「共同参画」2014年1月号

「共同参画」2014年1月号

特集

国立大学における男女共同参画の取組
文部科学省生涯学習政策局男女共同参画学習課

平成24年度国立大学法人の業務実績評価においては、学内における組織体制の整備や女性限定公募の導入など女性研究者の採用・登用の促進、家庭と仕事の両立支援、次世代の女性研究者育成支援等の特色ある取組が評価されており、今回はその中から4校の事例を紹介します。

男性も女性も全ての個人が社会の対等な構成員として、あらゆる分野に参画する機会が確保され、その能力・個性を十分に発揮できる男女共同参画社会を実現するための基礎として、男女がそれぞれの生き方、能力、適性を考え、人生の各段階において主体的に多様な選択を行う能力・態度を身につけることができるよう、教育・学習の果たす役割は極めて重要です。国立七大学の学長による「男女共同参画に係る共同宣言」(平成20年10月)においても、国籍・人種・性別・年齢等を超えた多様で優秀な人材の参画と活躍が必要とされる21世紀において、国際化と共に男女共同参画の推進が不可欠であると明記されています。

一方で、我が国における女性の社会への参画は未だ低調であり、女性の能力が高いにもかかわらず、その能力を発揮する機会の不足が大きな課題となっています。

大学における男女共同参画の状況についても、女性教員の割合は年々増加傾向にあるものの、依然低い水準となっています(図)。


(図)「大学における女性教員の割合」(本務者・講師以上)(学校基本調査より。平成25年は速報値)


また、各大学の女性教員の採用については、各大学の権限に基づき、自主的・自律的な人事の一環として行われるものですが、政府が定める「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待する。」という目標を踏まえ、平成22年12月に策定された第3次男女共同参画基本計画において、「大学の教授等に占める女性の割合」を平成32年までに30%とする成果目標が掲げられています。

これらの状況を踏まえ、文部科学省においては、大学評価等を通じて、各大学の積極的な取組を促すとともに、女性研究者支援施策の推進などにより、大学における男女共同参画の取組の促進を図っています。

今回は、平成24年度国立大学法人の業務実績評価において評価されている取組の中から4校の事例を紹介します。


岩手の“大地”と“ひと”とともに ─地域連携で推進する男女共同参画
国立大学法人岩手大学
男女共同参画推進室

学びやすく、働きやすい大学をめざして

岩手大学では、平成20年、男女共同参画推進室を設置、翌年には「岩手大学男女共同参画推進宣言(学長宣言)」を公表して、取組を進めてきました。学長宣言は「岩手の“大地”と“ひと”とともに」の校是に基づき、(1)教職員が仕事と生活を両立できる環境整備、(2)次世代を担う学生に向けての教育、(3)教員の教育研究活動支援、(4)地域社会への発信の4つを行動方針に掲げています。現在は、室に専任教員を配置し、宣言の具体化に向けて策定した「行動計画」に則り、さまざまな取組を展開しています。

両立支援の主な取組として、学内保育スペースを設置、教職員(非常勤講師を含む)や学生等の子・孫の保育や休日勤務の際の集団保育の場となる他、学会開催時の託児スペースとしての活用も増加しています。夏季休暇中の学童保育も実施しています。これらの取組には、養成講座を受講し次世代育成サポーターとして学長から認定された学生が参加、教職員の仕事と家庭の両立を支援すると同時に、学生自身の両立に向けた意識形成に効果をあげています。

夏季学童保育で活躍する次世代育成サポーター
夏季学童保育で活躍する次世代育成サポーター


保育スペースの利用が制限される入試日や病児・病後児の保育に対しては、自宅での託児費用を補助しています。就業規則も拡充しました。特に、子の看護休暇は、子供が小学生でも取得可能で、法で定める基準を上回る日数としました。職場の雰囲気づくりのために、管理職世代が取得可能な「孫育て休暇」も創設しました。これらの取組により、厚生労働大臣から「くるみん」が認定されました。

学生の視点からの取組である「岩手大学男女共同参画推進学生委員会」は、今年度はデートDVをテーマに活動を展開、学内はもちろん、国立女性教育会館でもワークショップを運営しました。

「共生の時代を拓く、いわて女性研究者支援」の取組と成果

平成22〜24年度には、文部科学省女性研究者支援モデル育成「共生の時代を拓く、いわて女性研究者支援」の採択を受け、(1)女性限定公募の際に1つ上位の職階での募集を認めるOne-Up制度、(2)限定公募での女性教員採用部局への環境構築経費配分、(3)パートナーと2ヶ所居住をする女性教員を支援する「両住まい手当」新設等のポジティブ・アクションを制度化しました。また、パートナーが転勤や留学で海外に行く場合に離職せずに同伴できる配偶者転勤等同伴休業制度も新設しました。研究者の子育て・介護との両立を目指し、研究支援者の配置も制度化しています。

