「共同参画」2012年 3月号

「共同参画」2012年 3月号

連載 その4

PKOにおける文民の保護とジェンダー(2)
内閣府国際平和協力本部事務局(PKO)

性暴力は国際平和と安全保障の脅威

国連安保理決議1820は「女性、平和、安全保障」について、決議1325を強化する決議です。本決議では、紛争下における性暴力を「戦争犯罪」と定め、「性暴力を予防し、性暴力から文民を保護することは国際平和と安全保障に寄与することである」と明文化し、全ての形態の性暴力から文民を保護するために軍人、警察、文民専門家は速やかな対応策を取ることが義務付けられています。

続けて決議された安保理決議1888では持続可能な国際平和と安全保障は国際社会が性暴力防止へ取り組む強い意思と深く関わることを明言化し、PKO国連特別代表の指揮の下、決議1325と決議1820の推進を図ることがPKOのメカニズムに取り入れられました。決議1820は、PKOにおける「文民の保護」の概念に、それまで見落とされていた性暴力からの保護という視点を具体的に取り入れたため、歴史的・根本的な変化をもたらしました。また性暴力からの文民の保護は、決議1889、決議1960によって更に具体化していきます。

女性への戦争は終わっていない

PKOが展開する地域の7割はアフリカ諸国です。しかしPKOが展開してもなお、文民(特に女性、女児)に対する性暴力が戦争の手段として止むことはありません。リベリアでも、コンゴ民主共和国でも、ダルフールでも、紛争が終わっても、性暴力は続き、女性にとって、戦争状態はまだ続いていると言えます。

また、人口の半分を占める女性たちが様々な生産活動を行う時の身の安全と自由が確保できなければ、国家の持続的な開発、発展は望めません。それは平和が定着しないことも意味します。PKOにおいて性暴力からの女性の保護に特化した議論が具体化したのはこの数年です。それまで国際的な平和と安全保障において、このような視点は不十分でした。現在はPKOが展開する当該国の現実に対応する中で、性暴力から女性たちの安全を保障すること抜きではどのような平和構築への努力も砂上の楼閣との認識が深まってきたのです。

性暴力からの文民の保護を再確認する

「東コンゴでは、兵士でいるよりも女性でいることのほうが危険である」これは、元MONUC(国連コンゴ民主共和国ミッション)東部司令官であったカマート退役少尉の有名な発言です。コンゴはPKOが展開していてもなお紛争手段として女性への性暴力が続く地域です。2010年7月下旬から8月にかけて、PKOが駐留する約30キロ先の村で、反政府勢力による集団レイプが行われ、女性300名以上が被害に遭いました。性暴力から文民を護ることが任務であるはずのPKOは何もしなかったと、国連人権高等弁務官事務所は公然と批判しました。このような悲劇は避けなければなりませんが、解決のためには、国際社会の支援とPKOに関わる全ての人の平和維持・構築の考え方を根本的に転換する必要があります。

2011年11月には国連PKO局による「文民の保護」の研修マニュアルが発表され、「紛争下における性暴力からの文民の保護」のための特別な教材が開発されました。国際平和と安全保障の前提として、女性たちの安全保障が確保されているかどうかは今やPKOの重要任務であり、将来は「回復」支援までを視野に入れた活動が期待されています。

(内閣府国際平和協力本部事務局 国際平和協力研究員 与那嶺 涼子)

今回で最終回です。連載のご愛読に感謝申し上げます。

図表1
図表1
©UN Photo/Marie Frechon
レイプ被害者のシェルターを訪れるMONUC(国連コンゴ民主共和国ミッション)のPKO女性要員(2009年コンゴ民主共和国)。現在はMONUSCO(国連コンゴ民主共和国安定化ミッション)

図表2
図表2
©UN Photo/Myriam Asmani
MONUSCOのエスコートをするグアテマラ軍 2011年8月

図表3

PKO要員による「性的搾取と虐待(Sexual Exploitatin and Abuse:SEA)」は紙面の関係上割愛したが、国連は「ゼロ・タラレンス」と銘打ち、厳しく取り締まるべく、研修や政策の強化を行っている。SEAの発生件数などは国連の内部監査部(OIOS)のサイトで見ることができる。