「共同参画」2013年 7月号

「共同参画」2013年 7月号

行政施策トピックス2

我が国のハーグ条約締結に向けて
外務省総合外交政策局ハーグ条約室

1.ハーグ条約とは

国際結婚及び国際離婚の増加に伴い、一方の親による国境を越えた子の不法な連れ去りによる子への有害な影響が深刻な問題となってきたことを受け、ハーグ国際私法会議において、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」が1980年に作成され、同条約は1983年12月に発効しました。

国境を越えた子の連れ去りは、子にとってみれば、それまでの生活基盤が突然変わり、一方の親や友人との交流が断絶され、異なる言語文化環境へも適応しなくてはならなくなる等、子に有害な影響を与える可能性があります。

ハーグ条約は、そのような悪影響から子を守るため、原則として元の居住国に子を迅速に返還するための国際協力の仕組みや、国境を越えて離れて暮らす親と子が面会できるよう締約国が支援をすることを定めており、現在では子の利益を最重要視した国際的ルールとして確立しています。2013年6月現在、90カ国(米、加、EU全加盟国、韓国等)がこのハーグ条約を締結しています。

我が国においては、政府が、2011年5月に条約締結に向けた準備を進めることを閣議了解し、返還申請等の担当窓口となる「中央当局」は外務省が担うとの方針の下、法務省及び外務省において当事者や専門家等の様々な方面からの声を踏まえつつ、実施法案が作成されました。

そして、本年の通常国会において、5月22日にハーグ条約の締結が承認され、6月12日に条約実施法が成立しました。

2.条約締結後の具体的手続の流れ

ここでは、外国から日本へ子が連れ去られた場合を例に、条約上の手続について説明します。

他の条約締約国から日本へ子を連れ去られた親は、当該親の住む国の中央当局や子が居住する日本の中央当局に対し、子の返還、又は、子との面会交流について援助の申請を行うことができます。日本の中央当局は、申請の審査を行った後、子及び子の同居者の所在を特定した上で、まずは、任意の返還や友好的な問題の解決に向け当事者間の協議のあっせんの支援等を行います。しかし、これが奏功しない場合、残された親からの申立てに基づき、裁判所が子を元の居住国に返還するかどうかにつき、子の生活環境の関連情報や子の意見、両親双方の主張を考慮した上で、判断を下すことになります。裁判所により子の返還命令が下された場合には、日本の中央当局は、子を安全に元の居住国に返還するための支援を行います。

申請を受けた後の主な流れ

条約上、不法に連れ去られた子を元の居住国に戻すことが原則となっていますが、以下に該当するような場合には、裁判所は子の返還を拒否することができます。

(1)連れ去りから1年以上経過した後に裁判所への申立てがされ、かつ子が新たな環境に適応している場合

(2)申請者が連れ去り時に現実に監護の権利を行使していなかった場合

(3)申請者が事前の同意又は事後の黙認をしていた場合

(4)返還により子が心身に害悪を受け、又は他の耐え難い状態に置かれることとなる重大な危険がある場合

(5)子が返還を拒み、かつ当該子が意見を考慮するに十分な年齢・成熟度に達している場合

(6)返還の要請を受けた国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により返還が認められない場合

3.条約の締結に向けて

今後は、政省令や最高裁判所規則等の条約の実施に関する運用の細則を新たに定めるとともに、条約の趣旨や条約締結後の具体的手続の流れ等について国民の皆様の理解を広めるため十分な周知、広報活動を行い、政府として条約の締結及び条約実施法の施行を目指し準備していきます。