これらの取組により、女性教員の採用が促進されたことはもちろん、この2年間は離職ゼロを達成、在職比率が向上しています。女性研究者の科研費採択件数・採択比率等、業績も飛躍的に向上しました。

また、女性大学院生の奨学を目的とする「岩手大学優秀女性大学院生学長表彰」を実施、受賞者の学会参加や文献・備品購入等の研究活動費を支援しています。

「いわての復興に貢献する女性研究者支援」の拠点として

地域の拠点大学として重視しているのが、地域連携です。本学の産学官民交流組織「岩手ネットワークシステム(INS)」の活動は全国的にも高く評価されています。そのなかに「INS男女共同参画推進研究会」を立ち上げ、セミナー等を開催してきました。

東日本大震災後は、男女共同参画の視点を大切にした復興をめざし、シンポジウム「いのちと健康が守られる復興後の社会へ〜女性研究者・技術者の貢献とその意義」等を開催、復興における女性の活躍の重要性を発信しました。県の主催する「復興に関する女性との意見交換会」での提言も取りまとめました。

今年度からは、文部科学省女性研究者研究活動支援事業(拠点型)「いわての復興に貢献する女性研究者支援」として、地域の大学・高等専門学校・研究機関等との連携を強化して、多様な分野に女性の研究者が増え、さらにリーダーシップを発揮できる女性研究者を育てる事業に取り組んでいます。この事業を通じて、岩手全体が女性研究者の活躍できる場となり、地域が活性化し、東日本大震災からの復興に貢献することを目指しています。


東京農工大学における女性研究者支援の取組
国立大学法人東京農工大学
女性未来育成機構

東京農工大学は、農学と工学の2つの学問分野を主とする理系大学であり、これまでに文部科学省女性研究者支援モデル育成「理系女性のエンパワーメントプログラム」(平成18〜20年度)、同女性研究者養成システム改革加速「理系女性のキャリア加速プログラム」(平成21〜25年度)を実施し、女性未来育成機構が中心となって、女性研究者の研究支援環境整備および優れた女性研究者の養成、採用促進に取り組んでいます。平成25年度からは、文部科学省女性研究者研究活動支援事業(拠点型)「理系女性のキャリア支援ネットワークの形成〜拡げます農工大式支援ノウハウ〜」の採択を受け、本学の女性研究者支援ノウハウを連携機関へ普及する取組を推進しています。


東京農工大学の女性教員数


女性研究者を取り巻く環境整備

平成18年度の女性研究者支援モデル育成「理系女性のエンパワーメントプログラム」の採択を受け、同年9月1日、事業の中核組織である女性キャリア支援・開発センターを新設し、全学的な女性研究者支援事業を開始しました。

「理系女性のエンパワーメントプログラム」では、(1)女子学生対象のキャリアパス支援、(2)女性研究者対象の出産・育児・介護支援システム、(3)女性卒業生のネットワーク構築、(4)大学のエンパワーメント環境整備、の四つの事業を軸に男女共同参画に関わる大学システム改革を実施してきました。

平成20年度に本事業が終了することを受け、平成21年2月に、女性キャリア支援・開発センターを発展的に改組して、女性未来育成機構を新たに設置しました。

女性研究者の養成システムとポジティブアクションの実施

平成21年度の女性研究者養成システム改革加速事業「理系女性のキャリア加速プログラム」の採択を受け、女性研究者の支援活動を継続するとともに、優れた教育力・研究力を持つ女性研究者の採用と育成に取り組んでいます。毎年3〜4名の女性研究者を常勤教員として新規採用し、機構において一定の育成期間を経た後に各専攻に配置します。

さらに、本学における女性研究者の雇用促進と学内の男女共同参画の推進を目的として、本学独自のポジティブアクション「1プラス1」の運用を開始しています。これは、常勤の教授・准教授・講師・助教に女性を採用した場合、当該専攻等にプラス1名分の特任助教の人件費を学長裁量経費から支給する制度であり、採用した女性教員の職階を基準に、毎年度2名の支給対象を決定するというものです。

研究支援システムと環境整備の普及

平成25年度、女性研究者研究活動支援事業(拠点型)「理系女性のキャリア支援ネットワークの形成〜拡げます農工大式支援ノウハウ〜」の採択を受け、女性未来育成機構に“キャリア支援ネットワーク形成部門”を新設し、大学等5機関(理工農)、13社の企業(電情・化学・食品)及び“首都圏産業活性化協会”と連携して、女性研究者ネットワークを構築、本学の支援基盤を連携機関へ普及する取組を行っています。

