「共同参画」2016年7月号

「共同参画」2016年7月号

特集1

多様な働き方・暮らし方に向けて求められる変革─平成28年版男女共同参画白書から─
内閣府男女共同参画局調査課

本年5月31日、平成28年版男女共同参画白書が公表されました。特集「多様な働き方・暮らし方に向けて求められる変革」のポイントをご紹介します。

5月31日に、「平成28年版男女共同参画白書」が閣議決定、公表されました。この白書は、男女共同参画社会基本法に基づいて毎年国会に報告されるもので、今回が17回目になります。

今回の白書では、特集として「多様な働き方・暮らし方に向けて求められる変革」をとりあげました。ここでは、特集のポイントをご紹介します。

(1)女性を取り巻く社会情勢

総務省「国勢調査」によると、平成27年(2015年)の日本の総人口は1億2,711万人(速報値)となっていますが、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計(24年1月推計)」(中位推計)によれば、平成60年(2048年)には1億人を割り、平成72年(2060年)には8,674万人になることが見込まれています。ここで、現役世代を20〜64歳とした上で、現役世代人口の65歳以上人口に対する比、すなわち、1人の高齢者を何人の現役世代で支えているかを見てみると、昭和25年(1950年)に10.0人だったものが平成22年(2010年)には2.6人となっています。今後も、平成32年には2人を切り、平成72年には1.2人まで低下すると見込まれています。持続的発展のためには、現役世代、中でも大きな潜在力を持つ女性の活躍が喫緊の課題となっています。

昭和45年から平成26年にかけての女性を取り巻く状況の変遷を見ると、女性の平均寿命は74.66年から86.83年へと大きく伸び、総人口に占める65歳以上人口の割合である高齢化率も7.1%から26.7%(平成27年)と大幅に上昇しています。一方、女性の平均初婚年齢は24.2歳から29.4歳と5歳以上上昇し、平均第1子出生年齢は25.6歳から30.6歳となり、初婚年齢の上昇と呼応する形で高くなっています。晩婚化、晩産化の影響も受け、合計特殊出生率は2.13から1.42となっています(図表1)。


図表1 女性を取り巻く状況の変化

(2)女性の労働力率の変化

女性のライフステージの各段階と就業の関係を考える上で、女性の年齢階級別労働力率を見てみると、日本は諸外国と異なりM字型のカーブを描いています。

日本のM字カーブは、長期的に見ると、必ずしも昔からそうした形状であったわけではなく、高度成長期頃にできあがってきたものであり、図表2はその変遷を見たものです。

大正9年には、15〜19歳の女性の労働力率は7割近くあり、年齢が上がるとともに労働力率が低下する傾向にありました(右肩下がり)。昭和30年には、それまでに中等教育への進学が急速に進んだことを背景に、15〜19歳の労働力率が下がって20〜24歳の労働力率が上がり、M字カーブの左側の山が形成されました。高度成長期の昭和40年には、25〜29歳、30〜34歳の非労働力化が進み労働力率が50%を切ったことや、40歳代の労働力率が上がった結果、M字型がはっきり確認できるようになっています。平成22年には、M字の底が上がって70%近くに達するとともに、M字の底の年齢層が昭和40年の25〜29歳から35〜39歳に上がっています。

高度成長期には、出産・育児のためにいったん労働市場から退出し、その後パート等の家計補助的な働き方で再び労働市場に戻るという動きが増えてきたことが、こうした動きの背景にあると考えられます。

M字の底が上がった背景を見るために、配偶関係別に昭和47年と平成27年の状況を比較してみると、25〜29歳については、昭和47年には有配偶の割合が未婚を上回っていましたが、平成27年には未婚が有配偶を上回り、晩婚化が進んだ影響が見てとれます(図表3)。


図表2 女性の労働力率の変化


図表3 女性の配偶関係別・年齢階級別労働力率

(3)育児・介護をめぐる状況と家事・育児負担

育児や介護等、家庭生活において様々な事情を抱える人の就業状況は、男女で大きく異なります。例えば、総務省「就業構造基本調査」によると、平成24年において、未就学児の育児を行っている人の割合は、女性は10.3%、男性は7.6%ですが、有業率を見ると、男性が98.5%であるのに対し、女性は半分程度の52.3%にとどまっています。また、介護を行っている人の割合は、女性で6.2%、男性では3.8%、有業率はそれぞれ44.9%、65.3%となっており、育児ほどではありませんが、20%ポイント程度女性で低くなっています。

このように、育児や介護を行っている場合の就業状況は、男女で大きく違います。6歳未満の子供を持つ夫について、家事や育児の1日当たりの行動者率を見ると、「家事」については、妻・夫共に有業(共働き)の世帯で19.5%、夫が有業で妻が無業の世帯で12.2%となっており、18年と比較してもわずかな上昇にとどまっています。「育児」については、妻・夫共に有業(共働き)の世帯では32.8%、夫が有業で妻が無業の世帯では29.6%となっており、18年と比較してやや増加しているものの、妻の就業状態にかかわらず、約7割の夫が行っていないことがわかります(図表4)。


図表4 6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連行動者率


また、出産前後の就業継続状況について、国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向調査(夫婦調査)」より見ると、第1子出産後、就業を継続する者の割合は、正規職員では増加傾向にあるものの、非正規職員等を含めた全体では、約6割が離職する傾向に大きな変化は見られません。また、介護・看護を理由とした離職の状況をより見ると、平成27年に離職した9万人の内訳は、男性2万人、女性は約8割にあたる7万人となっています。働きたいという女性が、仕事と家庭生活の二者択一を迫られ、働けない人が存在する状況は、少子高齢化が進む我が国にとって大きな損失と言えます。

