「共同参画」2018年8月号

連載/その1

ジェンダー主流化の20年(4)~UNDPの経験③~
(特活)Gender Action Platform 理事 大崎 麻子

優先順位の設定や資源分配に力を持っている人・部署・組織、つまり、「主流派」の考え方やアクションに「ジェンダー平等の視点」を浸透させ、それによって、組織全体、そして、開発支援プロセスの全過程(政策、予算、計画、事業、モニタリング/評価)に行き渡らせることを目的とした、「ジェンダー主流化」の取組みが始まりました。主に4つの領域に分類できます。「ポリシー・デベロップメント(政策策定)」「キャパシティ・ビルディング(制度構築・能力強化)」「ナレッジ・マネジメント(知見の収集・分析・共有)」「アドボカシー」です。

まずは、組織として共有すべきビジョンや目的や概念を「ポリシー」として明確に打ち出す。それを組織全体で確実に実行できるような制度・仕組みとスタッフのスキル、つまり、「キャパシティ」を構築する。データ、調査、マニュアル、好事例、教訓(lessons-learned)など、組織内外の知見を収集・分析し、それらを「ナレッジ」として活用できるようにする。人々のマインドや行動を変革するために、ジェンダー主流化の正当性と重要性を的確かつ説得力のある形で伝える、効果的な「アドボカシー」を行う。地道で時間のかかるプロセスです。私は当初、「国連機関だし、トップが掛け声をかければ、すぐにできるんじゃないか?」と思っていましたが、その読みは甘かった。いかに一人一人の職員がジェンダー視点の重要性に納得できるようなアドボカシーを行い、基礎的なスキルを身につけられるような研修を行うか。たとえ腑に落ちなくても、事業・予算申請や人事評価等と紐づけることでいかにインセンティブを高めるか。試行錯誤の連続でした。

具体的な取組みの例です。

1. ポリシー・デベロップメント:ジェンダー平等に関する基本政策の策定、総裁(トップ)から各国事務所の常駐代表及び幹部職員への特命書の発出、UNDPの全ての重点領域(貧困削減、民主的ガバナンス、環境など)のジェンダー側面を解説した政策文書の策定

2. キャパシティ・ビルディング:参加型ワークショップの開催を通じたジェンダー研修マニュアルの作成、国事務所や本部のジェンダー・フォーカルポイント(連絡調整官)のための研修、人事部が実施する全ての職員研修プログラムへの「ジェンダー研修」の統合(特に新人・管理職・幹部職研修)、人事部のワークライフバランス政策の策定のサポート

3. ナレッジ・マネジメント:イントラネット(=ナレッジ・プロダクトのライブラリー)の設置、オンラインのジェンダー・ネットワークの立ち上げ(オンライン・ディスカッション、質疑応答コーナー、事例の共有)、ナレッジ・プロダクト(マニュアル、ハンドブック、リソース集など)の制作、各国の優良事例や試験的な取組みの収集と共有

4. アドボカシー:組織内のあらゆる会合への参加や発言を通じた働きかけ、ドナー国への働きかけ、国連機関の横のつながり・連携の強化、女性NGOとの連携の強化

途上国での事業におけるジェンダー主流化では、実は、日本政府がUNDP内に設置した日本WID基金が大きな原動力になりました。次回、ご紹介します。

執筆者写真
おおさき・あさこ/(特活)Gender Action Platform理事、関西学院大学客員教授
コロンビア大学国際公共大学院で国際関係修士号を取得後、UNDP(国連開発計画)開発政策局に入局。UNDPの活動領域である貧困削減、民主的ガバナンス、紛争・災害復興等におけるジェンダー主流化政策の立案、制度及び能力構築に従事した。現在は、フリーの国際協力・ジェンダー専門家として、国内外で幅広く活動中。『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』(経済界)。
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