<活動内容>(1)ワークショップ・シンポジウム・SNSを共同運営する。(2)育児期の他機関女性研究者へ研究支援員を派遣し、育児相談窓口を解放する。(3)連携企業との共同研究を加速し、連携大学間で教員メンター制度を構築、女性限定公募等の制度の普及を図る。(4)女子学生キャリアセミナーを企業と協働実施し、女性研究者の裾野を拡大する。

これら本学独自の取組並びに他機関との連携により、農学・工学分野における女性研究者の活躍支援を強力に推進しています。

拠点型ワークショップにおける連携機関の討論
拠点型ワークショップにおける連携機関の討論


グローバル(地球規模)な視点で海の利活用研究に取り組む女性研究者支援
国立大学法人東京海洋大学
男女共同参画推進室

東京海洋大学は海洋工学部と海洋科学部の2学部の中に7学科、大学院は前期博士課程7専攻、後期博士課程2専攻を擁す日本で唯一の海洋系総合大学です。

現在の本学の女性比率は、学生が約40%、教職員は約25%です。女性専任教員は13%ですが、これを19%程度にする事を長期的目標に平成23年度より女性研究者支援事業を推進してきました。

男女共同参画事業のあゆみ

平成21年に男女共同参画行動宣言を制定、22年に男女共同参画推進室を設置、23年に女性研究者支援機構を発足させ、文部科学省女性研究者研究活動支援事業に採択されたのを契機に、ライフイベント(妊娠・出産・育児・介護等)時の研究活動支援による女性研究者の増加をめざして、学内環境整備・啓蒙啓発活動に取り組んできました。その地道な活動が、研究者ポスト数増やそのポストへの女性研究者の応募増につながり、博士研究員を含む専任・非常勤の女性研究者の在職比率が平成22年度15.3%から24年度19.3%に上昇しました。

海なみの活動内容について

男女共同参画推進室女性研究者支援機構では、まず部署の認知を目的に長い組織名に愛称「海なみ」と名付けました。またマスコットキャラクター(公募により、みな海(み)と命名)も設定しPRを続けた結果、2年で大学概要に「海なみ」と表記される程度に定着してきました。ひとまず学内認知されつつある「海なみ」では、両立支援・環境作りと意識改革・裾野拡大の3つを柱に以下のように活動を推進しています。


マスコットキャラクター「みな海」
マスコットキャラクター「みな海」


1.両立支援のため、(1)人的(2)施設(3)メンタルの3方向からサポートしています。(1)研究サポーター(RS=Research Supporter)制度/子育て・介護のため研究活動の継続が困難な研究者に支援員を配置しています。平成24年度から運用を開始し、現在まで延べ17名が利用しています。“少しでいいから手を貸してもらえたら”を実現することにより、本学の女性研究者の科研費申請率は2年間で14%上昇する等、支援の効果が形になりつつあります。(2)ペンギンルーム/仮眠・授乳・搾乳等一時休憩室や幼児用プレイルームを事務室内に併設しています。平成25年はイベント開催時に開設し、延べ81名が利用しました。(3)相談サロンオレンジルーム/両立支援やキャリアアップ等に関する悩みに専任アドバイザーが学生から教職員まで幅広く相談に対応しました(2年間で135件)。

2.ワーク・ライフ・バランスを理解するための学内環境作りと意識改革のため、(1)イベント等を開催(2)ツールを作成し学内外へ意識付けしています。(1)シンポジウムやセミナーを年2回開催。ランチタイムセミナー『アットホームラーニング&パワーランチ』を月2回開催し、多くの教職員や学生が参加しています(平成24年から25回開催。参加者延べ202名)。これによりネットワークが広がり相談者も増加しました。(2)キャラクターを活かした「出産・育児支援ポケットガイド」を作成し全教職員に配布し学内制度の認知を図りました。各種ツールやホームページ「海なみnet」、学内女性研究者メーリングリストを作成し、採用情報や外部資金獲得情報の発信等、情報ネットワーク化を促進しています。

3.女性研究者の裾野拡大には特に力を入れています。『女子学生のためのキャリアパスセミナー』を平成20年度より継続開催し、海洋関連の多様なキャリアパスを紹介しロールモデル集にまとめています。平成25年度は3回開催し、中高校生や父兄も含めた懇談会において就活や受験も含めキャリアパス相談を実施しました。本学は海洋実習が必須等、特徴あるカリキュラムにより卒業後のキャリアに対する認知の偏りがあるため、先輩と直接話せる懇談会が好評で恒例となっています。これまで海洋関連の多様な女性研究者のロールモデルを紹介しました(平成23〜25年に19名を紹介)。

