「共同参画」2014年 10月号

「共同参画」2014年 10月号

連載 その2

男女共同参画 全国の現場から(6) 鹿児島にて
地域エコノミスト・(株)日本総合研究所主席研究員 藻谷 浩介

「夜明け前が一番暗い」という言葉が、思わず脳裏をよぎった。東日本のある県の、ある業界の経営幹部の会合に講演に呼ばれ、2百人ほどの聴衆の最後列左隅に、女性を2人だけ見つけたときだ。「皆さんが真剣にご商売されているのはよくわかりますけれども、10年後も幹部がこの男女比率のままだとすれば、この業界の将来はまっ暗だと思いますよ」と当方が壇上から放った直言は、200名の中高年男性のうちの、少なくとも10数名には、確かに届いたように見えたのだが…

それでも筆者は今を、真夜中ではなく夜明け前だと考える。というのも各地で出会う若い世代、特に30代前半以下の意識が、上の世代とは大きく違うからだ。壇上の過半数を30代以下が占めるパネルディスカッションになどに出て見ると、男女比も半々に近いし、雰囲気も俄然、午前10時半くらいの明るさになっている。

つい最近も、鹿児島市で地域づくりの有志が開いた、「田舎で暮らそう! 〜鹿児島の元気な若者たちが発信する「自然学校」的生き方〜」というシンポジウムで、存分な刺激をいただいた。私と同年代の地元大学の先生をコーディネーターに、都会から移住して最先端の田舎暮らしを実践している、30歳前後の若者が3名登壇したのだが、それぞれのとんがり方が尋常ではなかった。

「多様性生物生産所mono所長」って誰? 会ってみたら、田舎町の棚田で稲の不耕起栽培をしつつ、森の中で子供たちをのびのびと遊ばせる活動を実践している、小柄な若い女性だった。生産する「多様性生物」というのは、多様に個性を伸ばす子供のこと。保守的な鹿児島の農村で、自由な教育を実践しつつ新しい農法に取り組むのはたいへんだと思うが、隣近所の高齢者の方々と根気強くコミュニケーションを取りつつ溶け込んでいるという。別れ際に「子供が4人います」と聞いてさらに仰天。パートナーは登壇していなかったので想像するしかないが、家事や子育てに「協力する」というレベルではなく、本当に夫婦が一緒に働いて、育児をして、周囲とつながって暮らしているのだろう。

他には、高齢者だけの山間集落に家を借り、電気もガスも水道も契約せず、米国で学んだ先住民族の生活ノウハウを活用しながら、ソーラーシステムと高速ネット回線のある生活を実践している若者。パートナーは助産婦で、自分の産んだ子供を自分で取り上げたという。

そして最後の一人は、薪釜での天然塩製造をスタートに、自然探求ツアーの運営や環境保護活動に取り組みつつ、自分たち夫婦の家を建てるべく大工修行をしている若者。14歳にしてヨットで太平洋単独横断を成し遂げた記録を持つ彼は、「今の時代に田舎に移住しているのは、都会から田舎にはじき出されたのではなく、未来に続く生活を自分で築くために進んで田舎を選んだ人たち。特に鹿児島には先端的な人たちが多い。これから田舎は変わりますよ」と、確信をこめて語っていた。

マッチョな男が家族を捨てて田舎に引きこもるのではなく、しなやかな若者たちが自然の中で暮らしながら、家族や仲間たちや世界と自由につながる時代。そういうこれからの時代に、男女共同参画はまったく自然で当たり前のことだ。

藻谷浩介 地域エコノミスト・(株)日本総合研究所主席研究員
もたに・こうすけ/地域エコノミスト。日本政策投資銀行を経て現在、(株)日本総合研究所主席研究員。平成合併前3,200市町村をすべて訪問し、地域特性を多面的に把握。地域振興や人口成熟問題に関し精力的に執筆、講演を行う。政府関係の公職を歴任し、現在、男女共同参画会議専門委員。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」「しなやかな日本列島のつくりかた」等がある。