「共同参画」2017年11月号

連載 その1

女性活躍の視点からみた企業のあり方(7) ポジティブ・アクション
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 共生社会室室長主席研究員 矢島 洋子

平成14年に厚生労働省が公表した「ポジティブ・アクションのための提言」では、「ポジティブ・アクション(以下、PA)」とは、「固定的な性別による役割分担意識や過去の経緯から、男女労働者の間に事実上生じている差があるとき、それを解消しようと、企業が行う自主的かつ積極的な取組のことです」とされています。女性活躍推進法が企業に求める「計画策定」や「目標設定」もこのPAの一種です。数年前までの日本では、企業が女性に関する目標を設定すると言えば、「逆差別だ」という反発がありました。女性のみを対象とした研修についても「研修に男女差は設けていないので必要はない」と考えられていました。しかし、今では全ての大企業がこうしたPAを受け入れています。では、それらの企業では、PAの意義は理解されているのでしょうか?「逆差別だ」という反発はないのでしょうか?残念なことにそうではありません。「国が言うので仕方ない」、「女性を優遇して積極登用するしかない」といった認識の企業が少なくないとみられます。

PAを理解するには、まず、PAには「積極性」の度合いに応じていくつかの種類があるということを知る必要があります。大きく分けると、レベル1.男女双方への働きかけ(WLB推進・働き方改革、公正な育成・配置・評価、多様性を受け入れる風土づくり等)、レベル2.女性に積極的に機会を与える取組(目標設定、女性のみを対象とした研修、採用における女子学生への応募奨励等)、レベル3.女性を有利に扱う取組(管理職比率等のクオータ制、女性であることをプラスの要素とした評価等)です。1.は、特にPAと言わなくてもよい取組です。均等法や共同参画基本法で、「積極的改善措置」として、あえて「差別にあたらない」と宣言している取組、という意味では、2・3のみをPAと呼んだ方が分かりやすいでしょう。女性の多くは、2・3のPAは好ましくないと考えています。それでも、こうしたPAが必要なのは、この連載で紹介してきた「登用」や「育成」における長年にわたる問題の蓄積で現についてしまった差を短期に解消するためです。PAのレベルが上がるほど、短期的に男女の差を解消する効果はあるかもしれませんが、強い薬と同じで副作用の心配があります。女性は特別な支援をしなければ活躍できないという偏見を助長するリスクが生じます。

また、この2・3レベルのPAは、使い方にも注意が必要です。登用について言えば、女性が管理職になることに消極的だから女性社員にのみ意識啓発研修をすればよい、とか、評価にゲタをはかせて積極登用する、というのは偏見を高めるリスクのある使い方です。例えば、女性社員が昇進に消極的なのは、(これまで男女で育成方法が異なっていたため)実際に管理職となる準備が不足しているのか、実力はあるのに自信が持てていないのか、管理職の働き方に不安があるのか、満たしにくい登用基準があるためなのか等原因を把握し、上司と人事が協力し、短期的に問題解決にあたることが必要なのです。女性の意識啓発研修も、こうした取組とセットで行うことで良い効果が期待できます。あわせて、こうしたPAは過渡的な時期の取組であり、長期的には、レベル1.のような取組を通じPAが必要でなくなることを目指すべきなのだということを社内で共有することも大切なのです。

執筆者写真
やじま・ようこ/三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社共生社会室室長 主席研究員。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。1989年 (株)三和総合研究所(現MURC)入社。2004年~2007年 内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。男女共同参画、少子高齢化対策の視点から、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ関連の調査研究・コンサルティングに取り組んでいる。著作に、『ダイバーシティ経営と人材活用』東京大学出版会(共著)等。
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