「共同参画」2015年 1月号

「共同参画」2015年 1月号

特集1

国立大学における男女共同参画の取組
文部科学省生涯学習政策局男女共同参画学習課

平成25年度国立大学法人の業務実績評価においては、学内における組織体制の整備や女性限定公募の導入など女性研究者の採用・登用の促進、家庭と仕事の両立支援、顕彰制度の創設、次世代の女性研究者育成支援等の特色ある取組が評価されており、今回はその中から3校の事例を紹介します。

男性も女性も全ての個人が社会の対等な構成員として、あらゆる分野に参画する機会が確保され、その能力・個性を十分に発揮できる男女共同参画社会を実現するための基礎として、男女がそれぞれの生き方、能力、適性を考え、人生の各段階において主体的に多様な選択を行う能力・態度を身につけることができるよう、教育・学習の果たす役割は極めて重要です。国立七大学の学長による「男女共同参画に係る共同宣言」(平成20年10月)においても、国籍・人種・性別・年齢等を超えた多様で優秀な人材の参画と活躍が必要とされる21世紀において、国際化と共に男女共同参画の推進が不可欠であると明記されています。

一方で、我が国における女性の社会への参画は未だ低調であり、女性の能力が高いにもかかわらず、その能力を発揮する機会の不足が大きな課題となっています。

大学における男女共同参画の状況についても、女性教員の割合は年々増加傾向にあるものの、依然低い水準となっています(図1)。

(図1)「大学における女性教員の割合」(本務者・講師以上)(出典:文部科学省「学校基本調査」 平成26年は速報値)


各大学の女性教員の採用については、各大学の権限に基づき、自主的・自律的な人事の一環として行われるものですが、政府が定める「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待する。」という目標を踏まえ、平成22年12月に策定された第3次男女共同参画基本計画において、「大学の教授等に占める女性の割合」を平成32年までに30%とする成果目標が掲げられています。

また、平成26年6月24日に閣議決定された「日本再興戦略」改訂2014においても、女性登用等に積極的に取り組む大学に対する支援、また、女性研究者等の支援について盛り込まれています(図2)。

(図2)「女性研究者数及び研究者に占める女性割合の推移」(出典:総務省「科学技術研究調査報告」)


これらの状況を踏まえ、文部科学省においては、大学評価等を通じて、各大学の積極的な取組を促すとともに、女性研究者の活躍の促進を加速するため、女性研究者の研究と出産・育児等の両立支援等を推進し、大学における男女共同参画の取組の促進を図っています。

平成25年度国立大学法人の業務実績評価においても、学内における組織体制の整備や女性限定公募の導入など女性研究者の採用・登用の促進、家庭と仕事の両立支援、顕彰制度の創設、次世代の女性研究者育成支援等の特色ある取組が評価されており、今回はその中から3校の事例を紹介します。

秋田大学における男女共同参画の取り組みについて
国立大学法人秋田大学 男女共同参画推進室

秋田大学では平成17年2月の男女共同参画推進委員会、男女共同参画推進専門委員会の設置以来、男女共同参画にかかわる取組は着実に成果を挙げ、平成21年5月に男女共同参画推進室を設置するに至りました。平成21年度文部科学省女性研究者支援モデル育成「大学間連携と女性研究者支援 in 秋田」が採択されたことで取組は加速し、平成25年度文部科学省女性研究者研究活動支援事業(拠点型)に採択されたことで、一層弾みがつきました。女性教員比率の向上はもとより、全ての教職員のワークライフバランスの実現を目指し、活動を展開しています。

「架橋型ソーシャルキャピタルの形成」による女性研究者支援

このプロジェクトは、秋田大学が中心となり、地域に根ざした女性研究者支援を行うものです。秋田県内の高等教育機関、公設試験研究機関、行政機関及び企業など21の機関からなる女性研究者支援コンソーシアムあきたを基盤とし、人、組織、研究・キャリア、ノウハウ、情報・理念の5つの架橋によるソーシャルキャピタルを形成し、支援の取り組みを実施しています。平成26年度には「女性研究者支援コンソーシアムあきた賞」を創設しました。これはコンソーシアムを構成する各機関の中から、優れた研究成果を挙げた女性研究者並びにワークライフバランスを確保しながら研究成果を挙げている女性研究者を表彰する制度です。11月28日の表彰式では表彰に続き授賞者講演も行われ、研究と育児を両立するためには職場チームの配慮が不可欠であることが語られました。また、コンソーシアムを構成する各機関に出向き、ワークライフバランスや論文執筆に関するセミナーも実施しています。さらに「秋田県女性研究者支援ネット」を開設し、秋田県内の女性研究者がWeb上で繋がるという基盤を形成しました。

