「共同参画」2012年 3月号

「共同参画」2012年 3月号

連載 その3 女性首長から

女性の視点からの防災
仙台市長 奥山 恵美子

未曾有の大災害となった東日本大震災から1年が過ぎようとしています。

仙台市の現在の状況としては、がれきの処理も一定の目処がたち、集団移転に関する説明会や話し合いなども始まりました。大きな課題となっていた個人の宅地被害への公的支援についても、国の第三次補正により制度化され、復旧・復興に向けてまた新たな局面を迎えようとしているところです。

この震災は、「防災の現場には女性の目線が必要である」ということを改めて確認する機会になりました。「女性の視点からの防災」というテーマは、今回の大震災で初めて浮かび上がったわけではありません。阪神大震災以降、大きく注目されるようになり、2008年最大震度6強を観測した岩手・宮城内陸地震の際には、仙台の女性グループが、被災地の女性たちにヒアリングを行い、女性の視点で防災を見直す動きが生まれました。

私が市長に就任したのは2009年の8月ですが、翌年6月の市の総合防災訓練で、女性の視点を生かした避難所運営の訓練を初めて本格的に実施しました。参加した女性たちからは、震災後、訓練のとおりにはいかない面が多かったものの、地域の方々と一緒に訓練を体験したおかげで、男女別のトイレの要望など女性からの意見を聞いてもらいやすい雰囲気が生まれた、DVに対する男性の理解も進んだといった評価をいただきました。普段から地域の防災活動に女性が参加する、防災に女性の視点を取り入れるなど、地域防災計画の中できちんと見直していく必要があると考えています。

非常用の備蓄物資についても、女性の視点でもっと点検しておけばよかったと思うことがたくさんあります。例えば、アレルギー対応の粉ミルクや離乳食、ポータブルトイレや高齢者・障害者のための介護用品のように、全員が必要というわけではありませんが、無いと困る物品について備えられておりませんでした。また、支援物資に女性用の下着はあっても、サイズの合うものを探すのに大変苦労しました。乳液やリップクリームなども男性には思いつかないものです。普段から必要なものをリストアップし、すべてを行政が備蓄する視点ではなく、地域の中で持ち寄ったり、調達したりという仕組みをつくっていくことが、自助・共助の観点からも必要なことであると考えているところです。

反省すべきことはたくさんありましたが、震災の次の日から市立の保育所全てで保育を実施できたことは、1日も早い復旧を進めるうえで、大変よかったと思っております。私立の保育所や児童館でも、早い時期からお子さんをお預かりすることができました。復旧を急ぐためには、乳幼児を抱えた方にも、発災直後から出勤してもらわなければなりません。保育所が開いているということは、子育て世帯にとってどれだけの安心を与えたでしょうか。今回は日中の保育だけでしたが、災害時の一定期間は24時間保育の実施も考えておかなければならないと思っているところです。

仙台では700名を超える方が亡くなり、未だ行方不明の方もおられますが、1日も早く復興を成し遂げるとともに、この経験を未来につなぎ、後世に継承していくことが、残された私たちの責務です。

こうした多くの教訓を皆様にお伝えし、共有していきたいと考えております。

仙台市長 奥山 恵美子
おくやま・えみこ/1951年6月23日生まれ。東北大学経済学部卒業。1975年に仙台市職員に採用、1993年から市民局生活文化部女性企画課長として男女共同参画を推進。2001年教育局生涯学習部参事(せんだいメディアテーク館長)を経て、2003年に市民局次長、2005年に仙台市教育委員会教育長、2007年に仙台市副市長(~2009年3月)。2009年8月から現職。現在、男女共同参画会議監視専門調査会委員も務める。