「共同参画」2014年2月号

「共同参画」2014年2月号

連載 その1

男女共同参画は、日本の希望(10) 希望を失った女性の行き場は
中央大学・教授 山田 昌弘

前回示したように、女性が経済的に活躍したいと思っても、正社員にはその裏で家族を支える専業主婦がいることを前提とした日本的労働慣行が、その実現を阻んでいます。

しかし、それだけではありません。男女雇用機会均等法ができて30年近く経った現在でも、微妙な形で女性差別が残っています。私が直接話を聞いた三ケースを取り上げます。三人とも当初は企業で仕事を続けようと意気揚々としていた大卒女性です。

総合職として大手企業に入社した女性が、微妙な差別に気づきました。同期で入った男性は業績が振るわなくても、一定の年齢になると主任や係長に昇進しています。しかし、同期の女性は、業績を上げている何人かの女性は男性と同じに昇進しているけれど、年齢がいっても役なしの女性も多いといいます。男性であるというだけで昇進させる企業に嫌気がさし、語学能力を生かして海外の企業に転職し、今は管理職に昇進しています。

ある中小企業で、支店長に見込まれ、大卒総合職第一号として入社した女性がいます。しかし、配属された現場の男性上司は、大卒男性と同じに扱わず、一般職高卒女性と同じ仕事しかさせてくれなかったといいます。人事が注意しても現場の上司は聞き入れなかったそうです。彼女はいたたまれず退社。女性差別が少ないと考え、高校教師になりました。

ある地方で婚活中の30代女性に会いました。話を聞くと、ホテルで正社員として働いていたのが、業績悪化で人員を削減の際、退職を余儀なくされました。理由は未婚女性で親と同居しているから生活に困らないだろうと言われたそうです。

年配のキャリアウーマンの女性にこの話をすると、男性以上に努力する姿をみせるべきだとか私は差別に負けないで頑張ってきたなどと言われることがままあります。もちろん、そのような強い女性もいるでしょう。しかし、多くの女性が同じように強いわけではありません。私は、『希望格差社会』の中で、アメリカの社会心理学者の論文を引いて、「努力が報われると思えば希望が生じる、努力しても無駄だと思えば絶望が生じる」と書きました(註1)。「男性と同じように努力しても、男性と同じようには報われない」状況は、多くの働く女性のやる気を削いでいくのです。そして、他に努力すれば報われる場があると思えば、そちらに行って自分の能力を生かそうとするのは当然です。

註1:Randorf Nesse “The Evolution of Hope and Despair” ‘Social Reserchu’ Vol66. No.2 1999
『希望格差社会』の中で、私が想定したのは若年非正規雇用者であった。非正規雇用者は、正社員と同じように努力しても報われることの少ない雇用形態である。女性も全体として同じ状況に置かれていると言ってよいのではないだろうか。女性がただ働けばよいというものではなく、「希望を持って働ける」環境を整備することが必要である。

最初の女性は、海外に活路を求め、二番目の女性は不本意ながら教師の道を選びました。そして最後の女性は、仕事で活躍する事を諦め、専業主婦になることを狙っています。彼女たちを責めることが出来るでしょうか。新卒一括採用慣行のせいで、中途で正社員になる道は狭い、その上に女性として差別される。正社員と結婚して主婦になるしか、自分の将来はないと考える、これは、現状では合理的な願望です。それが実現する可能性は低くなっていますが。

今世紀に入ってから、若い女性の中で専業主婦志向が増える傾向にあります。これは、様々な調査データによって支持されています(註2)。これは、仕事において女性差別的状況が続いており、なかなか改善されない結果生じている傾向だと思って間違いないでしょう。

註2:一例として内閣府の男女共同参画に関する世論調査をみてみよう
「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について、賛成の人の割合(%)2002年、2007年、2012年の、数値を示した。

内閣府の男女共同参画に関する世論調査

20代女性の賛成率が、2002年から2012年までに10ポイントも上昇している。性別役割分業に反対している人の割合が多い年代は、2002年では、20代、30代だったのが、2012年では40代、50代の女性である。


山田昌弘 中央大学教授
やまだ・まさひろ/東京大学文学部卒業。東京学芸大学教授を経て、2008年より現職。専門は家族社会学・感情社会学・ジェンダー論。子ども・若者・夫婦・家族を取り巻く現状を多角的に解析して打開策を提言し続け、パラサイトシングル、婚活、格差社会などという言葉を作り出した社会学者。男女共同参画会議民間議員等の公職を歴任し、現在、男女共同参画会議専門委員、日本学術会議連携会員。