記載することとなります。

⒊協議会の法定化

関係機関の連携協力については、従来、基本方針において、配偶者暴力相談支援センターを中心とする協議会の設置等が有効である旨を示していました。一方で、従来の協議会の場合、構成員に守秘義務が設けられておらず、民間支援団体を含めた関係者間での情報のやりとりが必ずしも円滑に行うことはできませんでした。

このため、改正法では、構成員に守秘義務を課した上で、協議会を法定化し、都道府県は協議会を組織するよう努めなければならないこととされました。市町村についても、協議会を組織することができると規定されます。

法定協議会は、地方公共団体が施策を実施するに当たって、関係機関等との連携協力を図る場として積極的に活用することが想定されています。


このように、改正法の施行により、配偶者暴力防止法による被害者の保護や支援等が拡充されます。内閣府では、新たな制度の周知等に努めるほか、引き続き、相談体制の整備など、被害者支援に係る取組を進めてまいります。

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