「共同参画」2014年 6月号

「共同参画」2014年 6月号

連載

男女共同参画 全国の現場から(2) 原発被災地にて
地域エコノミスト・(株)日本総合研究所主席研究員 藻谷 浩介

「男はえてして××…」「女はすぐ○○…」という種類の言い方は、好きではない。実際には男も女も千差万別、性格も仕事のしかたも向き不向きも人によりけりだ。しかしながら、地域活性化の現場ではついついこう感じることがある。「女の人って、行動が早くて前向きだな」と。

この原稿を書いているのは4月下旬の日曜日の夜、帰京途上の新幹線車中だ。今日は淡路島で、アートを手がかりに若者支援だの農村活性化だの国際交流だのを繰り広げているUターン女性の話をお聞きする機会に恵まれた。昨日は島根県津和野町で森林保護活用のフォーラムだったが、数百名を集めた会を仕切っていたのは明朗快活な女性事務局長だった。一昨日は同じく島根県の石見銀山で公開対談をしたのだが、お相手は尾道に移り住み天然染色の綿布で工芸品を作っている女性、主催は女性デザイナーが経営する会社、司会進行はその会社の若手女性社員だった。さらにその前の日は、三重県志摩市で市民相手に講演したのだが、きっかけは市の若手女性職員が、面識のない私に思い切ってメールで、とても熱心に頼み込んできたことだった。彼女たちはいずれも思い立ったことを行動に移してきた人たちで、しかも仲間の輪に囲まれていた。

さらにその前の日はというと… そう、筆者は原発被災地への日帰りバスツアーのアテンドをしていた。郡山駅に集合していわき駅で解散したのだが、関東を中心に、北は青森、西は福岡から集まった50人近い参加者と、福島在住者を中心としたスタッフで、バスは助手席まで満席の盛況だった。

福島や郡山よりも放射線量が少なかったのに避難を強いられた地区のあった阿武隈山中。今月ようやく夜も自宅に戻れるようになった田村市都路地区では、再興への強い意志を実感。南隣の川内村では、風評被害に抗して絶品の養殖岩魚料理を提供し続ける民間施設で昼食。ここに限らず、売られている福島県産食品は、放射能検査が徹底されており安心だ。それから俄然放射線量が高くなる太平洋沿いの富岡町夜ノ森地区に出て、今年も満開になった桜のトンネルに沿い、立ち入り禁止の柵の向こう側に無人の立派な住宅が並ぶ様子に絶句。3年前の津波の破壊の跡が片付けも進まずそのまま残る常磐線富岡駅周辺でさらに沈黙。参加者は、被災後3年を経ての現実に、まさに圧倒された。

いわきまでのバスの車中で、「これから何をすべきか」という議論になった。「国は、東電は」ではなく、一市民として自分は何ができるのかという問いに、どうしても男たちの言葉の切れ味は鈍る。そのとき、一連の企画を主催した大元の女性(そう、この企画も女性が発案し、女性スタッフを男たちがサポートする形で運営されていた)が、きっぱりと立って言った。「私が何をするかは明快。とにかく買う。売り上げが立って経済が回ってこそ復興よ。被災地産の本物を買い続けましょう」。

まるで霧雨の中薄日が差したように、煮詰まった気分が少し前向きになったタイミングで、バスはいわき市の「道の駅よつくら港」に到着。そう、何よりも行動だ。時間オーバーで買い込む参加者も出る中、筆者も添加物や香料の入っていない当地産のお菓子だのジャムだの漬物だのを、しっかり手に入れた。

藻谷浩介 地域エコノミスト・(株)日本総合研究所主席研究員
もたに・こうすけ/地域エコノミスト。日本政策投資銀行を経て現在、(株)日本総合研究所主席研究員。平成合併前3,200市町村をすべて訪問し、地域特性を多面的に把握。地域振興や人口成熟問題に関し精力的に執筆、講演を行う。政府関係の公職を歴任し、現在、男女共同参画会議専門委員。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」「しなやかな日本列島のつくりかた」等がある。