「共同参画」2017年5月号

連載

女性活躍の視点からみた企業のあり方(1) なぜ女性活躍の推進が必要か
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 共生社会室室長主席研究員 矢島 洋子

女性活躍推進法が施行されて1年が経ちました。女性の活躍を推進すべき理由はたくさんあります。

まず、最初に言うべきは、これは「人権」の問題だということでしょう。しかし、残念ながら、日本ではこの理由はほとんど効力を持ちません。欧米では、一定の効力を持っているようですが、それでも企業が動くには、別の動機が必要でした。企業経営上の利益や法的規制などです。日本でも、法整備が進み、労働人口の減少と景気の回復により、多くの企業にとって労働力の確保が経営上の深刻な問題となってきたことが後押しとなり、ようやく女性活躍の推進に本気で取組む企業が増えています。ただし、それでもなお、「当社で」女性の活躍を推進する必要があるのか、という質問を未だに受けます。

例えば、ほとんど採用をしない企業、まだ若い男性が必要なだけ採用できている学生に人気の企業、大企業でも女性がほとんど配置されていない地方の事業所や工場、経営も女性従業員も女性が管理職になることなど望んでいないという中小企業、業種や職種の特性により女性社員の割合が圧倒的に高い企業、今のところ新たなイノベーションなど必要がないという企業。こうした組織では、女性の活躍を推進する必要はないのでしょうか。

企業経営者や人事担当者、現場の管理職から、たびたびこうした質問を受ける中で、どんな組織でも、共通して言えるであろう答えを見つけました。「この組織では、なぜ女性が活躍できないのだろう?」言いかえれば、「男性と同じように採用・配置・育成・登用することになぜ困難があるのだろう?」という問いかけをし、そこで見つかった課題は、その組織が「健全に利益を追求し合理的に機能するために改善すべき課題でもある」、ということです。

私は、ビジネススクールで毎年新たな社会人学生を迎えて、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティについての講義をしています。近年は、女性や時間制約のある人が企業で活躍するための課題について、ディスカッションを重ねるスタイルを取っています。初回の議論では大抵、「企業は法律や政府の求めに応じてサポートをする必要があるが、周囲の社員との間に不公平が生じてしまう」、「これまで組織として機能していたものが機能しなくなる」、といった認識が大半を占めます。しかし、様々な角度から問題を深堀していくと、最後には、「女性や時間制約のある人が活躍できる組織は、そうでない人にとってもこれまでより望ましい組織である」、「組織そのものもより合理的に機能するのではないか」、という結論に達するのです。そして、この結論を元に、取組むべき施策を考えると、女性をターゲットとした取組みに留まらず、現在、政府が推し進めている「働き方改革」を含め、企業の人事戦略や経営戦略に関わる広い取組みが必要だということが見えてきます。

この連載では、一見女性の課題とみられるいくつかのテーマを取り上げ、それらが企業組織のどのような問題に根差しているのか、目指すべき組織のあり方や真に取組むべきは施策は何なのかについて考えていきたいと思います。

執筆者写真
やじま・ようこ/三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社共生社会室室長 主席研究員。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。1989年 (株)三和総合研究所(現MURC)入社。2004年~2007年 内閣府男女共同参画局男女共同参画分析官。男女共同参画、少子高齢化対策の視点から、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ関連の調査研究・コンサルティングに取り組んでいる。著作に、『ダイバーシティ経営と人材活用』東京大学出版会(共著)等。
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