「共同参画」2015年 10月号

「共同参画」2015年 10月号

連載 その1

NATOでの勤務 (6)
NATO事務総長特別代表(女性、平和、安全保障担当)補佐官 栗田 千寿

前号に引き続き、NATO本部でのジェンダー関連会合についてご紹介します。

4日間にわたる「NATOジェンダー視点委員会年次会合」。今年、NATO本部の所在するベルギーでは女性軍人受入れ40周年にあたり、会合初日にはアストリッド王女(大佐)を迎え、男女を含む百数十名が参加しました。

エバンスNATO事務総長補佐官(作戦担当)からは、「『女性、平和、安全保障』の理念は危機管理や紛争管理においても重要。このため、NATOでは全作戦・全業務におけるジェンダー視点の反映を推進する」とのスピーチがあり、モリソン前豪州陸軍本部長(退役中将)からは、「軍特有の男性らしさ(マスキュリニティ)のみでは今や精強な軍とはいえず、軍は女性の能力をさらに生かすべき。豪州軍は、女性の増加や、軍内での性的暴力・性差別の撲滅の努力をしており、女性にとって良い政策は軍のために良い政策との認識が浸透しつつある」との発言がありました。

これら男性の高官からジェンダー視点や女性増加の重要性が強調されたことは、多くの参加者にとり印象的だったようです。

この会合の歴史は興味深く、発端は数カ国の女性軍人の有志による「女性高官会合」(1961年)、その後一部加盟国の自主開催による単発の会合を経て、「軍の女性委員会」がNATOの正式な会合として認定(1976年)。さらに運営規定と名称が変更され(2009年)、現在に至ります。

つまり、当初は少数派である女性軍人の抱える問題等について女性同士で情報交換する場だったものが、時を経て着実に、男女の課題を扱い男女両方が協議する公式な場へと発展したのです。

言い換えると、「女性による女性のための」ものが、男女両方を含む「ジェンダー」に発展した経緯であり、NATOにおける「ジェンダー主流化」の足跡と言えるでしょう。

さて、この会合ではどんな議論があったのでしょうか。

2020年までに女性比率25%達成を目標に掲げるカナダ軍や、マンガやテレビCMを用いて軍の女性を当然の存在と認識させようとするベルギー軍の施策等が紹介。また、アフガニスタンでのNATO主導作戦の現場で勤務したガラシッチ准将(クロアチア)の講演は、軍は本来的に厳格な組織で、性別は関係なくプロとしての資質や能力が求められることを改めて想起させるものでした。

最後に、この会合は女性軍人が多く集まる単なるイベントではないことを強調しておきます。数日間の議論の総括は「ジェンダーバランスの良い軍は作戦効果を高める」というもの。つまり、「女性の多い軍は作戦においてより良い結果を収めることができる。このため軍にはより多くの女性を入れるべき」との内容でした。

この結論は、NATO内の軍事委員会において承認され、既にNATO加盟国に提言として提出済です。そして、各加盟国はその履行状況について年次報告を行う仕組みになっています。肉体的には弱い存在とみられがちな女性軍人の存在が軍を強くするとのNATOの画期的な考え方。今後も注視していきたいと思います。

(本寄稿は個人の見解によるものです)


(NATOジェンダー視点委員会年次会合に参加した自衛官)



(アフガニスタンでの経験を話すガラシッチ准将(クロアチア陸軍))



(セクハラは職場の毒だと注意喚起するカナダ軍のポスター)


執筆者写真
くりた・ちず/同志社大卒業後、平成9年陸上自衛隊入隊。第5高射特科群(八戸)、第2高射特科群第336高射中隊長(松戸)、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)軍事連絡要員、統合幕僚監部防衛計画部防衛課防衛交流班等を経て、平成26年12月よりNATO勤務。