「共同参画」2015年 8月号

「共同参画」2015年 8月号

スペシャル・インタビュー/第40回

雑誌界ほど女性が社会参加するのを目指してきた業界は無い。
女性編集者には次なるステップを踏み出してほしい。

いしざきつとむ
一般社団法人日本雑誌協会
理事長

聞き手 武川 恵子
たけがわ・けいこ/内閣府男女共同参画局長


―メディアというのは社会で何が関心事項なのかというのを設定するような機能があって、非常に大きな役割を担っていると思います。そういった、社会に情報を提供する側としてのお話と、もう一つは出版業界で働く女性の話と大きく2つ伺わせていただけたらなと思っています。

いしざきわかりました。新聞、テレビ等いろいろなメディアの中で、雑誌の職場ぐらい女性の参加に先鞭をつけ、女性が社会参加をするのを目指してきた業界は無いのではなかろうかと思います。給与差別とか男女差別とかは全くありませんから、こんなに優等生的な企業群はないのではないかと、この話を受けたときにそういう感じがしました。

女性誌は、昔は男性の編集長がやっていたのですが、ファッション誌とか料理の雑誌であるとか女性の編集長が必然的に早く進出してきたのも出版社なのです。

今、女性誌の編集長はほとんど女性だと思います。男性誌を女性がやっていることだってあるのです。

そういう状況ですから、ことさら女性を登用しなければ、と意識もしていないし、女性だから力を込めていっぱいやらなければいけないのだとか、そんなことは我々の頭の中にはありません。

今、新入社員の半分以上が女性で、男性と同じように優秀な人は上がってくるし、優秀ではない人は男だろうと女だろうと上がれない。営業だろうと、広告だろうと、普通に女性が課長職になっています。社員全員にそういう風土がしみ込んでいるのではないですかね。

―90余りの出版社の中で、現在女性の社長はいらっしゃるのですか。

いしざき女性の社長というのは少ないです。雑誌業界というのはオーナー会社が相対的に結構多く、男の人が社長になることが多いです。今、雑誌協会の理事社22社のうち、女性社長は世界文化社のお一方です。

―女性が長く勤めるためには、やはり産前産後の休暇とか、育児休業とか、育児休業後の復職とか、いろいろ越えないといけないハードルもあると思いますが、制度などは充実しているということでしょうか。

いしざき雑誌協会として、こういうことをしてくださいというような指示はありませんが、多分これもどんな業界よりも我々は進んでいるのではないかと思います。その人たちがいないと仕事にならないので、当然、そういうことは全部ケアしなければならない。

―少し前に、安倍総理と女性編集長との懇談会がありました。お話の中で、女性誌の編集長が男性から女性に変わられるとやはり記事も、女性の生活観に添ったリアルなものに変わったというお話もありました。

いしざきそれは意図してのことではありません。雑誌というのはターゲットが決まっています。例えば、一般的には『an・an』という雑誌は男の人は読みませんよね。読者に合うような企画、ターゲットの女性に受ける企画をやってくれればそれでいいのです。どういう企画をやったら受けるのかというのは編集長が決めますが、売れる企画を男性編集長がやろうと女性の編集長がやろうと構わない。

―なるほど。

いしざき『an・an』というのは大阪万博の年に創刊されました。私も『an・an』の編集部にいましたが、女性のファッションは得意という訳ではなかった。そうすると、必然的に女性の編集者が増えます。『an・an』が出、次に『nonno』、『JJ』、『CanCam』、『CLASSY.』と、そんな形で発展してきました。それぞれ女性がいないことには始まらないから、無理に女性を入れなければ、などという発想がそもそもないのです。また、『Hanako』等の旅という新しいジャンル。カルチャーを動かしているのは女性と言えますし、世の中の動きに敏感だから、当然、編集部には女性がいなければだめだ、と、出版社にはそういう敏感さ、早さがあったということでしょうね。

編集に憧れる女性がいまだに多いのは、皆さん、女性差別がないというのをわかっているからではないですか。

―出版業界の女性の活躍状況をご紹介いただけますか。

(協会)当協会の加盟社の多くは日本書籍出版協会にも加盟しており、そちらで昨年出版業界全体の労働実態等の調査を行いました。女性の登用状況も調べています。正規従業員の中で全体の女性比率は37.8%です。それに対して管理職の比率は20.4%です。非正規まで含めますと全体の約42%が女性です。(※1)

出版業界の女性の活躍状況(※1)
 従業員における女性比率 女性管理職比率


いしざき例えばマガジンハウスでは女性編集長は全10誌のうち4誌で、カメラマンも女性が4割。デザイナーも今は女の人が多いのではないかな。離職率も非常に低い。

2009年以降の新卒採用は女性が男性の倍でした。先ほど非正規という言葉が出ましたが、印象が良くないので「フリーランス」と言います。取材して記事を書く専門職等ですね。そういう方が多いのはこの業界の特徴で、その方たちも女性が非常に多いです。

―雑誌を含め、メディアは社会に情報を提供する側として非常に大きな影響力があります。例えば性を商品化しない等、性表現に関して業界としてどのように取り組んでいらっしゃいますか。

いしざき表現の問題、倫理問題等々に関しては、日本雑誌協会に「編集倫理委員会」、その下部組織に「人権小委員会」というのがありまして、「編集倫理」というレポートを毎年発行したり、人権問題についてのセミナーを定期的に実施しています。

出版界としての自主規制組織には「出版倫理協議会」があり、また第三者機関の「ゾーニング委員会」では18歳以下に売らないための18禁マークや、見られないようにするための小口(こぐち)シール留め等、業界で自主規制をやっています。(※2)

ゾーニングマーク、小口シール留め(※2)


―最後に女性の活躍に関して課題はありますか?チャレンジする事とかリスクをとる事等、いろいろサジェスチョンをいただくことは女性にとっても重要なことだと思います。

いしざき編集長をやっている間は充実感もあるし非常に良いのですが、次のステップはマネージングをやること、そのためにはいろいろな出版社、民間企業の総体を大きな目で見る必要があります。大きな目で見るということは、つまり嫌われ役になるわけです。売れなかったら編集長を切らなければならないのですね。年上の部下を使うこともある。管理職はお金の管理、人の管理をする。文句を言われてもやらなければならない。そういったときに私は嫌だ、ずっと編集でいたい、となってしまうのは残念ですね。次のステップを上がってもらいたいと思っています。

―嫌われ役でもある管理職を進んで引き受けてほしいというエールですね、ありがとうございました。

対談の様子



いしざきつとむ
一般社団法人日本雑誌協会
理事長
いしざき・つとむ/
昭和21年、東京都出身。昭和44年、平凡出版株式会社(現マガジンハウス)入社。
an・an、POPEYE、BRUTUS等の編集を手がけた後、平成7年、企画制作局局長、平成12年、取締役を経て平成14年、代表取締役に就任、現在に至る。平成23年より一般社団法人日本雑誌協会理事長。