「共同参画」2013年 4・5月号

「共同参画」2013年 4・5月号

連載 その1

男女共同参画は、日本の希望(1) 男女共同参画・発展途上国 日本
中央大学・教授 山田 昌弘

「地球上で女性を侮った国は発展しませんでした」。これは、昨年上演された宝塚歌劇宙組公演SFファンタジー『銀河英雄伝説』の中のフレーズです。伯爵令嬢ヒルダが銀河帝国初の軍人を志願し提督が我が国には女性の軍人などいないと難色を示した時に、彼女が発した言葉です(註1)

註1:『銀河英雄伝説』田中芳樹原作、小池修一郎脚本。2012年宝塚歌劇宙組公演。主演、凰稀かなめ、美咲凜音。この発言は原作にはないので、小池氏の創作だと思われる。(私は「男なのに」宝塚歌劇ファンである。歌舞伎も好きだが、女性が男性を演じ、男性が女性を演じる文化がある日本に生まれてよかったと思っている)

日本社会が女性を侮っているとは思いませんが、女性がなかなか活躍できない環境にあることは確かです。2012年の世界経済フォーラムのレポートによると、日本の男女平等度は、135カ国中101位、特に、経済分野では102位、政治分野では110位となっています。諸外国では女性大統領、女性首相は当たり前なのに、日本では国会議員比率も最低レベルです。経済界を見ても、諸外国では管理職比率が30-40%程度の国が多いのに対し、日本では管理職比率も10%程度。役員比率に至っては、欧米主要国15%程度なのに、日本ではわずか1.4%、下にはアラブ産油国があるだけです。

日本は昔からこうだったのでしょうか。そうではありません。日本では、西暦593年推古帝が即位して以来、何人も女帝が出、政治に大きな力をもった伝統があります。673年、壬申の乱に勝利した天武天皇即位の時の詔により、女性も朝廷への出仕、つまり公務員への登用が許されています(註2)。古代でこれだけ女性が活躍した国は、日本以外では古代エジプトくらいでしょう。日本は、昔は男女共同参画「先進国」でした。しかし、今では、男女共同参画「発展途上国」になっています。

註2:天武天皇詔「女子の出仕は、未婚、既婚問わず、有夫であろうと寡婦であろうと、その歳の上下を問わず、これを許す」(橋本治『双調平家物語 第三巻』より)

(中国では4000年の歴史上女帝は一人だけ。フランスでは女王はいなかった)

私は、女性が活躍できていないことが、ここ20年の日本の経済停滞の1つの原因だと考えています。男女の就業率ギャップ指数というのがあります。男性が女性に比べどれだけ多く働いているかを指数化したものです。表を見ていただければわかるように、イタリア、ギリシア、スペインなど財政危機が起きている国ほどこの数値が高く、北欧やカナダなど財政健全国ほどギャップが小さくなっています。日本では、20年前に比べれば多少は働く女性、管理職女性は増えています。ただ、その速度は、諸外国に比べれたいへん遅いのです。女性の活躍がなければ、このグローバル化した世界経済の中での発展が見込めないのです。

表 OECD男女の就業率ギャップ指数(OECD主要国)

私は今、シンガポールや香港で経済的に活躍している日本人女性にインタビュー調査をしています。彼女たちは「日本企業では居場所がなかった」「ここではのびのびと働きながら子育てできる」などと語るのです。日本でなかなか女性が活躍する環境が整備されない間に、日本の一人あたりGDPは、アメリカや北欧に追いつくどころか、シンガポールに追い抜かれ、香港や台湾に並ばれようとしています。今、女性大統領を出した韓国が国を挙げて男女共同参画に取り組んでいます。このままだと、男女共同参画だけでなく、経済的にも発展途上国になりかねません。

女性の経済的活躍の推進は、単に女性にとってメリットがあるばかりではありません。日本経済、社会、家庭、そして男性にとっても必要かつ不可欠なものになっているのです。本連載では、この点について、順次考察していきたいと思います。

やまだ・まさひろ氏
やまだ・まさひろ/東京大学文学部卒業。東京学芸大学教授を経て、2008年より現職。専門は家族社会学・感情社会学・ジェンダー論。子ども・若者・夫婦・家族を取り巻く現状を多角的に解析して打開策を提言し続け、パラサイトシングル、婚活、格差社会などという言葉を作り出した社会学者。男女共同参画会議民間議員、日本学術会議連携会員等の公職を歴任。