「共同参画」2018年2月号

連載

女性活躍の視点からみた企業のあり方(10) 女性活躍推進とダイバーシティ
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 共生社会室室長主席研究員 矢島 洋子

近年、企業のダイバーシティ推進には、テーマの広がりがみられます。「女性」から、「高齢者」「障がい者」「外国人材」「LGBT」等へ。推進に際し、「ダイバーシティ」という概念を用いるか否か、「ダイバーシティ」概念を用いる場合でも、個々に施策を設定するのか、横断的な取組みを主とするのか、など。企業の取り組み方には様々なパターンがあるようです。

企業が「ダイバーシティ」という概念を用いる意義は、一つには、「マイノリティへの支援」というスタンスから脱し、「多様性を企業経営に有意なものとして積極的に肯定する」というスタンスを示す点にあると考えられます。同時に、各テーマの課題を、「当事者の問題」から、「組織の問題」にするという意義もあります。時間制約のある社員の短時間の勤務を認め就業継続を可能とするだけでなく、能力発揮を促す仕事の機会を与えることが、「本人のため」なのか「企業のため」なのかという見方の違いは、管理職のマネジメント姿勢に大きな影響を与えます。もう一つの意義は、個別のテーマの問題に「ダイバーシティ」という横断的視点を取り入れることで、取るべき施策や方向性が見えてくる点にあります。女性に関しては、配置や採用・登用において男女同じ基準でみるという考え方や、女性ならではの活躍を期待するよりも男女ともに活躍できる環境整備が必要という考え方が比較的浸透してきています。しかし、高度外国人材となると、「外国人ならでは」の活躍を期待する一方で、「日本人と同じことができる」ことが求められるといった問題があります。女性の場合と同じような視点で考えると、短期的に活用しようと思えば、「外国人ならでは」の活躍を期待することにメリットがあるかもしれませんが、逆に、「外国人には向いていない」仕事があるという偏見が助長される可能性があります。一定の役割に固定されることで長期的な活躍やキャリア形成を見込めないとなれば、定着が進まない可能性もあります。「日本人と同じことができる」ことは組織運営においてプラスかもしれませんが、そのために採用できる外国人材の層が狭くなったり、求職者が少なくなる可能性もあります。

「ダイバーシティ」を掲げ、多様性を活かすことを重視する企業では、女性等の外形的な「属性」は、採用や職場の多様性を確保するための手掛かりであるものの、真に重要な多様性は、価値観や能力や経験等内面的なものであるという見方も出てきています。こうした考えに基づき、組織内の社員は個々に異なるとし、特定の属性にこだわった取組みは、かえって真に重要な内面的多様性を生かす取組みを阻害するとみる企業もあります。確かに、「社員は個々にすべて異なる」という考えに基づく取組みは、管理職層による現場のマネジメントや人事評価においては有用かもしれません。一方、組織において、差別や不利益を解消するためのポジティブ・アクションの視点からの仕組み作りや環境整備には結びつかない可能性があり、注意が必要です。

これからの企業におけるダイバーシティ推進においては、包括的なダイバーシティの概念とテーマ横断的な視点・施策を活用しつつ、個別のテーマが抱える問題に向き合っていくことが求められるのではないでしょうか。

参考:矢島洋子「企業におけるダイバーシティ推進」
http://www.murc.jp/thinktank/rc/quarterly/quarterly_detail/201704_01

執筆者写真
やじま・ようこ/三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社共生社会室室長 主席研究員。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。1989年 (株)三和総合研究所(現MURC)入社。2004年~2007年 内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。男女共同参画、少子高齢化対策の視点から、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ関連の調査研究・コンサルティングに取り組んでいる。著作に、『ダイバーシティ経営と人材活用』東京大学出版会(共著)等。
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