「共同参画」2017年12月号

スペシャル・インタビュー/第43回

女性が働きやすい職場は、男性にとっても働きやすい職場。女性が一層輝き、活躍できる職場づくりを。

上田 良一
日本放送協会(NHK)会長

聞き手 武川恵子
たけがわけいこ/男女共同参画局長

―今年1月に会長に就任されて、NHKの女性活躍推進の取組について、どう感じていらっしゃいますか。

現在の経営計画(2015-2017年度)には「女性の積極登用を進め、仕事と生活の調和を実現し、多様な働き方ができる組織に改革」と掲げています。NHKはこれまでにも育児や介護を支援するサポートデスクの新設・拡充、事業所内保育施設の確保といった環境整備を進めてきましたが、今年6月には、人事局内にダイバーシティ推進事務局を新設し、多様な人材が健康で豊かな生活を送りながら、能力を仕事に注力できる組織づくりを目指して、さらに取組を進めております。

ただ、ダイバーシティは、組織や制度を整えるだけではなくしっかりと中身を整えていかなければいけない。4年前、ともに公共放送を支えてきた記者の佐戸未和さんが亡くなり、長時間労働による死亡として労災認定を受けました。私としては、この事実を大変重く受けとめ、こうしたことが二度と起きないように、従来から進めてきた職員の健康確保を徹底し、さらに働き方改革の推進に強い意志で取り組まなければならないと考えています。

―女性活躍推進の取組がNHKの放送やサービスにどのような影響を与えているのでしょうか。

公共放送として視聴者の皆様の信頼や期待に応え多様な放送・サービスを提供し続けるには、多様な経験や価値観を持つ人材が最大限の力を発揮できる組織、職場環境が重要です。そうしたダイバーシティの観点から、適材適所に配置された女性職員が活躍し、取材や番組制作、マネジメントの現場で意思決定にかかわることが大きな影響を与えると思っています。

男女共同参画社会というテーマについても、時代の要請に応じて、あるいは先んじて様々な番組で伝えています。

また、朝の連続テレビ小説では、長らく女性を主人公に様々な生き方を視聴者の皆様にご覧いただいてきました。大河ドラマでも、現在放送している「おんな城主 直虎」のように、歴史を舞台に女性を主人公にしたものも数多く放送しています。

これらは視聴者の皆様のご期待やご要望に応えて放送してきたと言えるのではないかと思いますが、今後もこうした姿勢を大切にして放送を続けていきたいと考えております。

―女性活躍推進法が完全施行され1年半ほどが経ちました。事業主行動計画では、2020年に女性管理職の割合を10%以上にするという目標を立てておられます。

今年度の職員数は1万303人、うち16.8%が女性です。ここ10年、定期採用における女性職員の比率は約3割なので、今後も女性比率は増えます。平成19年に2.8%だった女性管理職比率も、今年度は8.0%に上昇しました。

各職場のトップである部局長は本部で4名、地域の53放送局で6名が女性です。そのほか、Eテレ編集長など、番組の内容や方針の決定にかかわる女性管理職も多数います。

目標達成に向けては、40歳前後の管理職手前の女性職員が対象の「ウーマンキャリアデザイン研修」、幹部クラス対象の「ダイバーシティ経営研修」など、各層に向けた啓発研修を実施しています。

また、平成26年度からは、育児・介護のための休職や短時間勤務を行っている職員が、それまでの仕事を続けていた場合と同じ扱いになるように、公平・適正な評価を徹底し、昇格・考課に反映する制度に見直しています。

―放送局は24時間対応で、ワーク・ライフ・バランスを保つのが難しくご苦労も多いかと思います。子育てを行う女性の継続就業についてどのような取組をされていますか。

公共放送としては、皆様の安全・安心を守るという使命のため、繁忙にならざるを得ない状況も発生します。

ですから、職員の健康確保の徹底、長時間労働抑制の取組や効率的に業務を遂行する新たなフローづくりなど、働き方改革を進めています。

例えば「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組では、負荷のかかる編集期間を今までより長く設定して途中に休日確保を推進したり、「あさイチ」では、制作者に子育て中の女性職員が多いこともあり、ロケの時間や編集時間を短縮する演出を工夫したりしています。

