「共同参画」2016年7月号

「共同参画」2016年7月号

連載

女性の経済的エンパワメント・各国の取組(3) 世界の仲間とつながる
立命館大学法学部 教授 大西 祥世

2016年3月のアメリカ合衆国ニューヨーク市は、例年よりも暖かく、エネルギーにあふれていました。同年3月15日〜16日に、国連本部にて、国連「女性のエンパワメント原則(Women’s Empowerment Principles。略して『WEPs(ウェプス)』)」(注1)の年次会合が開催され、コスタリカの大統領が基調報告で熱弁をふるいました。昨年はヒラリー・クリントン前米国国務長官が、1995年の「北京会議」からの20年間の歩みと今後の展望について活気あふれる報告をして、会場が一体感に包まれたことを思い出しました。

(注1) 2010年3月に、国連グローバル・コンパクト(UNGC)とUN Womenが共同で作成した7つの原則。2016年6月10日現在、世界の1,239社(うち、日本は216社)がWEPsへの支持を表明している。詳しくは、http://weprinciples.org/を参照。

原則1
トップのリーダーシップによるジェンダー平等の促進
原則2
機会の均等、インクルージョン、差別の撤廃
原則3
健康、安全、暴力の撤廃
原則4
教育と研修
原則5
事業開発、サプライチェーン、マーケティング活動
原則6
地域におけるリーダーシップと参画
原則7
透明性、成果の測定、報告
(内閣府仮訳)

WEPsの年次会合は、毎年、企業、国際機関、政府、市民社会から約350人が参加しています。国連主催の会議ですが、参加者どうしがフレンドリーで、和やかな雰囲気です。年1回、わいわいと話しながら直接に最新情報を交換することを楽しみにしています。今年はスリランカやイギリスからの参加者から、日本は政府も企業もがんばっているね、と話しかけられ、日本の取組が注目されているのがよくわかりました。

年次会合ではさまざまな好事例が報告・議論されます。トルコの衛生陶器のトップメーカーのCEOが社員全員に女性のエンパワメントを推進しようという手紙を送り、社員研修を実施して大きな成果が表れたという取組や、メキシコのレストランチェーンが6,000人の女性生産者と契約することで地域女性の経済的エンパワメントを促進する取組にはとても感動しました。オーストラリアでの「変革を担う男性チャンピオン」といった政府と企業が連携する斬新な取組も報告されました。毎年、企業がもっているさまざまな新しい可能性に気づくことができて、大きな刺激を受けています。

世界中の多くの企業や政府が、先進国・途上国を問わず、女性のエンパワメントを通じて、グローバルな経済・社会状況の変化に立ち向かおうとしています。こうした考え方をもつ企業が活用できるツールがWEPsです。職場、市場、地域において、どのように女性の活躍を促進するかの指針となる、ビジネス向けの簡潔な枠組みです。WEPsを軸にすると、企業は、社内の取組だけではなく、サプライチェーン、投資会社、地域自治体や政府、市民社会といったさまざまなステークホルダーと協働して、一緒に女性のエンパワメントを推進できます。なお、WEPsの発足後は、企業、国連機関、市民社会、アカデミアのメンバーから構成される「WEPsリーダーシップグループ」が中心となって、WEPsをより一層活用するための文書やツールを議論し、まとめています。

WEPsはこうした取組のグローバル・スタンダードとして、さまざまな国際機関や政府もこれを支持しています。2016年の「G7伊勢志摩サミット」首脳宣言では、「WEPsを我々自身も促進する」という文言が盛り込まれました。2015年にドイツでは、「エルマウサミット」終了後に、WEPsや起業に関するフォローアップ会合が開催されました(注2)。このバトンは、日本を経て、来年のイタリア「シチリアサミット」につながるでしょう。

(注2) UNGC,“IMPACT: Transforming Business, Changing the World - The United Nations Global Compact”, 2015.

WEPsという共通の枠組みを通じて世界の仲間をつながることで、ビジネスの成長とジェンダー平等の実現に向けた大きな希望があると思います。来年はG7各国での理解もさらに進んで、女性リーダーがもっと増えることが期待されます。

執筆者写真
おおにし・さちよ/立命館大学法学部教授。博士(法学)。専門:憲法、ジェンダーと法・政策、議会法。国連「女性のエンパワメント原則」リーダーシップグループメンバーとして活動。主著:『女性と憲法の構造』(信山社、2006年)、「国連・企業・政府の協働による国際人権保障」国際人権27号(2016年刊行予定)、「『政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない』の保障」立命館法学355号(2015年)等。