「共同参画」2017年10月号

特集

女性とスポーツ─2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた女性活躍のための取組─
男女共同参画局総務課

2020年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックを3年後に控え、スポーツ界及び東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会にかかわっていらっしゃる3人の方から、「女性とスポーツ」をテーマとして、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた女性活躍のための取組について、お話をお伺いしました。

IOCにおける「スポーツにおける女性委員会」の取組─2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて─
●国際体操連盟会長 渡辺 守成氏

国際体操連盟会長 渡辺 守成氏

私は1980年に東海大学の交換留学生としてブルガリアに留学し初めて新体操と出会いました。新体操王国のブルガリアでは、女の子たちに新体操を指導する際には、まず最初に音楽とその音楽の意味を、そして絵画や演劇など全ての芸術を教えたうえで新体操の演技をつくっていました。私はこの新体操に魅了されました。理由は2つありました。一つ目の理由は、1980年当時の日本はバブル期でモノへの満足度が最優先する時代でした。しかし、私は「モノの豊かさ」を求める時代はいずれ終焉を遂げ、「心の豊かさ」を求める時代が来ると予測していました。そういう時代には、この新体操が人気になるだろうと思ったのです。もう一つの理由は、21世紀は日本も女性の時代になると予測していました。それは、当時ブルガリアが社会主義国で、男女平等の社会において女性の活躍を目のあたりにしていたからです。

帰国し卒業とともに、ジャスコ(現イオン)に就職し、「イオン新体操教室」を全国に展開し始めました。一人でも多くの女の子たちに新体操を体験してもらい、「健康で美しい身体」と「芸術が理解できる心」を育んで次代を担う「美しく強く優しい女性」に育ってもらおうと考えたからです。当時は企業スポーツが華盛りで多くのメーカーがCIスポーツに取り組んでいました。しかし、私は敢えて川下の小売業に目をつけました。小売業の力を借りて新体操をメジャースポーツに育てようと試みたのです。女性はショッピングセンターに買い物に来られます。買い物に来られた際に、お母様にはショッピングを楽しんでいただき、その間にお嬢様を新体操教室に預けていただき心身ともに健康になってもらおうと企画しました。1984年に3名の会員で始まった「イオン新体操教室」は今では会員数8千名を超え、イオンの新体操教室を卒業し、新体操により心身を鍛えた女性は10万人を超えています。また、世界の新体操選手が集まって難民の子どもたちを救おうという開催主旨の「イオンカップ世界新体操クラブ選手権」は今年で23年目を迎えました。

このたび私が国際体操連盟会長としてIOCの「スポーツにおける女性委員会」のメンバーに任命された理由は、世界における新体操発展の「功」と、USA女子体操界で発覚したセクハラ問題の「罪」だと存じています。私は「スポーツにおける女性委員会」への就任前に、「スポーツにおける男女平等」ワーキンググループのメンバーとして活動をいたしました。そこでの私の提案は、「スポーツにおける男女平等はゴールではない」という主張です。全ての団体は社会に貢献することで、はじめて存在意義が生まれます。「スポーツにおける男女平等」は何を社会にもたらすか、何を社会に貢献するかというビジョンが必要なのです。

まず考えなければならないのは「男女平等」とはどういうことなのか、なぜ必要なのかということです。私の理論の「男女平等」とは「男性と女性には違いがあるということを認めたうえで、女性の必要性を男女で共有すること」だと思っています。そして必要性については、激変する社会の多様性に対応するために「男女平等」が必要なのだと理解しています。現代社会は人類の過去の歴史にはない急激な変化を遂げ続けています。これらの変化に素早く対応し、人類がより良い社会を構築していくためには、従来の男性目線の基準づくりや社会構造では多様性を受け入れられなくなってしまうからです。例えば、2017年の日本の国会議員における女性議員の比率は13%です。しかし、国民の人口比率は男性49%で女性51%です。男性が87%を占める国会で様々な政策決定をしていく中で、国民意思とはズレが発生していくのは当然の成りゆきということです。