また、仕事と子育てが両立できるように、育児短時間勤務やベビーシッター利用援助などの施策を実施、事業所内保育施設では、22時までの延長、週1回の宿泊利用が可能となっています。平成27年度に導入した在宅勤務制度は、育児や介護などの制約の有無にかかわらず、一定の職務経験や、自主的に業務を遂行できる能力を持つ職員全てが利用でき、対象者は11月現在、全国で約700名になっています。

―女性の出産前後での就業継続率はどの程度ですか。

ここ数年、育児休職からの復職者はほぼ100%です。女性職員が妊娠を報告すると、総務担当者が本人と上司に面談を行い、出産育児ハンドブックMommy’s Noteを活用して、出産、復職へのシミュレーションを行っています。

また、今年度から保活コンシェルジュを導入し、復職時や転勤時の保育園探しも支援しています。さらに、育児休職中の女性職員を主な対象とした「育児との両立 活躍支援セミナー」も行っており、復職後のモチベーションの向上や不安の軽減につなげています。両立には夫婦で育児を分かち合うことも重要なため、配偶者と一緒に参加することを推奨しています。平成28年度は、計2回実施して36組の夫婦を含む約100名の参加がありました。

一方で、マネジメントをする上司の意識改革も大切なので、管理職を対象に、「働き方に制約がある部下の指導育成術」という研修を行ったり、復職した職員の声を集めた「上司から言われてモチベーションが上がった言葉・下がった言葉集」も配付しています。これらの取組を通じて、子育て中の職員の能力を最大限に引き出し、長期的に育成する方法を学んでもらっています。

また、ダイバーシティ推進ポータルという社内のイントラでは、先輩たちの体験記など、両立の不安を軽減する情報を提供しています。

―男性の職員の産休、育休はどの程度進んでいるのでしょうか。

平成28年度に子供が生まれた男性職員で、当年度に育児休職を取得した率は3.6%、妻出産休暇を取得した率は73.3%となっています。

育児・介護休業法改正の趣旨等を踏まえて、10月より育児休職が取得できる期間を広げ、これまで子供が1歳半もしくは1歳の誕生日が属する年度末まででしたが満2歳に達する日までに延ばしました。また、妻出産休暇も出産日前後1カ月に5日間付与していたのを、予定日6週間前から出産後8週間の間と取得期間を広げました。

男性の育児参加は、女性活躍の推進だけではなく、本人が効率的な働き方を考える機会にもつながるとして、積極的に支援を行っています。配偶者が妊娠したことがわかった場合、育児参加を促すパンフレットや、Daddy’s Noteという制度・施策を網羅した冊子も配付しています。

―最後にNHKにおける女性活躍の課題や今後の可能性について教えていただけますか。

女性が働きやすい職場とは、男性にとっても働きやすい職場につながると思います。その実現のためには業務に携わるすべての人の健康を最優先に考え、長時間労働の抑制など、働き方改革の推進に取り組むことが最大の課題です。私自らリーダーシップを発揮し、強い意志でやり遂げたいと考えています。

視聴者の多様なニーズにお応えするためにも、女性をはじめとする多様な人材が一層輝き、活躍できる職場づくりに今後も努めてまいりたいと思っております。

―本日は、お忙しいところをありがとうございました。


上田 良一
日本放送協会(NHK)会長
うえだ・りょういち/
昭和48年4月に三菱商事(株)に入社し、北米統括兼米国三菱商事会社社長、常務執行役員、代表取締役兼常務執行役員(CFO)、代表取締役副社長執行役員(CFO)を歴任。平成25年6月に日本放送協会 経営委員会委員(常勤)、7月に監査委員に就任。平成29年1月より日本放送協会会長。

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