「共同参画」2020年6月号

巻頭言

隠された悲鳴に、耳をすませて

残念ながら、一部の家庭には、穏やかで幸せな家庭生活とはいいがたい、支配や虐待の関係がある。そしてドメスティック・バイオレンス(DV)にはジェンダーの要素が色濃く影を落としている。DVや児童虐待を引き起こす背景は多様だが、女性や子どもが犠牲となりやすく、男性が加害者になりやすい構造があり、DVはgender-based violence「ジェンダーに基づく暴力」の典型例の一つと考えられている。

COVID-19の感染拡大と、それへの対策として外出自粛が進み始めた時、私たちDV被害者支援の現場からは、これによってDVや虐待が深刻化するであろうという強い懸念が出てきた。疫禍がなぜ、DVに結びつくのか、関係ないのではないかと疑問に思う方もおられるだろう。コロナ禍は経済にダメージを与え、多くの人々の生活の基盤を脅かし、外出できないなど、生活にも大きな変化を生み出す。失業・収入減によって精神的不安や行き詰まった気持ちになる人が増えると、その不安や焦りが家族に向けられ、暴力や攻撃となる。これまでもDVがすでにあった家庭では、その暴力がエスカレートする。しかし家族がずっと家におり、監視も強まると、被害者が外部に相談できるチャンスも減ってしまう。女性の収入が減ると、相手から逃れるために家を出ることがもっと難しくなる。

DVは他人からは見えにくい。被害者は自分の家族の影の部分を他人に知られたくないと思うし、精神的支配の中で、「相手を怒らせる自分が悪いのだ」と考えるようになり、ただただ相手の顔色をうかがい、怒らせないように過ごすようになるからだ。そして、加害者は、自分の家族には八つ当たりしてもいいという誤った考えをもっている。疫病の感染防止とともに、この「影のパンデミックとしての女性に対する暴力」(国連)も止めなければならない。私たちは今、家庭の中に隠されている被害者の悲鳴を注意ぶかく聞き取り、女性の命や尊厳を守るためにも行動するべきである。

立教大学教授 萩原なつ子
NPO法人 全国女性シェルターネット共同代表、
広島大学ハラスメント相談室准教授
北仲千里

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