「共同参画」2017年12月号

連載 その1

女性活躍の視点からみた企業のあり方(8) 女性活躍推進と人事評価
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 共生社会室室長主席研究員 矢島 洋子

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが実施した「平成27年度 女性活躍推進に関する調査(厚労省委託)」では、前回ご紹介したポジティブ・アクションに加え、人事制度や働き方の特徴の中から、何が女性活躍に効いているかを分析しています。結果、近年「女性管理職割合が増加している」企業では、「明確な推進体制・担当」や、「登用方針や目標設定」等のポジティブ・アクションが効果を上げていますが、すでに「女性管理職割合が高い水準(20%以上)」に達している企業の特徴としては、評価において「時間あたり生産性」が重視され、昇格決定基準において「年功」が重視されておらず、「長時間労働者の割合」が低いことがわかっています。短期的な変化をもたらすには、ポジティブ・アクションは有効なようですが、長期的に女性が登用され続ける環境をつくるには、評価の仕組みや働き方が効いてくるといえそうです。昨年からスタートした女性活躍推進法の自主行動計画において、すでに管理職候補層を登用してしまい、もう候補者が残っていない、という企業の声も聞きます。すでに管理職が20%以上いる企業の特徴が、ポジティブ・アクションでないということは大事な視点です。男女の差が開かないような組織体制がある程度できている、ということであり、そのためには、「評価」の仕組みが重要だということです。では、「時間あたり生産性」の重視とは、具体的に、どのような評価を指すのでしょう。長時間働いた人が偉いとみなされるというのは、もちろん論外ですし、同じ成果を上げたなら残業の少ない人の方が高評価、という考え方が必要でしょう。短時間勤務とフルタイム社員に、時間差に応じた目標設定をし、いずれも目標を達成した場合は「同じ評価」になる、というのも一例です。目標の大きさが、期待役割や働き方に基づき、基本給に連動していれば、目標の達成状況に応じて絶対評価をすることが公正な評価といえます。賞与や昇格に反映させる際は、目標の大きさを組織貢献の大きさとして組み込む、例えば、賞与については、ベースとなる基本給ですでに差がついていれば問題はないはずです。目標管理制度を入れている企業では、組織目標が個々の社員の目標にうまく反映されていないことが短時間勤務の評価を難しくしている場合があります。また、短時間勤務の目標設定や評価が難しいという企業では、実は、フルタイム社員間の目標や評価の違いもうまく説明できていないことがあります。評価のフィードバックが行えていない管理職も多く、短時間勤務の部下への対応が、すべての部下へのフィードバックのあり方を見直す機会にもなります。

昇格基準における「年功」の影響は、日本企業において問題視されながらも中々無くなりません。女性が長期の休業や短時間勤務により年功管理から外れると、キャリアの道筋が見えなくなる場合があります。ただし、年功による昇格は、納得感が高いのも事実です。企業内で培った経験に基づくスキルや業務遂行の質をはかる納得感ある指標が他にないともいえるでしょう。今後、性別だけでなく、年齢や国籍、入社経緯等も多様な人材に能力発揮を期待するのであれば、年功管理をやめる、というより、年功に変わる登用基準を見出すことが必要ではないでしょうか。

執筆者写真
やじま・ようこ/三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社共生社会室室長 主席研究員。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。1989年 (株)三和総合研究所(現MURC)入社。2004年~2007年 内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。男女共同参画、少子高齢化対策の視点から、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ関連の調査研究・コンサルティングに取り組んでいる。著作に、『ダイバーシティ経営と人材活用』東京大学出版会(共著)等。
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