「共同参画」2015年 8月号

「共同参画」2015年 8月号

連載 その1

NATOでの勤務 (4)
NATO事務総長特別代表(女性、平和、安全保障担当)補佐官 栗田 千寿

今回は、「男性とジェンダー」をテーマに1つの国際的な取組みとNATOの関与についてご紹介します。

「HeForShe」は、昨年秋にUN WOMEN(ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国際機関)が開始したキャンペーン。男性(男児含む)が、ジェンダー平等や女性のエンパワーメントに協力する意思表明を広く募るものです。趣旨に同意する人は世界どこからでも参加可能。ただし男性に限ります。ホームページ上のボタンをクリックすれば参加できる、というシンプルな仕組み。なおかつ、決意を行動に移すための手引書まで用意されていて、戸惑いながら参加してしまった男性などに対しても親切な構成になっています。

世界的にジェンダー平等の課題への取り組みは、元々「女性による女性のためのもの」でした。でも近年は、女性が受ける不平等や差別に対して男性が立ち上がり始めました。これは、全ての人類の利益のための連帯運動とのこと。

参加者は既に34万人以上。オバマ大統領や俳優のマット・デイモン氏等の著名人も名を連ねています。日本からも、安倍総理、松尾名古屋大学総長、成澤文京区長のお三方が、インパクト影響力の大きいリーダーとして登場されています。

安倍総理は、(1)UN WOMENとの協力強化、(2)日本国内における女性のリーダーシップと雇用機会の増大、(3)女性のエンパワーメントと紛争下の性的暴力防止への国際的な支援の3つを取組みの柱としています。このうち筆者の担当分野である(3)において、日本は「女性・平和・安全保障」の課題を海外に広め、紛争下の女性の保護について国連PKOと連携して取組む、とされています。

実は、NATO本部で安倍総理は結構な有名人で、それは一国の総理だからというだけではありません。それは、誰もが「女性施策に傾注している日本の総理」と知っているからです。同僚と日本のジェンダーを取り巻く状況等について話す時には「各国それぞれに取り組むべき課題はあるが、日本は安倍総理が熱心なのは大きな強み」と言われています。

さて、NATOでも実は重要人物がこのキャンペーンに参加しているのです。ストルテンブルグ事務総長は、今年3月に登録を済ませています。その力強いメッセージは次のとおり。

「世界人口の半数を占める女性無しには、恒久的な平和・安全保障は達成できない。女性は、安全保障上の危機回避や、紛争後の社会再建において重要な役割を果たす。ジェンダー平等は『おまけ』ではなく、根本的で不可欠なものである。平和は家庭や国内から始まる。そしてジェンダー平等はその基礎になるのだ。」

人権意識の高い欧州に所在し、国際的に見て先進的なNATO。でも作戦レベルへのジェンダー視点の反映や、各国軍における女性の参画という面では、まだまだ多くの努力が必要、と言われています。その変化の原動力のひとつが、トップレベルの関与で、今後ますますの変化が期待されています。


NATOの仲間たちと



特別代表、同僚とEU本部にて


執筆者写真
くりた・ちず/同志社大卒業後、平成9年陸上自衛隊入隊。第5高射特科群(八戸)、第2高射特科群第336高射中隊長(松戸)、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)軍事連絡要員、統合幕僚監部防衛計画部防衛課防衛交流班等を経て、平成26年12月よりNATO勤務。