キャリアパスセミナーでのOG懇談会
キャリアパスセミナーでのOG懇談会


海洋関連機関との連携をめざして

海洋関連の研究は、船舶工学や生物、海洋資源や環境保全だけでなく、物流輸送など経済にも大きく関わる幅広い領域です。東京海洋大学は、ますます重要になる日本の海洋科学技術研究の発展に貢献できるように、地域をはじめ、海洋関連機関と連携して、女性研究者を支援するとともに、男女共同参画を今後も推進してまいります。


30歳代を中心とする女性研究者のエンパワーメント
国立大学法人徳島大学
AWAサポートセンター

徳島大学は、工学・総合科学・医学・歯学・薬学系の学部と大学院を擁する生命自然科学系の総合大学です。本学では、平成21年に学長自ら「男女共同参画宣言」を発表し、平成22年度には文部科学省女性研究者支援モデル育成として「徳島大学AWA(OUR)サポートシステム」が採択されました。この事業では、特に、30歳代を中心とする結婚・出産・育児期世代のエンパワーメントを推進することにより、将来、上位職に応募可能な実績と高い意識を持つ女性研究者を増加させるための取組を行いました。AWAサポートセンターが実施母体となり、各学部から参集した14名の部門委員が毎月定例会議を開き、実情に合わせた活動を展開しました。

女性研究者の増加とキャリアアップ

本学の女性研究者採用率(平成22年から3年間の平均32.6%)は、全国平均より高く、大学院博士課程女子学生在籍率32.5%に匹敵しており、男女の区別なく優秀な若手研究者が採用されています。さらに、従来は出産・子育て世代の離職が問題でしたが、支援の結果、平成23年度からは30歳代で離職した常勤女性研究者は0人となりました。平成24年度末には、ほぼすべての職階で女性研究者数が増え、在職率は20.4%となり所期の目標が達成されました。また、女性研究者学長裁量プロジェクトにより、30歳代で2人を子育て中の女性助教1名が講師に昇進し、後任に女性が採用されました。

女性研究者の業績向上

啓発セミナー(3回)、シンポジウム(3回)及び研究支援セミナー(13回)を開催し、全学的な意識啓発と女性研究者のスキルアップを促しました。その結果、平成23年度の女性研究者の学術論文発表数は21年度比で1.6倍に、国際及び国内講演発表数は各々3倍以上に増加しました。また、平成24年度の女性研究者の科研費採択数が21年度比で39%(継続+新規、採択率52%)増えるなど、全体的に、女性研究者の業績は大きく向上しました。

ワークライフバランスの実現

男女共同参画に関する意識啓発セミナーには多くの参加者(3回で延べ250人)があり、そのうち約4割が男性で、学長や理事をはじめ管理職が多数出席し、全学的な取組となりました。育児期の女性研究者の研究支援策としては、メンター制度に加えて、個人のニーズに合わせて研究支援員を配置(週8〜15時間)したところ、非支援者(延べ21人、内1人は女性研究者を妻にもつ男性)の研究成果が平成24年度には21年度比で平均2.4倍に上昇しました。また、子育て支援活動として、AWAベビーシッター制度により73名のベビーシッターを養成し、ベビーシッター利用者とのマッチング等も行いました。また3冊の支援制度ハンドブックを作成し配布しました。環境整備が進み、学内保育所「あゆみ保育園」の定員が45名から80名に増員され、24時間保育も実現しました。さらに、蔵本キャンパスに女性職員休憩室「Rococo」が新設され、多数の利用があります。

AWAベビーシッター養成講座
AWAベビーシッター養成講座


支援制度ハンドブック
支援制度ハンドブック


女性研究者交流会とリトリート

日頃孤立しがちな女性研究者が意見交換しネットワークを構築するための場として、毎年、2回の交流会と1回の1泊2日リトリートを開催した結果、異分野間の共同研究プロジェクトが立上りました。

次世代の育成と地域連携

女子学生や若手研究者に向けて女性研究者ロールモデル集を毎年発行し、ホームページにも掲載しました。また、地域の子供達や住民対象の科学体験フェスティバルでの女性研究者による実験指導や、中学や高校への出張講義などを通じて、次世代への啓発活動も行っています。

今後は、徳島大学の取組を他大学や地域企業にも波及させ、「ワークライフバランスを保ちつつ、業績を上げ、キャリアアップする」輝く女性研究者が増えるよう一層の支援を行ってまいります。