「共同参画」2013年 2月号

「共同参画」2013年 2月号

連載

地域戦略としてのダイバーシティ(10) 多面性の活かし方Part5
~役割分担の秘訣大公開!」
株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美 由喜

性別役割分業への郷愁は間違い

先日、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方に、賛成51.6%、反対45.1%という内閣府の調査結果が話題になった。調査を始めた1992年から前回まで一貫して賛成が減ってきたのに、今回初めて反転したからだ。

男女共同参画業界(?)の仲間から、驚きと嘆きの声を多数耳にしたが、筆者は社会システムの転換に伴う摩擦の表れだと思う。すなわち、実態として女性の社会進出は進んでいるものの、依然として女性は活躍しにくい社会・職場風土や家事・育児を一緒にやらない夫が多いため、アンチテーゼとしての性別役割分業に郷愁を覚える心理が働いているのではないか、と推察する(注1)

ところで、昨年から我が国は、女性がもっと活躍しやすい社会にするために、『働くなでしこ大作戦』を実施している。一方で、我が国の失業率は4.1%(2012年11月)となっており、2%台で推移していた1980年代~1990年代半ばまでの状況と比べると、時系列で増加傾向にある。特に、15~24歳の若年失業率は8%強となっており、全世代の倍近い高水準だ。

このため、しばしば「若者、特に男性の雇用の機会さえ減っている中で、今後、就労継続する女性が増えていくと、さらに男性の雇用環境は悪化するのではないか」と懸念する声もある。しかし、これはマクロでみた雇用環境に対する、間違った認識だ。

「平等」から「公正」へ

近年、債務危機による景気減速が進んでいる欧州でも、例えばノルウェーやスイスといった国々では、女性の雇用者割合が高く、なおかつ低い失業率を維持しつつ、経済的にも好況が続いている。一人当たりGDPの上位国では、男女共に就業率が高く、失業率が低い点が特徴的だ(注2)

日本企業の人事労務管理では、『平等』の規範が強い。すなわち、子育て中の社員や介護しながら働く社員を支援すると、子どもがいない社員や介護をしていない社員に対して不平等になる、ということを気にする。一方で、仕事の成果に大きな差があっても、一定の年齢になるまでは、横並びで昇進昇格させて、差をつけない。ましてや解雇なんてと消極的だ。一方で、社員も解雇されまい、と同僚と過重労働を競い合ったり、パワハラ上司の暴言を我慢して忍んでいる。その結果、多くの企業では、離職・退職に至る場合、ワーク要因よりもライフ要因の方が強い(拙稿、平成24年 1月号)。

今後は、欧州企業のように、『公正』の規範、すなわち「当人の責任とは言い難いライフ要因で離職せざるをえない就労環境は公正とは言えない。したがって、公正な競争ができるように保育環境も就労環境も整備する。一方で、ワーク面で成果が乏しく離職に至るのはある意味で、自己責任の面があるので、いたしかたない。その代わりに、別の会社に雇用されるように、失業者の職業訓練に注力する」という考え方を、国も企業も取り入れていくべきではないか(注3)

ちなみに、筆者は最初の転職時に失業も体験した。その間、共働きの妻に養ってもらい、「共働きこそ、最大の失業保険だ」と実感している(注4)。ミクロでみても、性別役割分業は間違いだと思う。

注1:いろいろな属性の人たちにヒアリングをすると、以下のような傾向がある。
未婚無職女性:「主婦になれたら、就活しなくてもいいからラクそう」と憧れ。
未婚無職男性:「働く女性のせいで、自分は職を得られない」と八つ当たり。
未婚就労女性:「まだまだ働く女性は男性と比べて不利で、気苦労が多いし、先行きの見通しも暗い。主婦になりたいわ」と羨望。
未婚就労男性:「賃金は将来も上がりそうにない。最近、女性を中心に、非正規労働者が増えたから、労働力の価格破壊が起きているのではないか。かつてのように、男性だけが働くようになれば、希少価値が高まるので、賃金カーブは右肩上がりになるはず」と誤解。
既婚就労女性:「夫はまったく家事・育児をやらないから、私は三重苦。これだったら、主婦の方がまし」と夫への不満を転嫁。
既婚就労男性(共働き):「妻も社会の風潮も『イクメンていいよね』なんて言って、俺に家事・育児をさせようとしているが、深夜遅くまで働いているのに、できるわけないだろう。三丁目の夕日の時代はよかったなあ」と郷愁。
既婚就労男性(片働き)および主婦:「自分たちの既得権を奪おうとする動きはけしからん。日本社会には片働きが合っているのだ」と既得権に固執。

注2:一人当たりGDP世界1位のノルウェーは、男性就業率は3位、女性就業率は1位。また、同世界2位のスイスは、男性就業率は1位、女性就業率は3位だ。

注3:失業率は3.0%(2012年9月)のノルウェーでは、残業は7日間あたり10時間を超えてはならず、残業に対する賃金は最低40%の割り増しだ。こうした就労環境を背景に、ノルウェーは、2010年、11年と2年連続で母親が最も子育てしやすい国の第1位だ(Save the children『Mother Index Ranking』)。ちなみに、日本は先進国中最下位の28位(2011年)。
また、失業率3.4%(2012年10月)のスイスでは、手厚い失業保険や雇用契約に関する法規制が緩く、雇用も解雇も容易な労働市場を生みだしている。その一方で、『職業実習制』と呼ばれる質の高い職業訓練システムが求職層のみならず、即戦力を求める企業にとっても相互にメリットが出る好循環になっている。

注4:失業中に、悪友から「おまえ、ヒマだろう」と聞かれ、「ヒモじゃない!」と言い返したことがある。ヒモではないが、ヒモジクもならなかったのは妻のおかげだと今も感謝している。
一方で、結婚して妻が仕事を辞めると、「寿退社」とか「これからは内助の功ね」と言われるのに、夫が仕事を辞めると「ヒマだろう」とか「ヒモと見られているのではないか」と疑心暗鬼になってしまう、男性の生きづらさを痛感した次第だ。

あつみ・なおき
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府『「企業参加型子育て支援サービスに関する調査研究」研究会』委員長、『子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(内閣総理大臣表彰)』選考委員会委員、男女共同参画会議専門委員、厚生労働省『イクメンプロジェクト』『政策評価に関する有識者会議』委員等の公職を歴任。