スポーツにおいても同様で、スポーツ界が男性目線で様々なことを決定し実施していったならば、社会の中でスポーツを体験、観戦している多くの女性からは違和感をもたれてしまいます。その結果、スポーツは社会の中でその存在意義を無くしてしまう恐れがあるのです。

今年の11月9日にIOCの「スポーツにおける女性委員会」の初会議が開催されます。現段階で会議のアジェンダはまだいただいていませんが、「2017ウーマンスポーツ賞」の授与者選考会議の議事録が送付され意見の聴収がありました。候補者のほとんどは女性でスポーツを経験し、スポーツ界の中で女性の地位向上に努力されていました。確かにスポーツ界の中で女性の地位向上を図ることはとても有意義なことですが、それ以上にスポーツ界以外の人たちがスポーツ界の女性の存在に気づき、その女性の地位を向上させることで、社会全体の中で女性の存在意義を認識し高めることのほうが重要だとコメントしました。

社会が自然体で女性の存在意義、必要性を見出す、そんなシステムの構築に努めて参りたいと存じます。

日本における「女性とスポーツ」の現状と課題─2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて─
●筑波大学体育系准教授 山口 香氏

筑波大学体育系准教授 山口 香氏

リオデジャネイロ五輪の日本選手団は男性174名、女性164名でした。メダル数は男性23個、女性18個、金メダル数は男性5個、女性7個という結果でした。この数字からもわかるようにトップスポーツにおいては、女性アスリートの活躍は目覚ましく、男女ほとんど差がない状況です。しかしながら、役員やスタッフの割合は、女性が2割程度であり、大きな差が見られます。日本のみならず、スポーツは男性の占有物であった時代が長く続き、女性に道が開かれたのは男性の歴史と比べれば最近と言ってもいいと思われます。日本の女性アスリートが活躍する種目としてイメージできる女子マラソンは1984年ロサンゼルス五輪、女子柔道は1988年ソウル五輪(ソウルは公開種目、正式種目となったのは1992年バルセロナ五輪)、女子サッカーは1996年アトランタ五輪、女子レスリングは2004年アテネ大会から採用されました。そして、2012年ロンドン五輪では行われた26競技全てに女性種目が採用され、参加した204の国と地域全てから女性選手が参加した歴史的な大会となりました。

このように女性スポーツの歴史が浅いために、取り巻く環境も脆弱な部分があります。例えば、女性の発育発達を考慮した指導方法やトレーニング理論が構築されているでしょうか。現在でも女性を指導するのは男性コーチが多いために、女性の成長過程や生理的な特徴、変化といった部分に無知であるケースが見られます。女子は第二次性徴によって月経が始まり、体つきも変化します。この変化はアスリートにとっては必ずしも好ましいものではなく、それまで普通にできていたパフォーマンスが急にできなくなったり、体重のコントロールが難しくなったりもします。このような変化を指導者が前提として持っていて、変化を受け入れながら成長できるように寄り添うことが望ましいのですが、「最近、重くなった?だからタイムが出ないのでは?」というような何気ない言葉を発して、アスリートを傷つけてしまうことがあります。実際にジュニア期に過度な食事コントロールや減量から月経異常を起こし、そのことが疲労骨折や貧血につながり、ドロップアウトしてしまうという最悪の結果を招くことも少なくありません。女性アスリートは男性とは違う身体、生理機能を持っているということをアスリート自身も指導者も認識することが大事です。また、女性に特化したスポーツ医科学の研究や指導者が正しい知識を得るための講習会を行うなどの取り組みが重要です。スポーツは頑張ったから夢が叶うとは限りませんが、その過程において間違った指導方法によって挑戦の機会が奪われてしまうことがないように努めていかなければなりません。

