「共同参画」2017年10月号

連載 その1

女性活躍の視点からみた企業のあり方(6) 女性活躍と転勤問題
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 共生社会室室長主席研究員 矢島 洋子

女性の就業継続が進み、活躍が期待されるようになったことで、企業であらためて問題となってきたのが「転勤」です。

まずは、結婚や出産期を乗り越えた女性社員が夫の転勤によって辞めていくという問題が、注目を集めるようになりました。大企業で拠点が多ければ、夫の転勤先に近い事業所への異動を可能としたり、社内カップルであれば夫婦帯同を認めるといった対策、そうでなければ、休職を認めたり、再雇用制度を強化するといった対策があります。地方銀行のように、業界内で連携して、同じ職種でキャリアを継続できるようにするという取組みも始まりました。

もう一つの問題は、従来の人材育成策上はキャリアアップのために転勤が必要とされているが、タイミングが子育て期に重なり転勤できないという問題です。この対策としては、子育てを事由とした転勤の免除、タイミングの調整等があります。女性の中に一定層、こうした問題への不安があることを見越して、地域限定正社員という選択肢を用意する企業もあります。限定正社員とかつての一般職の違いは、非限定正社員との違いを、極力「働き方」の違いに留めようとする点です。雇用形態の違いが職責の違いや昇格上限の違い等に結び付くことを、できるだけ避けようとする傾向がみられます。そうでなければ、かつての一般職のように女性社員の活躍機会が限定されてしまうためです。

3つめの問題は、夫婦どちらかの転勤により家族が引き離されることで、単身子育て家庭が生まれ、仕事と生活の両立がより困難になるということです。就学前の子を持つ正社員女性を対象とした調査で、本人あるいは配偶者の転勤でこれまで感じた悩みを聞いたところ、最も多かった回答は、「配偶者の仕事への影響」、次いで「自分自身の仕事への影響」ですが、3番目は「自分自身もしくは配偶者いずれかの子育て負担が増えること」となっています。実際に、本人あるいは配偶者が転勤した際の育児分担の変化を聞くと、女性正社員では、51.5%が「自分が担うことが増えた」と回答しています。一方、配偶者の転勤に合わせて異動や転職をする割合は、正社員子育て家庭ではあまり男女差がない、という傾向もみられます。

これからは、育児だけでなく親の介護等を理由に、転勤の配慮を求める社員が増えるでしょう。転勤を免除する社員が増えれば、従来の転勤政策は成り立たなくなる可能性もあります。地域限定正社員も一つの解かもしれませんが、子育て期の備えとして若い時期から限定正社員を選択した女性は処遇が低くなり、親や祖父母の介護により途中から転勤免除を希望した社員は処遇に影響しない、となると制度運用においてひずみが生じる可能性があります。

今後の転勤政策見直しの方向性としては、特別な事由を持った人のみ配慮するというより、転勤の必要性そのものを見直し広範囲な転勤の可能性を絞り込む、転勤の可能性で処遇を分けるのでなく実際の対応結果で処遇差をつける仕組みを取り入れる、転勤の時期や異動先について社員の希望とのマッチングをはかる、転勤を要件とするキャリアパスを見直す、異動先で子育や介護等がしやすくなるよう支援する、といった視点が必要となるのではないでしょうか。

図 転勤による育児分担の変化(女性・正社員)


執筆者写真
やじま・ようこ/三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社共生社会室室長 主席研究員。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。1989年 (株)三和総合研究所(現MURC)入社。2004年~2007年 内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。男女共同参画、少子高齢化対策の視点から、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ関連の調査研究・コンサルティングに取り組んでいる。著作に、『ダイバーシティ経営と人材活用』東京大学出版会(共著)等。
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