「第1回女性研究者支援コンソーシアムあきた賞」表彰式
「第1回女性研究者支援コンソーシアムあきた賞」表彰式

女性研究者支援コンソーシアムあきた参画機関で開催した出張ミニセミナー
女性研究者支援コンソーシアムあきた参画機関で開催した出張ミニセミナー


コロコニトーキング

男女共同参画推進専門委員会では、毎年フォーラムを実施して意識啓発に努めるほか、数年に一度行う意識調査アンケートによって問題の抽出を行っていますが、数値だけからでは読み取れない「生の声」を聞き学長に届けることによって、より働きやすい職場づくりを目指そうと、平成24年度からコロコニトーキングを開催しています。コロコニトーキングを教職員が参加しやすいように各キャンパスに開催日を分け、育児、介護とテーマをしぼり、face to faceで発言しやすい雰囲気になるよう工夫して開催したところ、大きな成果が得られました。育児ではフォローしてくれる両親が近くに住んでいる場合と夫婦だけの場合とでは職場に求められる支援の内容が異なること、介護では遠距離介護や個人差が大きいことなどが分かりました。このような「生の声」はアンケートで集計した数値とも一致します。早速、制度の一部改正の検討に入りました。

今年度は経営協議会に女性委員の登用も行われ、大学の意思決定機関への女性の参画が実現しました。学長のリーダーシップの下でオーダーメイドの支援を目指し、秋田大学の男女共同参画が地域社会のモデルになるよう、日々、精進してまいります。

コロコニトーキング実施の様子
コロコニトーキング実施の様子


名古屋大学における男女共同参画の取り組み
国立大学法人名古屋大学 男女共同参画室

平成15年、全国の国立大学に先駆けて男女共同参画室を設置した名古屋大学は、女性の活躍推進宣言「女性の活躍が21世紀の日本を救う!」(厚生労働省)に象徴的な総長の強力なリーダーシップのもと、男女共同参画、女性教職員の雇用推進に取り組んでいます。

平成19年度には文部科学省女性研究者モデル育成「発展型女性研究者支援名大モデル」が、平成22年度には文部科学省女性研究者養成システム改革加速「名古屋大学方式 女性研究者採用加速育成プログラム」、平成25年度には文部科学省博士課程教育リーディングプログラムに「〈ウェルビーイング in アジア〉実現のための女性リーダー育成プログラム」、平成26年度には文部科学省女性研究者研究活動支援事業(連携型)に、「あいちから日本、世界へ!AICHI女性研究者支援コンソーシアム」が採択され、女性研究者支援、ワーク・ライフ・バランス促進支援、産学官連携などの事業強化を図っています。

「〈ウェルビーイング in アジア〉実現のための女性リーダー育成プログラム」カンボジアでの農業研修
「〈ウェルビーイング in アジア〉実現のための女性リーダー育成プログラム」カンボジアでの農業研修


女性研究者支援

女性研究者増員策としては、理工農学系部局を対象に、全学ポストによる女性リーダー(PI:Principal Investigator)枠を設置し、その循環的活用による女性研究者の加速的採用、女性研究者の採用または昇進を行った理系部局へのインセンティブとして特任助教(女性限定)雇用の人件費支援である「発展型ポジティブ・アクション」プログラムを実施しています。

昨秋採択された女性研究者研究活動支援事業(連携型)により、学内のみならず、県内の大学、企業を含めた上位職登用、研究力向上をめざした女性リーダーシップ・プログラム、研究力強化セミナー等を実施するとともに、これまで学内女性研究者を対象に行ってきたメンター制度の広域化も図ります。

