「共同参画」2012年 11月号

「共同参画」2012年 11月号

スペシャル・インタビュー

予防啓発(デートDV)に関する取り組みについて
細田 眞由美
さいたま市教育委員会
学校教育部指導2課 副参事

学校における効果的な予防啓発のために

─ 教育の現場で様々な取組をされていると伺いました。

細田 高校生を対象に、いわゆる“デートDV”に関する講義・講演やワークショップを通じた予防啓発をしています。また、教職員に対する研修も行い、学校で予防啓発を推進する取組も行っています。さらに最近では、大学生を対象にワークショップなどを行わせていただきました。

─ どの年代に対する啓発が特に有効だといった傾向はありますか。

細田 聞き手の発達段階等に応じて、アプローチの方法を変えれば良いと思います。

今申し上げた大学生が受講者のケースは、人間関係の幅も広がりますので、交際相手とのより良い関係を築くためには何が大切なのかという点について、当事者意識を持って取り組んでもらえました。さらに、本年度ワークショップを実施した大学では、対象が教育学部の1年生でしたので、ゆくゆくは教員をはじめとする支援職に就く可能性の高い人たちです。そのため、自分たちが将来教員になって、目の前にいる子供たちがこの問題に直面した時にどのように対応したらよいか、という視点で捉えることもでき、たいへん有意義だったと思います。

高校生が相手ですと、交際相手からの暴力について当事者意識のある生徒は、実はあまり多くはありません。生徒は、かなり早い時期から非常に親密な交際相手のいる層と、ほとんど交際経験のない層と二極化しています。交際に至るまでには、いろいろなコミュニケーションが必要ですが、特に男子生徒は、そこに苦手意識を持っている生徒が多いように感じます。憧れはあるけれど今の自分には関係ないという生徒に、一足飛びに親密な男女交際の中で起こる暴力と言ってもかなり乖離があります。これって男女交際している連中の話だよね、という反応です。ですから彼らに対しては、「実際に交際相手からの暴力を受け悩み苦しむ人は10人に一人かもしれないが、その一人が相談する相手は、残りの9人の中に含まれている。だから当事者にはならなくとも相談相手になる可能性はありますよ。」と説明すると、自分たちの問題として捉えるようになります。

講演後にアンケートを実施していますが、「もし、今後友人が、交際相手からの暴力を受けているようだったら相談に乗ってあげようと思いますか」という質問に対して、「そう思う」と回答した生徒は、毎回80%を超えています。この結果からもご理解いただけるかと思います。

─ なるほど、予防啓発は高校生にも十分に有効なものとなりますね。

細田 高校生が当事者意識を持ちにくい原因は、もう一つあります。

講演前のアンケートで、「デートDVについて身近で見たり聞いたりしたことがありますか」と聞くと「ある」は4~6%くらいです。しかし、内閣府の教材(※)を使い、これを作成した際には私も協力させていただきましたが、交際相手からのメールに返信がなく、それを咎めて身体的暴力を振るった話(ケース1)、身体的暴力はないが、交際相手を独占するために「携帯のメモリを消してしまう」という精神的な暴力を振るった話(ケース2)、性暴力につながる可能性がある話(ケース3)をしますと、これも暴力の一種なんだということに気付きます。講演後のアンケートで、改めて「それぞれのケースについて身近に感じられますか」という質問をしますと、一気に30数%に跳ね上がります。

また、講演後アンケートの自由記述欄には、「DVっていうのは、身体暴力だけだと思っていた。」「DVは、結婚している大人の問題だと思っていた。」という記載が非常に多く、「交際相手からの暴力」いわゆる“デートDV”については、ほとんど知識がない。つまり、実は自分たちの身の回りにも起こっているけれど、認識がないから当事者意識がないということがわかります。

─ 接してはいるけれど、それが暴力である、問題をはらんでいるとは思わないということでしょうか。

細田 その通りです。ですから教職員に対する研修も大事になります。教員研修には、二つの効果があります。一つは、教員が認識を深めたことにより、実際に問題を抱えている生徒がいた場合に、それに気づくことができる。つまり、こういう問題は水面下にもぐりやすいですから、教員の感性といいますかアンテナが高いということが大切になります。二つ目が、教員自身の生徒に対する、あるいは教職員相互の、相手を尊重したコミュニケーションの在り方について理解を深めることができるということです。

─ 予防啓発について教育委員会と男女共同参画担当部局が、より連携していくためのアドバイスを。

細田 自治体の男女共同参画担当部局が、いわゆる“デートDV”の予防啓発を学校で取り組んでくださいと、教育委員会を通じてお願いした場合「それって、男女交際が前提の話でしょ」とか「本校にはそういう問題はあまりないから」と言われてしまい、学校全体の問題として積極的に取り組んでいただくことが難しいと感じます。ですから、内閣府のパンフレットのように「人と人とのよりよい関係をつくるために」といった視点からアプローチすると良いと思います。「人権教育」あるいは「人間関係づくり」といった視点で考えれば、生徒全体の問題として受け止められると思います。人権教育の一環として男女共同参画の視点が必須だということを訴えていくことが必要でしょう。

─ 予防啓発の重要さを改めて認識しました。

細田 若年層の交際相手からの暴力に対する予防啓発を、対処療法的な教育活動としてではなく、相手を尊重しながら共に豊かな人生を送っていくための積極的な教育活動として実践できれば、本当に有効な取組になると考えます。また、アニメやゲームの中で繰り広げられている、いわゆる2次元の「恋愛」とは違い、生身の人間が親密な関係を継続していくためには、きちんとコミュニケーションを取っていかなければ分かり合えないということを伝えていく必要性も痛感しています。

ワークショップ形式で取り組むことができれば理想的ですが、年に1回、全校生徒を体育館に集めて講演会を実施する、といった手法でも効果があると思います。まずは試み、成果を示したうえで、より充実させていければベストだと思います。こうした話をいろいろな所でしますと、子供たちは大きく変わります。教育の力を実感いたします。

学校が主体となり、男女共同参画担当部局とも連携を密にして、より良い取り組みにしていきましょう。

─ お忙しいところをありがとうございました。

(※)人と人とのよりよい関係をつくるために (平成22年3月)(内閣府男女共同参画局) http://www.gender.go.jp/dv/yobou/index.html

細田 眞由美 さいたま市教育委員会 学校教育部指導2課 副参事
ほそだ・まゆみ/
埼玉県立高等学校教諭を経て、平成12年度より埼玉県立総合教育センター指導主事として教育相談業務に従事する傍ら、教職員のカウンセリング研修等を担当。その後、埼玉県教育局高校教育指導課指導主事として、国際理解教育並びに教員研修等を担当。埼玉県立伊奈学園中学校教頭、埼玉県立庄和高等学校教頭を経て現職。 2009年 内閣府「若年層を対象とした女性に対する暴力の予防啓発教材検討会」委員 2008年~ 埼玉県男女共同参画アドバイザー