「共同参画」2016年3・4月号

「共同参画」2016年3・4月号

行政施策トピックス1

フォーラム 「よりよい復興」のために─事例に学ぶ男女共同参画と復興─
復興庁男女共同参画班

東日本大震災発生から5年を迎えようとしている今、復興庁男女共同参画班では、平成28年2月5日(金)、仙台市情報・産業プラザにて、標記フォーラムを開催しました。被災各地の公的機関による先進的な取組事例を紹介し、その工夫と効果を共有しました。70名近い参加があり、活発な質疑応答も行われました。


各県の取組事例を学ぶ参加者の皆さま

復興における男女共同参画とは
復興庁審議官 大塚 幸寛

男女共同参画・女性という切り口で集めてきた事例を共有し、そこから学ぶ意義は大きいものです。平成27年3月の第3回国連防災世界会議で採択された仙台防災枠組では、男女共同参画の視点を持ち、復旧・復興を促進することで「よりよい復興」が実現すると指摘されました。

東日本大震災後初の改定となった第4次男女共同参画基本計画では、第11分野に「男女共同参画の視点に立った防災・復興体制の確立」を新たに設け、東日本大震災からの復興に言及しています。

その中の「女性等を含めた多様な住民の意見を反映」するという点は、今回の各報告事例に共通しています。宮城県石巻市の災害公営住宅の事例は、多様な住民の意見を聞き、住民ニーズや地域の課題を把握して進めたものです。「支援者や復興に従事する職員が男女共同参画の視点を持つ重要性」に関しては、福島県の人材育成事例が、「仮設住宅や災害公営住宅における孤立防止」には、岩手県釜石市の事例が該当しています。

「復興に係る統計情報を男女別で把握」これも重要で、現在復興庁で進めている調査の速報値を報告します。

高齢男性の孤立防止に向けた取り組み
釜石市市民生活部地域づくり推進課 課長 見世 健一さん

人口減少・超高齢化が進む釜石市では、公民館を「生活応援センター」と核に据え、保健師を要とする見守り支援体制「生活応援システム」を構築。公民館の生涯学習事業、仮設住宅等見守り、保健・福祉業務を一元化したワンストップサービスで、地域情報と支援資源を集約し、切れ目のない支援と活力あるコミュニティ復興に効果を上げています。住民・行政共に参加する「地域会議」では、民間団体とも連携。高齢者が集うスカットボール大会等を実施するなどして、高齢男性の地域参加や孤立防止も実現しています。全住民が参画できるコミュニティを災害公営住宅でも形成することが課題です。

(復興庁政策調査官からの補足説明)

市民病院再編に際し、場:公民館、人:保健師(女性)という既存資源を有効活用、ハブ機能をもたせて見守り資源を集約し、外部資源と連携して横ぐし展開をする取組です。こもりがちな高齢男性にも楽しくコミュニティ参加を促し、高齢者をはじめ多様な主体が復興の担い手となるのを目指す生活応援システムで、高齢化・リソース不足が課題の地に示唆深い知恵があります。


釜石市の生活応援システムによる見守りネットワーク


住民の視点を取り込んだ災害公営住宅等の建設
石巻市北上総合支所地域振興課 課長補佐 今野 浩さん

石巻市北上地区では、震災直後から地域住民の話し合いによるまちづくりを進めてきました。特に高台移転案を作成するにあたっては、地域まちづくり委員会の女性委員等女性たちが全住民ヒアリングを行い、ワークショップでも活発な意見を出し、仮設住宅からの全戸移転決定の際にも大きな役割を果たしました。こうした女性たちの動きが高齢者の孤立防止のための見守り重視型住宅の建設へとつながりました。今後も新たな交流施設の運営など、女性たちが中心となって行う更なるコミュニティ形成が期待されます。

(復興庁政策調査官からの補足説明)

北上の事例に加え、宮城県内各地域(仙台市、女川町、大崎市、多賀城市)の災害公営住宅建設に関する取組事例を紹介しました。平時からの男女共同参画の視点による活動や、震災後の多様な主体によるまちづくりへの取組が、災害公営住宅のハード、ソフト面に反映され、その後のコミュニティ形成にもつながる基礎づくりになることがわかりました。


石巻市北上地区の復興公営住宅の全体像を表す模型


男女共同参画視点での復興ノウハウの発信
福島県男女共生センター事業課 主査 長沢 涼子さん

福島県男女共生センターでは、「男女別ニーズや、DV・性暴力事例にどう対応すればよいかわからない」という支援現場の声をもとに、男女共同参画視点を持って災害に対応できる人材の育成に取り組んできました。震災前は交流が薄かった消防、災害対策、福祉、医療関係者等にも粘り強く接触を図り、関連講座の開催や各機関への出講を続けた結果、取組の必要性への理解が進み、市町村や公民館等でも同様の事業が行われるようになりました。詳細はセンター発行「災害とジェンダー関連事業報告書」でも報告しています。センターの専門性と各分野をつなぐ体制整備が今後の課題です。

(復興庁政策調査官からの補足説明)

青森県の沿岸被災地でも、県男女共同参画センターと防災、まちづくり分野等の連携による避難所運営訓練が、男女共同参画視点での復興まちづくりに役立っています。多様な主体による問題意識と解決案の共有が、既存事業をより住民の潜在ニーズに沿うものにし、性別格差を是正し災害リスクを削減した活力あるコミュニティ再生を可能にしています。


福島県男女共生センターの多様な分野へのアプローチ


復興と男女共同参画等に関する調査報告

第4次男女共同参画基本計画策定を踏まえ、今後取り組むべき内容等の参考とすることを目的として、「復興と男女共同参画等に関する調査」を実施しました。岩手県、宮城県、福島県、及び同3県下の全市町村を対象とし、復興計画等を検討する委員会等の構成員の男女比や復興に関する取組に男女共同参画の視点を生かした事例等について、調査した結果の速報値を報告しました。今後、集計・精査を行い、今年度内に結果をとりまとめ、復興庁HPにて公表する予定です。

アンケートから

「釜石市の見守り・災害公営住宅コミュニティ支援体制は非常に手厚い。コミュニティ形成が行政の役目でないという自治体もあるので紹介していきたい」「高齢化社会で北上の見守り重視タイプ(長屋型)住宅はいいアイデアだ」「福島の男女センターの実践取組は活動の参考になる」「様々な工夫がこれから起きると考えられる大都市での震災の防災・復興への備えになる」等、感想が寄せられました。

当班では、今後も事例に学び、知見の共有に努めてまいります。