大学院生が対象の女性リーダー育成プログラムでは、平成26年10月に第1回生を迎え、男女共同参画室を含む4研究科2部局が、研究領域の垣根を超え、異分野融合により生まれる新たな視点と統合知の獲得をめざす教育体制のもと、高度な専門性と多様性を兼ね備えたプログラムを展開しています。総合大学が、アジアの未来を拓く女性リーダーの育成に取り組むという点で、採択直後より反響は大きく、国際機関をはじめとする国内外の方々から御協力いただいています。

ワーク・ライフ・バランス推進支援

子育て支援としては、学内2つのキャンパスで、こすもす保育園(定員60名)とあすなろ保育園(定員80名)を運営しています。平成25年からは本学医学部附属病院協力のもと、「あすなろ保育園」において病児保育も始めています。

平成21年に、育児と仕事の両立に際して立ちはだかる「小一の壁」を乗り越えようと、全国初の取り組みである常設の学童保育所(ポピンズアフタースクール)を開設しました。開所当初より、大学の人的物的資源を活かした多彩な教育プログラムを提供する「産学連携型教育施設」として全国的な関心を呼び、6年目を迎えた現在も、学内構成員、保護者、地域のかたがたの協力により、子供たちの知的好奇心を育み、安心して過ごせる生活の場となっています。

留学生英語プログラム(国際教育交流センターの協力により、留学生はレッスンプランの立案、現場実習、レポート提出により単位を認定される。4週で1クール、春秋2クールを実施。1クール2〜3名の留学生が担当)
留学生英語プログラム
(国際教育交流センターの協力により、留学生はレッスンプランの立案、現場実習、レポート提出により単位を認定される。4週で1クール、春秋2クールを実施。1クール2〜3名の留学生が担当)


さらに今年度は、ユニバーサルデザインマニュアル策定ワーキング等を通じて、園児や学童にとっても安心安全なキャンパス設計、多目的トイレとおむつ替え台、ベビーチェア、オストメイト対応などの備品設置、女性休養室及び子育て支援室の設置、整備を、全学レベルの方針とできるよう、施設課をはじめとする学内各部署との連携強化を図りました。

介護支援についても、女性研究者研究活動支援事業(連携型)の一環として、介護と仕事との両立を考える介護勉強会を開催する予定です。

産学官連携

平成16年、男女共同参画分野において産学官連携により結成した「あいち男女共同参画社会推進・産学官連携フォーラム」を中心に、愛知県・名古屋市、愛知県経営者協会等と相互交流、情報交換を図ることで、高等教育研究機関として広く社会に向けて知的貢献を果たせるよう共同事業にも取り組んでいます。今年度はそうした活動のひとつとして、「女子中高生の理系きっかけシンポジウム」を開催し、女性研究者研究活動支援事業(連携型)にも発展させています。


南からの挑戦〜女性研究者のエンパワメントからダイバーシティへ
国立大学法人琉球大学男女共同参画室 うない研究者支援センター

琉球大学は、戦後、沖縄がまだ米国の施政権下にあった1950年に、いわゆるランドグラント大学として誕生し、地域に貢献する研究教育機関として発展してきました。現在は法文、観光、教育、理、工、農、医の7学部で構成され、地域性と国際性を併せ持つ総合大学として、様々な課題に取り組んでいます。「男女共同参画」の推進についても、本学では、学長のリーダーシップのもと、平成21年度に男女共同参画室を発足させ、平成22年度に「琉球大学男女共同参画宣言」を、翌年度には「アクションプラン」を制定しました。また、平成25年度には本学初の女性の理事・副学長が就任し、大学マネジメントに関わる役員等に女性が占める比率も上昇しました。現在は、平成24年度文部科学省女性研究者研究活動支援事業の採択を受けて男女共同参画室の傘下に設置された「うない研究者支援センター」を拠点として、教職員の意識啓発や女性研究者の採用促進、環境整備、研究力向上の支援等に取り組んでいます。

