「共同参画」2013年12月号

「共同参画」2013年12月号

スペシャル・インタビュー

「迷ったら理系に!」研究は本当にやりがいがある仕事ですから

黒田 玲子
東京理科大学総合研究機構教授

─ この度は、国連科学諮問委員会メンバーへの選出おめでとうございます。

○黒田 なぜ私なのだろうと私が聞きたいくらい。国際科学会議(ICSU)の副会長を3年間務めたり、海外の学術連合の会議に参加したりしていたのを見ていてくれた人がいたのかな。20数名のうち日本人は1名だけ。抱負は、メンバーとして信頼が得られる答申を出したいということ。国連は利害関係が対立する加盟国が在する組織だからこそ、広く長い視野を持って、think globally, act locallyであることが大切。国連が関わる多数の問題に科学的な裏付けをし、優先順位を付け、科学と政策のリンクをしていくのが仕事。自分の分野や国の利益ではなく、地球全体・次の世代を考えて、信頼感を築いていくものと考えています。

─ 若いときから海外でお仕事されていらっしゃいますよね。

○黒田 日本にいてもポストがないとわかっていたから、ポスドクの段階で海外に出ました。

行って、視野が広がって本当によかった。当たり前がそうじゃないってことが日本にいたらなかなかわからないけれど、相手のことを思いやって尊重しないとやっていけないということがよくわかりました。日本は女性研究者が少ないと言われているけれど日本の女性はなかなか優秀。問題があるとしたら、周りがまだ認めていないことかな。近頃はだいぶ認めているけれど、出産育児介護すべて女性というのはヘンで、男性もやらないといけないし、社会が温かくサポートしていくことが必要。研究というのは本当にやりがいがある仕事ですから。

─ 理系に進んだきっかけは?

○黒田 文系の方が得意なくらいだったから高校3年生までずっと迷っていたけれど、理系は大学に行かないとできないかなと思って進みました。元素のちょっとした組み合わせで物質の性質が大きく変わり、そしてこの世界ができ上がっているのが面白いと思って、大学に入るときには化学を選択していました。化学に興味を持ったきっかけがあるとしたら、小学校6年生で入った化学クラブかもしれない。白衣を着て、遊びながら実験をしたりして。

逆はできるけれど、文系を選んでからの理系への転向は難しいから、迷ったら理系に行ったらというのが私からのアドバイスです。

研究は、生物と化学を両方、JSTの助成金などを受けながら、ポスドクを雇ったり若い人たちとも一緒にやってきました。大学のお金だけではとても研究は続けられなくて、国の補助は必須です。自分も総合科学技術会議議員や文科省の中央教育審議会委員として意見を出して改善に貢献してきたけれど、国の制度はかなり良くなってきています。助成制度のあり方も、女性のライフイベントを考慮したものになってきたり、結構よく取り組んでいます。

─ 後進の女性たちへ、研究やリーダーシップを実践していくためのアドバイスをお願いします。

○黒田 科学技術分野は特にそうだけれど、他の分野でも3年も現場を離れたら感覚がずれて女性がリーダーになんかなれないのではと、心配。202030達成のためにも、今のIT技術にあった支援の仕方や、男性も休みをとったりするなどで女性が出産育児期にも現場から完全には離れないですむようにしていくことが大事。

若い女性達に伝えたいのは、とにかく頑張ること。人のせいにしてだけいたらおしまいで、本当にやりたいことがあって、そのためにどうするということを自分で考えて相談すれば必ず手をさしのべてもらえます。早いか遅いかは人によって違うけれど、必ず道は開けますから。

どんなことも額に汗して努力しないと成果は得られません。ラクしてみんなに感謝されたり、自分で達成感が得られる仕事なんてないと思います。努力したときの喜びというのは子どもの時から持っているものでそれを失わせないように、まずは誉めなきゃね。一緒に研究している若い人が迷ったり失敗して落ち込んでいるときも、本人が一番へこんでいるはずだから、きつく言わないようにしています。まず誉める!

ひらめきは生き生きした心に宿るものですから。

黒田 玲子 東京理科大学総合研究機構教授
黒田 玲子
東京理科大学総合研究機構教授

くろだ・れいこ/
お茶の水女子大学理学部化学科卒業、東京大学理学系研究科化学専門課程博士課程修了。東京大学教授を経て、平成24年より現職。専門は化学・生物。平成5年に猿橋賞、平成25年にロレアル-ユネスコ女性科学賞を受賞。総合科学技術会議議員、国際科学会議(ICSU)副会長等の公職を歴任し、現在東京大学名誉教授、日本学術会議会員。スエーデン王立科学アカデミー会員。