「共同参画」2017年7月号

連載

女性活躍の視点からみた企業のあり方(3) 女性の採用目標
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 共生社会室室長主席研究員 矢島 洋子

女性活躍推進法に基づく行動計画では、女性管理職割合と並んで、女性社員の「採用」に関する数値目標を掲げる企業が多くみられます。女性活躍のアウトカム指標というと、「女性管理職割合」の他、「就業継続年数の男女差」や「女性社員割合」が思い浮かびますが、なぜ「採用」目標を掲げる企業が多かったのでしょうか。

「就業継続年数の男女差」が大きくなってしまっている企業は、その差を縮めるのにかなりの年月がかかります。「女性社員割合」は、女性の採用を増やし、就業継続率を高めたとしても、男性の離職率によって目標を達成できない可能性があります。つまり、短期的な計画において、人事担当者が経営に約束できる指標として、「採用」というのは設定しやすい目標だったのではないかと考えられます。ただし、「採用を増やす」のもそれほど簡単なことではありません。「女性の採用割合増」が目標で、そのための「取り組み」が「女性の積極採用」というように、結局「採用増」は目標なのか?手段なのか?分からない計画もみられますし、実際どのように「採用を増やすのですか」と聞くと、言葉に詰まってしまう人事担当者もいます。

これまで女性の採用が少なかった理由を考えると、応募者そのものが少ない場合と、「応募者に対する採用割合」が少ない場合が考えられます。応募者が少ない場合は、応募者を増やすための働きかけを行う、というのが一つの取り組みでしょう。女性を対象とした会社説明会を行ったり、将来の応募増を目指して、女子学生の進路選択への働きかけから取り組む企業もあります。「応募者に対する採用割合」が低いのは、女性に不利に働く採用基準があったり、これまで、女性が結婚・出産で辞めてしまう割合が高かったことなどから、男性を多く採用しておこうとする採用方針や採用担当者の意識が働いていたことなどが考えられます。この場合、結婚・出産による女性の離職が減ってきたことを背景に、従来、男性優位に働いていた採用方針や意識のバイアスを取り除き、応募者の能力や適性を見極めた採用をしていくことで、自ずとこれまでよりも女性の採用割合が高まる可能性がある、というのが、社内外に説明しやすい考え方でしょう。

しかし、これまで応募者に占める女性割合も2割程度で、結果として1割以下しか女性を採用していなかった企業が、女性を3割~4割採用する目標を立てた場合、いきなりこの目標を達成するのは困難なことです。明らかに、女性の方が「応募者に対する採用割合」が高くなる目標を達成するには、採用基準そのものにバイアスをかける必要性が高まるためです。人事が「採用の基準はあくまでも人物重視で女性を優位とするものではない」と説明しながら、上記のような高い目標を現場に下ろすことで、とまどっている採用担当者も少なくないでしょう。その影響は、採用された女性社員に対する偏見や低い評価といった形で長く残る危険性もあります。これまで男性優位だった採用基準により、男性社員の割合が高い状況を、短期的に解消するためのポジティブ・アクションとして、「評価が同じならば女性を採用する」とするといった方針を取ることもありえますが、これを行うのであれば、現場任せでなく、人事の責任ある判断のもとで行うべきでしょう。

執筆者写真
やじま・ようこ/三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社共生社会室室長 主席研究員。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。1989年 (株)三和総合研究所(現MURC)入社。2004年~2007年 内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。男女共同参画、少子高齢化対策の視点から、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ関連の調査研究・コンサルティングに取り組んでいる。著作に、『ダイバーシティ経営と人材活用』東京大学出版会(共著)等。
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