「共同参画」2014年 3・4月号

「共同参画」2014年 3・4月号

連載

男女共同参画は、日本の希望(11) 男女ともに生きやすい社会を目指して
中央大学・教授 山田 昌弘

10回にわたって、日本で男女共同参画が遅れている現状、理由、そして、その結果、日本の社会問題が深刻化している状況を述べてきました。グローバル化し、経済社会が大きく転換している現代、日本で女性が経済的に活躍できないことが、企業業績が伸びない一因となり、結婚難から少子高齢化を深刻化させ、家計の消費が増えず内需減少をもたらしています。

そして、女性の経済的活躍を妨げているのは、「男は主に仕事、女は主に家事」という性別役割分業を前提とした社会制度、慣習、意識なのです。ここで、注意していただきたいのは、「前提とした」という言葉です。性別役割分業がいけないというのではありません。それを「前提とした」制度、慣習、意識があるために、それ以外のあり方をしようとすると、様々な困難がうまれてしまうという意味です。日本の新卒一括採用、長時間労働といった労働慣行は、「家に専業主婦がいて家事育児責任から免れている男性」を前提にしています。年金など社会保障制度は、「正社員男性に扶養される妻」を前提に設計されています。そして、「妻子を養える収入がある男性でなければ結婚しない」という意識が残っていることが結婚を難しくさせ、少子化をもたらしているのです。

性別役割分業を前提とした社会制度、慣習、意識は、単に、経済的な女性の活躍を妨げているだけではなく、男女双方に「生きにくさ」をもたらしています。そして、男女の生きにくさは、この性別役割分業によって質的に違っています。男性は、「仕事に専念して妻子の生活を支える」以外の選択肢がないために、それ以外の生き方を模索したり、十分な収入を稼げない男性に困難が生じます。

今の若い女性は、一見、様々な生き方の選択肢があるようにみえます。しかし、どの選択肢をとっても、困難に直面するのです。キャリアで活躍しようと思っても、親を専業主婦代わりにできたり、ホワイト企業(註1)に就職できたなど「幸運」に恵まれなければ、子育てとキャリアの両立は困難です。両立可能だけれども低賃金で昇進がない非正規雇用になってしまえば、仕事で活躍することは諦めなくてはなりません。といって専業主婦になろうとしても、妻子を養える収入を稼ぐ未婚男性の数は激減しており、それこそ「運」がよくなければ、そのような男性と結婚できませんし、結婚が続かない可能性も高まっています(註2)。といって、親と同居しながら選択を先延ばしにすれば、将来が不安です(註3)。そう、女性の場合はどの選択肢をとっても、よほどの実力か、「運」がなければうまくいかない仕組みになっているのです。

註1:経済産業省監修『ホワイト企業?ホワイト企業 女性が本当に安心して働ける会社』(2013年、文藝春秋)参照。ただ、定義にもよるが、ネットなどでは、ホワイト企業など全企業の1%に過ぎないと書かれているものもある。この比率は、年収800万円超の未婚男性比率とほとんど同じである。ホワイト企業に入社できる確率と、年収800万円以上の未婚男性と結婚できる確率がほとんど同じということだろうか。大多数の企業をホワイト企業にするための取り組みが必要なのだ。

註2:2012年、結婚は668,869組、離婚は235,406組である。今結婚したカップルは、ほぼ三組に一組が離婚に終わることになる(ここ10年間、結婚と離婚の比率はほぼ安定している)。といって、結婚するカップルは、自分の結婚が離婚に終わるとは普通考えない。

註3:拙書『家族難民?生涯未婚率25%社会の衝撃』(2014年、朝日新聞出版)参照。

「男は仕事、女は家事」を前提とした日本社会の制度、慣習、意識を少しずつでも変えていかなければなりません。確かに、過去の高度成長期のように、この仕組みでうまく行った時期もありました。しかし、アメリカのクリントン元大統領の演説にあるように「過去は過去、過去を取り戻そうとすると、未来を失う」のです(註4)。男女とも生きやすい未来のために、日本社会の未来のために、男女共同参画を進めていかなくてはならないのです。男女共同参画こそが、日本の希望なのです。

註4:1993年、ビル・クリントン大統領(当時)スピーチより
“Yesterday is yesterday. If we try to recapture it, we will only lose tomorrow.”
(http://en.wikiquote.org/wiki/Bill_Clinton)

山田昌弘 中央大学教授
やまだ・まさひろ/東京大学文学部卒業。東京学芸大学教授を経て、2008年より現職。専門は家族社会学・感情社会学・ジェンダー論。子ども・若者・夫婦・家族を取り巻く現状を多角的に解析して打開策を提言し続け、パラサイトシングル、婚活、格差社会などという言葉を作り出した社会学者。男女共同参画会議民間議員等の公職を歴任し、現在、男女共同参画会議専門委員、日本学術会議連携会員。