「共同参画」2012年 4・5月号

「共同参画」2012年 4・5月号

行政施策トピックス1

女性の経済的エンパワーメントに関する諸外国の主な取組(上)
内閣府男女共同参画局総務課

はじめに

女性の活躍による経済社会の活性化という考え方は、政府の第3次男女共同参画基本計画に盛り込まれています。日本国内では、政府だけではなく企業も積極的に取り組んでいます。また、国際的にも、国連本部や国連諸機関、APEC等の地域会合でもその必要性が強調されています。

さらに多くの国々では、女性の活躍による経済社会の活性化と女性の経済的なエンパワーメントの促進が、重要な政策課題として位置づけられています。その際は、まずは企業が主体的に取り組むことが求められますが、他方で、政府もその促進と支援のための法制度等を整備しています。こうした取組は、近年急速に発展し、これまでの男女の均等待遇や性差別の撤廃に加えて、新たな視点から法律や政策が展開されています。また、政府と企業が連携してより実効的に推進しようとする枠組みも整えられています。

そこで、本号では、こうした諸外国の取組において、女性の経済的なエンパワーメントを具体的に進める手法として注目されている、男女別データの作成・報告、男女の賃金格差の解消、企業の政策方針決定過程への女性の参画促進に関する取組を紹介します。次号は、企業の取組を促進するための、政府によるインセンティブ付与を扱います。

男女共同参画推進計画の策定

女性の経済的エンパワーメントを推進する取組としては、第一に、企業のトップがリーダーシップを発揮して、男女共同参画を推進する企業の方針やプログラム、実行計画を作成するよう法律により義務付けるものがあります。

例えば、スウェーデンでは、2008年に、従業員25人以上の企業の事業主は3年ごとに「平等に関する職場計画」を策定することとされました。この計画には、労働条件、採用方針、男女間の同一賃金に関する行動計画の策定と、その進捗状況に関する報告を含みます。また、それと別に、事業主は企業内の男女の格差の実態とその格差解消方法について、次の年までに開始または実施することを明示した「調査分析計画」を策定します。

イギリス、カナダ、ナミビア、南アフリカ等では、企業の多様性、女性、人種、障がい者等のダイバーシティを推進するための計画やプログラムを作成して、実施することとされています。

男女別データの公表・報告

男女別のデータを作成し、その情報を公表し、報告するという取組もあります。従業員や管理職の数や比率だけではなく、男女別の平均賃金や労働時間のデータの作成が求められます。

韓国は、2008年に、従業員500人以上の企業に対し、職種別・階級別従業員数の情報を、男女別に提出することを義務付けました。女性比率が規模・業種別に定める一定の基準以下の場合には、企業は自ら改善案を策定して施行することを求められます。オーストリアは、2011年に、従業員1000人以上の企業に対し、男女別に、平均賃金と労働時間の情報公開を義務付けています。2014年までに順次、対象企業が拡大されます。

男女の賃金格差の解消

また、男女の賃金の格差を解消して平等に近づけようとする取組には、男女の賃金等の現状を企業が自らチェックできるツールを政府が提供したり、賃金格差を解消するために企業が何をするか自ら検討するよう義務付けるものがあります。

ドイツは、2011年に、企業における男女平等賃金を実現する企業の自主的なツールとして、コンピューター・アプリケーション「Logib-D」を開発しました。家族高齢者女性若者省が支援し、企業の賃金及び人材の構造を分析して、企業における男女の賃金格差の解消方法に関する情報と解決策を提供するものです。登録した企業が利用できます。

フィンランドは、「賃金平等プログラム」計画を策定して、雇用契約方針、ジェンダーに基づく職域分離、賃金システムの開発、女性のキャリア開発等の改善や見直しにより、2015年までに男女の賃金格差を20%から15%以内に縮めることを目指しています。社会保健省と労働者団体との合意に基づき実施されています。

取締役における女性比率の向上

企業の政策方針決定過程への女性の参画促進は、上記のような従業員に対する取組だけではなく、管理職や取締役等への女性の登用を促進しようとして、トップダウンで女性の比率を高めようしている国もあります〔表〕。アイスランド、イタリア、オランダ、スペイン、ノルウェー、フランス、ベルギーでは、法律により、上場企業や一定規模の株式会社は、取締役の30%~40%は女性を任命するように求められています。このようなケースはヨーロッパの国々が多いのですが、他方、マレーシアでは、上場企業は取締役の30%以上は女性を任命するよう求められています。また、管理職比率を高めることを表明した企業と協定を結んで推進するのは、EU、オランダ、デンマークです。イギリスは、政府が、ディビス元労働大臣による報告書に基づき、FTSE100の企業(ロンドン証券取引所に上場する企業のうち時価総額の上位100社)を対象に、取締役の女性割合を2015年までに25%とするよう推奨しています。

【表】 各国における取締役女性比率の目標
【表】 各国における取締役女性比率の目標
(※)企業の規模や形態により目標年が異なる

取締役に一定の割合で女性を登用することは「クオータ制」と呼ばれています。もし企業がその割合の女性を登用できない場合、企業に何らかの制裁措置を設けているかどうかは国により異なります。

ノルウェーでは、最終的には裁判所によって法人登記が取り消される可能性があり、違反した場合の制裁はかなり厳しいと言えます。そのためか、企業の取締役における女性の割合が、2003年は6%でしたが、2011年は40.1%と、大幅に上昇しました。また、フランスやベルギーは、企業が法律で定められた割合を達成すれば取締役の報酬が支払われますが、未達成の期間は支払われません。イタリアは罰金等が課されます。

他方、他の国では「遵守するか説明するか」の原則が適用されます。この場合、企業には法律を守ることが当然求められますが、目標の割合に達しなくても直接の制裁はありません。ただし、実行できなかった場合は、その理由を説明しなければなりません。

(以下、次号)