平成28年度の調査では、女子の小学生は11.6%、中学生は20.9%が1週間の総運動時間が60分未満であることが報告されています(1)。また、平成28年度に行ったスポーツの実施状況等に関する世論調査では、「現在運動スポーツはしておらず、今後もするつもりはない」と答えた女性が38%でした(2)。若年女性のやせ過ぎや栄養不足も問題視されています。日本女性の平均寿命(2016)は87.14歳で過去最高を更新しており、世界2位の長寿となっていますが、長寿であること以上に健康寿命が重要です。そういった意味において日本の女子、若年女性の運動やスポーツ、健康に対する意識には大いに不安を感じます。男子は、トップスポーツの活躍が憧れに直結するようですが、女子の場合にはそれほど単純な思考にはならないようです。女性アスリートの活躍は「すごい」とは感じても「自分もあんな風になりたい」ではなく、「私には難しい、無理」という思考になってしまうようです。つまり、女性スポーツはトップアスリートの活躍と一般女性、女子児童生徒の運動意欲との関連が薄いと考えられます。女性アスリートへの指導が男性とは違うように、女性に対するスポーツの普及も女性に特化してプロモーションしていく必要を感じます。

(1) 平成28年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果(スポーツ庁)
(2) 平成28年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」(スポーツ庁)

私は現在、日本オリンピック委員会の女性スポーツ専門部会の部会長を務めており、女性のスポーツ環境を改善、向上するための様々な活動を行っています。その中で、重点的に取り組んでいるのが各競技団体において女性役員を増やすという働きかけです。それぞれの競技で積極的な普及活動及び選手の育成強化は行っていますが、そこに女性の視点が入っているかどうかが重要です。男性だけの視点では、強化も普及も今まで以上の成果を望むことは難しいと考えています。日本が女性活躍を推進するのは、女性が新たなビジネスチャンスやイノベーションの鍵となる存在であるからであり、それはスポーツにおいても同様です。2020年東京に向けて「する・見る・支える」のどの観点からも女性の視点をもっと取り入れ、活用していくことが肝要で、この取り組みは2020のレガシーとなるに違いありません。

「人権レガシー」の構築を目指して─東京オリ・パラ「持続可能性に配慮した調達コード」に基づく調達の取組み─
●亜細亜大学国際関係学部教授 秋月 弘子氏

亜細亜大学国際関係学部教授 秋月 弘子氏

国際オリンピック委員会(IOC)によって定められたオリンピック憲章の「オリンピズムの根本原則」では、オリンピックは人権に配慮したスポーツ大会であることが謳われています。また、国際パラリンピック委員会(IPC)もIPCハンドブックの「人権に関する立場表明」で人権尊重の理念を表明しています。実際に、2012年第30回ロンドン大会の後には「英国の人々の障がい者に対する意識や考え方が変わり、まさに国が変革する機会になった」、2016年第31回リオ大会の後には「国がスポーツを通じた人権の擁護を行ったことが重要だった」との評価が与えられています。

しかし、すべての参加国・地域からの女性選手の参加が初めて実現したのは、2012年第30回ロンドン大会からです。その後もイスラム教の戒律に従った服装で競技に参加しなければならないなど、女性に対する制限はいまだに残っています。

2020年第32回東京大会の3つの基本コンセプトの1つである「多様性と調和」では、「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩(する)」、「東京2020大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする」と謳われています。

このため2020東京オリ・パラ組織委員会は、「持続可能性に配慮した調達コード 基本原則」に基づき、環境負荷の最小化を図るとともに、人権・労働等社会問題などにも配慮した物品・サービス等の調達を行うために「持続可能性に配慮した調達コード」を策定しました。この調達コードの中で、人権、とくに女性の権利に関する取り組みとして、差別・ハラスメントの禁止、女性の権利尊重、雇用及び職業における差別の禁止、などが規定されています。また、ワーク・ライフ・バランス推進の必要性についても規定されており、女性活躍推進法に基づく国等のワーク・ライフ・バランス等推進企業を評価する調達等の取組が紹介されています。

この調達コードでは国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)にも言及していますが、その目標5においてジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図ることが目指されています。

これらの目標達成のための具体的な取組として、企業が「女性のエンパワーメント原則(WEPs)」(http://www.gender.go.jp/international/int_un_kaigi/int_weps/index.html)に従い、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを経営の核に位置付けて自主的に取り組むことが望まれます。

1964年の東京大会では、言葉に代わるものとして世界で初めて使われた絵文字ピクトグラムがレガシーの1つとなりました。2020年の東京大会では、多様性を尊重する共生社会の実現という「人権レガシー」を構築し、日本を変革する機会にしようではありませんか。

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