(4)女性の就労に関する意識の変化と男性の長時間労働

図表5は、女性の就労に関する意識変化を見たものです。平成4年の調査では、「子供ができたら職業をやめ、大きくなったら再び職業をもつ方がよい」と回答する者が、「子供ができても、ずっと職業を続ける方がよい」と回答する者を上回っていましたが、最近ではそれが逆転しています。こうした意識の変化の一方で、実際には出産等で離職を選択しているケースが多く見られ、女性の職業への思いと現実の行動との間のギャップが大きくなっていることがうかがえます。

こうした問題の背景として、男女の長時間労働の動向を図表6により見てみると、週間就業時間60時間以上の雇用者の割合は、長期的には男女とも緩やかな減少傾向にあり、平成27年は女性2.7%、男性12.5%となっていますが、子育て期と重なる30歳代、40歳代の男性では、その割合が15〜16%と高くなっています。

年間就業日数が200日以上の男性就業者について見てみると、週間就業時間が60時間以上である長時間労働者の割合は、必ずしも減少傾向にあるとは言えません。

長時間労働を前提とした働き方では、仕事と家庭生活との両立は困難であり、男性自身の家庭生活への参画を困難にするとともに、女性が就業したり、就業継続できなくなるなど、家庭生活以外の活動への参画・活躍に影響を与えていると考えられます。長時間労働の削減は、男性自身にとっても、ワーク・ライフ・バランスや地域活動、自己啓発等の時間の確保等の観点から重要であり、男女が共に暮らしやすい社会に向け、大きな課題となっています。


図表5 女性の就労に関する意識の変化(女性)


図表6 週間就業時間60時間以上の雇用者の割合の推移(男女計、男女別)

(5)多様な働き方・暮らし方

働きたい、あるいは働く能力があるにもかかわらず働いていない女性の存在は、いわば日本の社会の損失とも言えます。こうした状況を解消し、幅広い分野で女性の活躍が可能となる社会を作っていくことが重要となります。

従来、伝統的に女性が少なかった産業や職業においても、女性の参画が進む動きが出てきています。図表7により、従来女性割合の低い保安職(自衛官、警察官等、消防員)について長期的に見てみると、その数及び女性割合は、近年増加しており、平成22年には自衛官1.4万人、警察官等は1.9万人、消防員は0.3万人、女性割合もそれぞれ6.0%、7.5%、1.8%となっています。

技術革新や働き方の見直し等によって幅広く活躍できる環境も整いつつあります。テレワークは、時間や場所にとらわれない働き方として、活用が期待されています。テレワークを導入している企業の割合は、平成26年末で11.5%となっていますが、テレワークを実際導入した企業の8割は、テレワーク導入の効果として、効果があったと回答しています(図表8)。

多様な働き方・暮らし方の実現は、我が国社会が様々な変化への対応力を高め、力強く発展を続けるために必要であり、少子高齢化が進む中で我が国にとって必須の変革です。誰もが暮らしやすく、誰もが活躍できる「一億総活躍社会」の実現に向け、関係する取組を進めていく必要があります。

 総務省統計局「国勢調査」に定義されるもので、消防組織法に規定される「消防吏員」とは定義が異なる。具体的には「消防吏員」とは、消防本部及び消防署に置かれる職員のうち、階級及び服制を有し、消防事務に従事する一般職の地方公務員であり、「国勢調査」に含まれる私設消防員は含まない等の違いがある。このため、「消防員」と「消防吏員」では女性数及び女性割合が異なっている。図表についても同様の定義である。

図表7 女性の保安職の人数及び割合の推移


図表8 テレワークを導入した効果


【コラム:理工系分野へチャレンジする女性を応援!「リコチャレ」】

科学技術立国を目指す日本では、理工系人材の多様性を高め、更なるイノベーションの創出を図るためにも、理工系分野で女性を増やしていくことが欠かせません。そこで、産学官が連携して、女子生徒等の理工系分野への進路選択を促進する取組「理工チャレンジ(リコチャレ)」が進められています。平成27年夏に開催された女子学生・保護者向けシンポジウムでは、航空機開発に携わる女性技術者が「技術系職種において正解は論理的に導かれるものなので、男女関係なく、正しいことを言えばみんなついてきてくれる。女性は活躍しやすい分野だと思う」と語り、他の登壇者とともに女子学生へエールを送りました。

リコチャレシンポジウムの様子

【コラム:技術革新がもたらす支え手の拡大】

力仕事が多い農作業の現場で、今期待されているのが「農業用アシストスーツ」です。身体に装着することで動作を補助し、作業時に身体への負担を軽減する機能を持ちます。普及が進めば、女性にとっても農業へ参入しやすくなります。平成28年度中の商品化を目指しており、他にも、介護や工事現場等、様々な用途でのアシストスーツの開発も民間で進んできています。

農業用アシストスーツ

【コラム:100人いれば、100通りの人事制度 〜多様な働き方へのチャレンジ〜】

ソフトウェアメーカーのサイボウズ株式会社では、ここ10年ほど、徹底的な働き方の多様化を進めています。働く「時間」と「場所」を自由に選べるようにしたほか、残業の有無、短時間勤務、週の勤務日数等を選択できたり、育児休業は6年まで取得可能、退職しても最長6年間復帰可能な「育自分休暇」制度等、個人の希望に会社が最大限応えられる様々な仕組みがあります。同社では、働き方の変革を進めた結果、離職率はピークの28%から3.8%まで低下、特に女性の離職率が減り、従業員の女性比率は4割まで上昇しました。会社のダイバーシティや従業員の働きがいの向上にもつながっています。

サイボウズオフィス内風景