「共同参画」2015年 12月号

「共同参画」2015年 12月号

連載

NATOでの勤務 (8)
NATO事務総長特別代表(女性、平和、安全保障担当)補佐官 栗田 千寿

「多様化する安全保障環境下における持続的な平和の追求には、包括的なアプローチが必要。『多様性』は我々の社会をより安定化させより強靭にする。」これはスクールマン女性・平和・安全保障担当NATO事務総長特別代表が日頃強調するポイントです。

今回は、NATOの「ダイバーシティマネジメント(多様性を重視する組織管理)」がテーマです。

NATOがこの多様性に関する政策を初めて導入したのは2002年。NATO本部は加盟国からの派遣要員に加えて公募職員から構成されているため、国際機関としての透明性の観点から、その雇用や組織管理において「機会の平等」の担保が求められてきました。そして、03年には「機会の平等と多様性に関する政策」が制定され、翌04年にはNATOインターンシップ制度が開始され現在に至ります。採用されたインターンは20代の若者が多数で、各部署でNATO本部の活動の一翼を担っています。

これらの政策の根幹にあるのは「多様性は組織を強くする」というNATOの考え方。つまり、多様な出身、思考、能力を持つ人々が組織を構成することが望ましいということです。NATOにおける多様性の指標は、職員の「出身国」「年代」そして「性別(ジェンダー)」です。ジェンダーの観点から見ると現在NATO本部における女性職員比率は全体で約40%、管理者層で20数%(12年1月末現在)で、今後さらなる女性の増加が追求されています。

次に、NATO加盟各国の軍やNATO主導の作戦におけるジェンダーバランス(男女比率の均衡)について見てみましょう。

加盟各国の軍における女性比率の平均は約10.5%、NATO主導作戦参加部隊における女性比率は約5.6%です(いずれも13年現在、NATOホームページより)。NATO本部の場合と少し異なり、軍においては、「部隊の作戦効果向上」及び「作戦等における現地女性や子どもに裨益する活動」という観点から、女性の増加が求められています。

NATOは01年以降アフガニスタンで作戦を実施し、この経験はNATOにおける「作戦におけるジェンダー」の普及を加速させました。その鍵はアフガニスタンの社会の特性にあり、男女別々が当然のイスラム社会では、現地の女性と接する機会に女性軍人が必要とされました。例えば、現地女性に触れて持ち物等を検査できるのは女性要員のみ。多くの戦傷者という犠牲を経てNATOは「作戦の現場にはより多くの女性軍人とジェンダーの視点が必要」ということを学びました。このニーズはアフガニスタンに限らず、紛争下や紛争後の地域においても同様です。そしてこのような経緯を経て、「ジェンダーバランスをはじめとする多様性の向上は組織に役立つ」という認識がNATOに浸透したのです。

再び、前述のスクールマン特別代表の発言を引用します。「構成員が画一的な集団は『集団思考』に陥るリスクがあり、強靭とは言えない。危機回避や変化への対応においては、多様な発想や意見が組織や社会を救うのだ」。NATOが多様性やジェンダーバランスの向上に取り組む背景には、ジェンダー平等の観点のみならず、「より安定した平和の希求」という合理的な理由があるのです。

(本寄稿は個人の見解によるものです)


(ガーニ・アフガニスタン大統領夫人とスクールマン特別代表、駐日アフガニスタン大使館におけるレセプションにて)


(NATO関連会合に参加する軍人たち(出典:NATOホームページ))


(アフガニスタンにおけるNATO主導作戦に参加した女性兵士と現地の女児(出典:NATOホームページ))


執筆者写真
くりた・ちず/同志社大卒業後、平成9年陸上自衛隊入隊。第5高射特科群(八戸)、第2高射特科群第336高射中隊長(松戸)、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)軍事連絡要員、統合幕僚監部防衛計画部防衛課防衛交流班等を経て、平成26年12月よりNATO勤務。