意識啓発への挑戦と活動実践

本学の女性研究者支援事業の柱となる取組は、3本です。第一に、「意識啓発」、第二に「環境整備」、そして第三に「裾野拡大(次世代育成および社会への波及効果)」へ向けた取組です。まず、男女共同参画や女性教員採用比率向上へ向けた「意識啓発」については、教職員、学生の男女共同参画に関するセミナーやフォーラムを開催し、各部局に女性研究者の採用を促進するためのアクションプランの策定を要請するなどの取組を行いました。そのフォローアップとして、男女共同参画担当理事等が部局長にヒアリングを実施して各部局における取組の改善を促すと同時に、女性教員を公募採用した部局にはインセンティブ経費を配分しました。また、日本最西南端の島嶼県に位置し、地理的に有利とは言えない本学への応募を促す方策として、公募中のポストに関連する学会誌等に広告を掲載するなどの取組も行いました。

「環境整備」としては、他の採択校と同様、本学でも女性研究者研究活動支援事業の一環として、研究補助員配置制度を実施しており、現在までに延べ114人(出産・育児73%、介護27%)が利用し、研究補助員は延べ174人となっています。また、平成25年度と26年度には、ワーク・ライフ・バランス促進の一環として、夏休み学童保育を実施し、平成26年度には、学校が休日となる勤務日(「慰霊の日」など)に、臨時託児所を開設するなど、従来にない取組を実施しました。

一方、保育の環境整備については、子育て等に関する相談窓口として機能を強化すべく、ニューズレターのほか、大学近隣の子育て情報などを掲載した「子育てハンドブック」(日本語・英語版)を刊行し、大学の国際化も視野に入れつつ、外国人研究者のニーズにも対応しています。

夏休み学童保育プログラム「与那国馬の乗馬体験と動物観察」
夏休み学童保育プログラム「与那国馬の乗馬体験と動物観察」

子育てハンドブック(英語版)
子育てハンドブック(英語版)


このような活動の成果として、ポスドク等を含む女性研究者の在職率は13.8%(平成24年度)から15.7%(平成26年度)に、女性研究者の採用比率は20.5%(平成24年度)から23.6%(平成26年度)に上昇しています。女性教員の在職比率が低い自然科学系分野においても女性研究者の採用を積極的に働きかけることにより、この3年間で女性教員の在職比率が上昇するという成果を得ています。

また、第三の柱である「次世代育成」関連の活動として、まず、本学の女性研究者の研究活動を紹介する『フロントランナー集』を刊行し、本学の学生はもとより、県内の全高校へも配布しました。さらに、平成26年度には同刊行物で紹介された本学の女性研究者と、県内外の第一線で活躍する女性リーダーの招聘講師4名がオムニバス形式で行う「キャリアデザインとジェンダー」を共通教育の新設科目として開講しました。また、理系の次世代育成に特化した取組みとして、沖縄県や沖縄科学技術大学院大学と連携し、石垣島において県内の女子中学生を対象とした出前教室「サイエンスプロジェクト for 琉球ガールズ」を実施しました。平成27年3月には、本学の熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設において県内の女子高校生を対象とする「サイエンスキャンプ」を開催する予定です。

ジェンダーや国籍を問わず、誰もが輝ける大学づくりを目指して

「うない研究者支援センター」の「うない」は、「姉妹」を意味する沖縄の言葉ですが、同センターでは、姉妹(女性)間の相互扶助のみならず、全ての人々が互いの個性を尊重しつつ助け合う精神の表現として使用しています。同センターのロゴマークは、沖縄の伝統工芸である紅型をモチーフに、生物多様性の象徴であるサンゴ礁の周りに、魚だけでなく、カニやナマコ、ヒトデ、イソギンチャクなど様々な生き物が、その多様な生き方を尊重しながら共生する様子を描いていますが、ここには、本学の男女共同参画宣言に謳われているダイバーシティの理念の下に、女性研究者はもとより、多彩な個性が輝くことができる大学コミュニティをつくりたいという願いが込められています。

沖縄の海に集う色とりどりの個性あふれる海洋生物のような大学コミュニティの創生を目指し、事業終了後も、女性研究者の支援からダイバーシティ推進へと取組を広げることによって、多様な人材の個性や能力を活かすことのできる職場環境の整備に引き続き取り組んでいきます。

うない研究者支援センターのロゴ
うない研究者支援センターのロゴ