「共同参画」2014年1月号

「共同参画」2014年1月号

連載 その2

男女共同参画は、日本の希望(9) 専業主婦がいることを前提とした雇用慣行
中央大学・教授 山田 昌弘

前回まで、管理職女性は未だ少なく、フルタイムで働く既婚女性も少数など、経済的に活躍する女性がなかなか増えないという現実(註1)、そして、女性の経済的活躍の立ち後れが、企業業績が伸びず、少子化をもたらし、消費が停滞するなどさまざまな点で、日本経済の足を引っ張っている現状を説明してきました。

註1:日本では、国会議員比率は10%を前後し、管理職女性約10%からなかなか増えず、フルタイムで働く既婚女性15%(2009年)で頭打ちという数字は、奇妙に符合する。つまり、いくら女性の活躍というかけ声をかけても、現行のシステムを前提とする限り、政治的、経済的に活躍する女性は、10%台に留まるのではないかと。

逆に言えば、女性が活躍することができれば、企業も活性化し、少子化は反転し、消費も活性化することになります。では、なぜ、女性が経済界で活躍する事ができないのでしょうか。男女雇用機会均等法ができて30年経とうとしているのにもかかわらず、です。

もちろん、差別的意識がまだ残っている事は事実でしょう。大きいのは、日本的雇用慣行が、女性の活躍を妨げているということです。それは、新卒一括採用、終身雇用、年功序列慣行、正社員と非正規社員の大きなギャップ、その結果としての正社員の長時間労働慣行です。これらの日本的労働システムは、一体となって、女性の活躍を妨げます。なぜならこれらの慣行は、正社員には「専業主婦がいる」ことを前提としているからです。

日本は、先進国の中では男女とも長時間労働者がもっとも多い国です。短時間労働者や非正規雇用者が増えているので、平均すれば長くはないですが、正社員に限れば、先進国一です。それ以上に、正社員であれば、長時間労働を断る自由がないことが問題なのです。週50時間以上働く労働者の割合は、男性は40%、女性でも10%を超えます。アメリカでも男女とも10%未満ですし、ヨーロッパ諸国ではもっと少ないです。日本の正社員女性(女性被雇用者)は、先進国女性の中でもっとも長時間働いているのです。

私は、オランダでヒアリングをしたとき、長時間労働者はいないのかという質問に、もちろん仕事が好きで長く働く人もいる、けれど、それを強制されることはないと答えていました(註2)。日本は、正社員である限り、突然の残業を命じられても断りにくい、他の人が働いている時に自分だけ早く帰れない、上司や同僚によく思われない、出世に響くなど、長時間労働を避けながら昇進してキャリアを積むことは「慣習的に」ほとんど不可能です。だからといって、労働効率がよいわけではありません。ワークライフバランスが徹底しているヨーロッパの方が、時間当たり労働生産性は高いのです。日本では、長時間労働する必要がない人まで、長く勤務する慣行ができあがっているのです。

註2:ロ・デ・ワールさん(オランダ元労働組合連合議長)NHK・BS 2009年7月2日放映

その上、日本の大都市部では世界一長い通勤時間も加わります。それで成り立ってきたのは、正社員男性には専業主婦がいて、家庭責任を負わないで済むからです。となると、女性は、母親を専業主婦代わりとして使えるなど幸運に恵まれない限り、結婚して子どもを育てながら、キャリアコースにはなかなか乗れません。夫たる男性も長時間労働であることがほとんどなので、夫の手伝いも期待薄なのです(註3)

註3:アメリカやアジアの新興国では、夫婦で長時間労働を「選択」する人は、家事使用人(多くは外国人女性)を雇うことによって対応している。

欧米でもアジアでも、管理職であっても原則定時に帰ります。もしそうでない職場があれば、優秀な人材は転職して出て行ってしまうでしょう。日本の年功序列慣行の元では、転職して別の所で活躍する道が見えないので、キャリアを積むためには、長時間労働を甘受するしかないのです。

山田昌弘 中央大学教授
やまだ・まさひろ/東京大学文学部卒業。東京学芸大学教授を経て、2008年より現職。専門は家族社会学・感情社会学・ジェンダー論。子ども・若者・夫婦・家族を取り巻く現状を多角的に解析して打開策を提言し続け、パラサイトシングル、婚活、格差社会などという言葉を作り出した社会学者。男女共同参画会議民間議員等の公職を歴任し、現在、男女共同参画会議専門委員、日本学術会議連携会員。