「共同参画」2017年9月号

連載 その1

女性活躍の視点からみた企業のあり方(5) 時間制約社員のマネジメント
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 共生社会室室長主席研究員 矢島 洋子

近年、女性正社員の妊娠・出産時の就業継続が拡大してきた背景には、短時間勤務制度利用の定着があります。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが実施した「平成28年度仕事と家庭の両立に関する実態把握のための調査研究(厚労省委託事業)」の企業調査では、「妊娠・出産で離職する女性はほとんどいない」と答えた企業が53.9%です。また、育休取得後に、短時間勤務を「ほとんどの人が利用する」と答えた企業は32.3%であり、従業員301人以上の企業では58.6%にのぼります。育休取得直後に、長時間労働に巻き込まれるのを回避できることで、就業継続という選択をする女性が増えました。

一方で、新たな課題も浮上してきました。子育てという時間制約を持ちながら働く正社員が、これまで時間制約が無いかのように仕事第一で働くことが当たり前だった日本企業の中で、どのような役割を担い、評価され、キャリアを形成していくのか、という課題です。特に、柔軟な働き方を導入してこなかった大企業において、この問題は深刻です。

では、短時間勤務者が、就業継続するだけでなく活躍するためには、どのような企業の取組みが必要なのでしょうか。必要な取組みには、(1)制度設計、(2)運用ルール、(3)キャリア形成支援、(4)風土醸成という4つのポイントがあります。(1)制度設計としては、個々の社員の子育て事情等に合わせつつ、フルタイムに近い状態で働く選択が柔軟にできるようにすることです。法定で定められた1日6時間だけでなく、7時間や7時間半という選択ができるようにする。法定を超えて学童期まで制度を導入した企業では、途中で、フルタイムに戻しても、また制度利用できるようにする、などです。(2)運用ルールは、仕事の配分や評価方法についてルールを明示し、全社員に周知します。仕事の配分の原則は、「質は落とさず量を勘案する」。短時間勤務者は、短縮した時間分の給与は控除されますが、等級が下がるわけではありません。そのことを共通理解とし、期待役割を下げずに目標設定し、目標に対する絶対評価をすることで、制度利用者はがんばっても評価されない、というイメージを払しょくすることが大切です。また、制度利用者をサポートした周囲の社員を評価し、組織への貢献を認めることも必要です。(3)キャリア形成については、キャリアの見通しを示します。特に、管理職への昇進などは、制度利用者がどのような要件を満たせば候補となりうるのかを示していない企業が多く、そのことが制度利用者のキャリア意識を消極的なものにしています。(4)風土醸成は、時間制約のある社員を他の社員が一方的にサポートする、という関係ではなく、「多様な働き方をする社員で構成される組織で、どのように効率的に仕事を進め、成果を出すか」を、全員が当事者として考え、協力しあえる組織を作ることです。

短時間勤務の運用は確かに容易ではありません。しかし、短時間勤務を利用できるからこそ、経験もスキルもある社員が会社に留まるようになった、ということを忘れてはなりません。そして、これから日本企業がフレックスや在宅勤務等の柔軟な働き方を本格導入する上で、短時間勤務の運用経験が役に立つはずです。

執筆者写真
やじま・ようこ/三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社共生社会室室長 主席研究員。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。1989年 (株)三和総合研究所(現MURC)入社。2004年~2007年 内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。男女共同参画、少子高齢化対策の視点から、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ関連の調査研究・コンサルティングに取り組んでいる。著作に、『ダイバーシティ経営と人材活用』東京大学出版会(共著)等。
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