「共同参画」2017年11月号

特集3

名古屋大学ジェンダー・リサーチ・ライブラリ(GRL)
名古屋大学ジェンダー・リサーチ・ライブラリ

名古屋大学は、国内外の関係機関と緊密な連携を図り、男女共同参画社会を実現するためのジェンダー問題に関する研究、教育、研究者の育成並びに男女平等意識の啓発及び普及を行う拠点とするため、全国でも珍しいジェンダーをテーマにした「名古屋大学ジェンダー・リサーチ・ライブラリ」を開館しました。

2017年11月1日(水)、名古屋大学にジェンダー・リサーチ・ライブラリ(GRL)が開館しました。

GRLは名古屋大学東山キャンパスの南側、四谷通り沿いに建設され、床面積は840平米、鉄骨造の2階建てで、最大4万冊を収蔵できる図書スペース、アーカイブのほか、閲覧室、展示コーナー、研究スペース、レクチャールーム、カフェスペース等を備えた研究活動施設です。

ジェンダー研究に特化したこうした施設は日本では珍しく、その特色は、ジェンダーに関する〈知〉の集積拠点でありつつ、同時に発信拠点としても機能することをめざす点にあります。

ジェンダーに関心のある方々に活用いただくとともに、どなたでも来館いただき、この機会にジェンダーに関心を持っていただけたら幸いです。


GRL外観

今回、GRLの建物は、篤志家の方よりご寄付いただきました。さらに、GRL創設を機に、公益財団法人東海ジェンダー研究所からは、研究所の蔵書に加えて、同研究所顧問で、日本のフェミニズム史研究の草分けである水田珠枝・名古屋経済大学名誉教授から研究所へ寄贈された蔵書(「水田珠枝文庫」)、研究所にゆかりのある方々によるジェンダー関連の貴重書を含む寄贈図書約2万冊・史資料、およびアーカイブを寄贈いただくとともに、今後20年間にわたり運営費もご寄附いただく予定です。


水田珠枝氏の蔵書を収めた文庫

2017年1月、名古屋大学と東海ジェンダー研究所の間で合意したGRLの目的は、次の3点です。

  • (1) ジェンダー問題に関する知を長く保存し、ジェンダー研究者等に提供するためライブラリとアーカイブを構築する。
  • (2) ジェンダーに関する制度や実践を研究し、21世紀の知のパラダイム・チェンジに貢献する。
  • (3) 国内外のジェンダー問題に関する研究、普及、およびネットワークの拠点を形成する。

以上の目的のもと、東海地域を中心に、長年にわたりジェンダー平等推進の活動を行ってきた東海ジェンダー研究所と、名古屋大学とが、今後はGRLを拠点に連携協力し、ジェンダー研究を通じた国内外との学術的ネットワークの構築、ジェンダー研究のさらなる推進、深化に取り組んでいくことになります。

GRLのエントランス正面の白壁には、フランス革命初期の1789年に採択された「フランス人権宣言」(左側青字部分)と、その2年後にオランプ・ドゥ・グージュ(Olympe de Gouges:1748-1793年)が発表した「女性および女性市民のための権利宣言」(右側赤字部分)が描かれています。


GRLエントランス正面

フランスの国民議会が議決した「フランス人権宣言」は、フランス革命の基本原理である国民主権、自由と平等などを謳い、世界に影響を与えました。しかし、ここでの「人」とは、男性をさすものでした。

そこで、全17条からなるこの「男性と男性市民の権利宣言」の構成にならい、グージュが表したのが、「女性および女性市民のための権利宣言」です。

女性の権利を象徴する第10条には、次のようにあります。

第10条 何人も、たとえそれが根源的なものであっても、自分の意見について不安をもたらされることがあってはならない。女性は、処刑台にのぼる権利がある。同時に女性は、その意見の表明が法律によって定められた公の秩序を乱さない限りにおいて、演壇にのぼる権利を持たなければならない。

(訳:辻村みよ子『ジェンダーと人権』、旧『女性と人権』)

後にグージュは反革命の容疑で逮捕され、この10条を体現するかのように、断頭台の露と消えました。

それは、女性による政治活動が危険視された時代の悲劇とも言えますが、ならば200年以上を経た現在、彼女が主張した女性による諸権利の獲得や、ジェンダー平等が十分に達成されたかと言えば、まだ道半ばと言わざるを得ません。

そうした女性の歴史をたどり、学びながら、社会システムや文化、思考様式をジェンダーの視点から問い直していく学術的な営みは、男女共同参画を推進していく上でも不可欠です。

今後GRLでは、ジェンダーに関する書籍および資料を体系的に収集するとともに、研究センターとしてジェンダー学の研究成果を国内外に向けて発信していくための活動も行っていきます。


水田珠枝文庫所蔵図書

その第一弾として、2018年3月には、GRLと東海ジェンダー研究所との共催による開館記念講演会を開催します。講師は、ハーバード大学ナンシー・F・コット教授です。

コット教授は、19世紀および20世紀を中心としたアメリカ女性史を専門とする歴史学研究者であり、2001年~2014年まで、ハーバード大学ラドクリフ研究所所属シュレジンガー図書館(アメリカ女性史関連の資料を蒐集する図書館であり、ジェンダー研究施設でもある)のディレクターでもありました。

今回の招聘では、講演とセミナーを開催し、コット教授の研究に学ぶとともに、ジェンダー研究を目的とする研究施設のありかたについても貴重な示唆が得られるものと期待しています。

コット教授によるGRL滞在中のプログラムについては、GRLのウェブサイトにて順次お知らせしていきますので、ご確認いただけたら幸いです。

また、年度内に予定されているGRLを会場とする企画としては、2018年1月20日(土)21日(日)に、名古屋大学人文学研究科附属「アジアの中の日本文化」研究センター(JACRC)主催のシンポジウム「1930年前後の文化生産とジェンダー」も予定されています。

本シンポジウムでは、ジェンダー学の観点から最先端の研究を行っている米国、台湾、韓国の研究者を招き、1930年前後の女性知識人・表現者による文化生産の動向をアジアと日本の関係性を視野にいれ、検証するとともに、GRLを会場に、「『女人芸術』という回路」と題した展示も計画されています。

こうした講演やシンポジウムを通じて、ジェンダー学を専攻する、あるいはジェンダー学に興味のある学生や、一般の方々にとっても、このGRLが出会いと対話、議論の場となることを願っています。


閲覧室

GRL:
開館 10:00~17:00(金曜日10:00~20:00)
閉館 日曜・月曜・祝日・年末年始
e-mail:
grl@adm.nagoya-u.ac.jp
GRLウェブサイトURL:
www.grl.kyodo-sankaku.provost.nagoya-u.ac.jp
内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
電話番号 03-5253-2111(大代表)
法人番号:2000012010019