「共同参画」2013年 8月号

「共同参画」2013年 8月号

連載 その2

男女共同参画は、日本の希望(4) 女性の活躍は企業を活性化させる
中央大学・教授 山田 昌弘

今回は、企業において男女共同参画が必要な理由を考察していきます。

女性の採用や昇進は、企業活動にとってマイナスという偏見をもつ人はまだいます。しかし、世界的に見れば、アメリカや北欧など女性が経済的に活躍する先進国の経済は好調です。しかし、イタリアやギリシアなど女性の経済参加が低調な国の経済は停滞気味です。

個々の企業をみてみましょう。女性役員比率が高い企業ほど利益率が高いなどの調査結果が海外で出ています。日本でも、2003年の経済産業省の報告(註1)以来、女性が活躍する、もしくはその基盤がある企業の企業業績はよいという結果がいくつも出ています。これらの調査では単に女性の人数が多ければよいということではなく、管理職への昇進や女性が働き続けるための支援など女性が活躍する環境が整っていることが重要であると指摘されています。

註1:経済産業省・男女共同参画研究会報告書「女性の活躍と企業業績」(平成15年6月)。官庁が行ったヒアリングやミクロデータ分析に基づく貴重な報告書である。「女性比率が高い企業は利益率が高い」がただ単に女性比率を高めてもだめで、女性を活躍させるような企業風土をもつほど、経営成果も良好であるといった結果が報告されている。10年たった今でもこれを超える分析がみられないのは残念である。

では、なぜ、女性が活躍すると企業が活性化されるのでしょう。私は、前回述べたように、ここ20年の経済の構造転換、ニューエコノミーの浸透が、女性の能力を必要とする環境を作り出したと考えています。1990年くらいまでの工業時代では、男性が長時間力任せに働いて、モノをたくさん作れば、羽が生えたように売れました。しかし、社会が豊かになり、サービス業が中心になり、グローバル化が進むとモノを作れば利益が上がるという時代ではなくなりました。みんな一通りモノを持っています。海外での生産が可能なモノの値段はどんどん安くなります。豊かな国の人々は、プラスアルファ、つまり「付加価値」があるモノやサービスを求め、お金を払うようになります。そして、そのようなモノやサービスを作り出すことには、女性は優れた能力をもちあわせています。

私が通っている歯科医院には独特のサービスがあります。それは、時々マッサージ師が治療中に足裏をマッサージしてくれるのです。院長は女性で、患者さんがリラックスして治療を受けてもらうにはどうしたらいいか考えた結果、採用したそうです。ただ、病気を治せばよいと考えるのではなくて、相手の立場を考え、相手が望んでいるモノやサービスは何かを考えた結果出てきたサービスです(註2)。彼女の医院は予約がなかなかとれないくらい繁盛しています。

註2:ニューエコノミーの提唱者であるロバート・ライシュは、潜在的欲求と隠れた願望を引き出す能力を「精神分析家的能力」と名付けている。人があったらいいと望んでいるというモノやサービスを、具体化させて明らかにする能力だからである。(ロバート・ライシュ著、清家篤訳『勝者の代償』)。

では、どのように女性は、新しい経済に必要な能力を身につけたのでしょう。一つのエピソードがあります。10年も前のこと、小学生だった娘が友人の誕生日のプレゼントを買いに行くのに付き添いました。しかし、なかなか決まらないのです。これにしたらというと、「ーちゃんに似合わない」などと言うのです。ここで、はたと気がつきました。女の子は、女の子同士のつきあいの中で、どんなプレゼントをあげれば喜ばれるかを常に考えながら行動しています。その経験が、社会に出てから、美的センスが伴い、使う立場にたった商品の開発や、人を気持ちよくさせるサービスの提供に生かされているのです。強ければよいという発想で生きている多くの男性は、新しい経済に必要な能力を訓練する機会に恵まれていないのです(註3)

註3:男の子同士で誕生日などでプレゼントを贈り合うと行った習慣はほとんどみられない。男性が、初めて、相手の立場に立ってどんなモノやサービスが喜ばれるかを考え始めるのは、彼女ができたときである。彼女のいる男性のコミュニケーション力は高くなると思われる。

これが、企業で女性を活用しなければならなくなっている理由の一つなのです。

やまだ・まさひろ氏
やまだ・まさひろ/東京大学文学部卒業。東京学芸大学教授を経て、2008年より現職。専門は家族社会学・感情社会学・ジェンダー論。子ども・若者・夫婦・家族を取り巻く現状を多角的に解析して打開策を提言し続け、パラサイトシングル、婚活、格差社会などという言葉を作り出した社会学者。男女共同参画会議民間議員等の公職を歴任し、現在、男女共同参画会議専門委員、日本学術会議連携会員。