「共同参画」2012年 3月号

「共同参画」2012年 3月号

特集2

男女共同参画会議 基本問題・影響調査専門調査会 報告書
内閣府男女共同参画局調査課・推進課

男女共同参画会議 基本問題・影響調査専門調査会は、平成23年3月に女性と経済ワーキング・グループ(WG)及びポジティブ・アクションワーキング・グループ(WG)を設置し、ほぼ1年にわたり議論を行ってきました。

今般、女性と経済WGの最終報告を第1部、ポジティブ・アクションWGの最終報告を第2部として、専門調査会としての最終報告の取りまとめを行いましたので、その概要をご紹介します。

第1部:女性が活躍できる経済社会の構築に向けて

女性と経済WGでは、昨年7月に中間報告(「共同参画」2011年9月号参照)を公表した後、新たなデータ分析やヒアリングによる事例収集を実施し、女性の活躍促進は「活力ある日本経済再生の重要な鍵」との認識の下、議論を深めてきました。

そして、女性を始めとする多様な人材が能力発揮できる社会へ移行するための課題をできる限り克服するとの観点から、女性が活躍できる経済社会の構築に向けて議論を行ってきました。

1.女性の活躍促進の意義と影響

女性の活躍促進について、(1)男女の結婚や子育てをしやすくし家族形成や、複線型キャリア形成の可能性を広め、個々人の希望の実現につながる、(2)女性を始めとする多様な人材の能力発揮により成長分野のけん引や既存分野・地域の活性化が可能になり、また社会保障制度の持続可能性が高まる、(3)世帯収入を増加させるなど人々が生活困難に陥るリスクを低減する、との意義が示されました。

また、女性の活躍が経済社会に与える影響として、女性の就業希望者(現在就業しておらず求職活動はしていないものの就業を希望する女性)342万人は、全労働力人口の5%にも相当し、単純な試算で約7兆円、GDP比にして約1.5%の付加価値が創出される可能性があること、また男女の働き方や生活の変化が新たな需要を生み出す可能性のあること等が指摘されました。

2.3つの重点課題と施策の方向性

【新たな分野や働き方における女性の活躍】

3つの重点課題の1点目は、働き方を巡る課題です。「雇用」「起業等」という働き方を軸にまとめています。

大きな問題意識は、高度経済成長期、工業化という中で構築された「男性片働き」を念頭においた「従来型労働モデル」を全体的に見直す必要性です。

第3次産業へのシフト、人口減少、高齢化等、中長期的な女性雇用者の増加、厳しい国際競争などの環境変化に対応するには、「一人ひとりが能力を発揮し、社会及び社会保障制度の支え合いの仕組みに参画する」(社会保障・税一体改革大綱)社会への移行が必要で、そのためには、人口の約半分を占める女性が活躍できる経済社会の構築こそが確かな道であると述べています。

このため第2部で検討した「ポジティブ・アクション」の更なる推進、そして女性に多い非正規雇用者の公正な処遇の確保を進めることとしています。

「起業等」は「M字カーブ」の窪みが見られない柔軟で多様な働き方を実現する可能性があること、また女性がこれまでに培った生活者の視点を生かし新たな商品・サービスの提供者となることや、雇用創出への期待(図表1)、さらに、被災地復興における女性の力の発揮が必要であるとの観点からも、一層の促進が必要としています。「開業資金の調達」「ノウハウ不足」など女性の起業にとっての課題の解消を目指し、使いやすい資金の提供やノウハウ面でのサポート支援を行う他、平成24年度以降の農林水産省の施策では、6次産業化のための事業の予算額の約1割程度を「女性起業家枠」とする取組が行われますが、こういった配慮を広げる検討を行うこととされました。

図表1 存続・新設別事業所の雇用創出(2006年~2009年)
図表1 存続・新設別事業所の雇用創出(2006年~2009年)

【制度・慣行の見直し、意識の改革】

重点課題の2点目は、前段で見直しの必要性が指摘された「従来型労働モデル」と共に築かれてきた制度・慣行の見直し、意識の改革の必要性です。

特に税制・社会保障制度については、これまで、社会の活動の選択に対する影響が指摘されてきた「配偶者控除」「年金の第3号被保険者制度」について、依然として「就業調整」が生じていること、また新たな分析によれば、これらの制度の適用率は年収の高い階級で高いことを示しています(図表2、図表3)。さらに、今回2010年調査と2007年調査を用い2時点の貧困率を算出し比較したところ、高齢者の貧困率は低下する一方、勤労世代と子どもの貧困率は上昇している状況が分かりました(図表4)。税制・社会保障制度の見直しに当たっては生き方・働き方の選択に対する中立性に加え、世代内・世代間の所得の再分配の在り方の検討という課題があることを指摘しています。

また、未就学児のいる夫婦世帯では、父親の年収の低い層で母親の就業率が高まっている傾向があります。「生活給」の側面があったと言われる男性常用雇用者の年功による賃金上昇が近年見られなくなり、企業による生活保障機能の低下が言われていますが、子育ての第一義的な責任は親にあることを前提にしつつも、子育てや子育て期の働き方を社会全体で支えるとの観点からも「子ども・子育て新システム」創設の必要性が改めて指摘されました。

また「従来型労働モデル」の下に見られる社会保険・賃金・労働時間等の二極化を解消すべく「仕事と生活の調和」を更に推進すること、私たちの中の「固定的性別役割分担意識を受け入れ、敢えて変化を望まない方がベター」との意識は、長期的に望む人生につながるとは限らないとの指摘がありました。

図表2 給与階級別の配偶者控除の適用割合
図表2 給与階級別の配偶者控除の適用割合

図表3 夫の稼働所得階級(年収)別妻の年金加入状況
図表3 夫の稼働所得階級(年収)別妻の年金加入状況

図表4 世代・世帯類型別貧困率(2010年調査、2007年調査)
図表4 世代・世帯類型別貧困率(2010年調査、2007年調査)

【多様な選択を可能にする教育・キャリア形成支援】

教育は、一人ひとりの多様な選択を可能にする活躍の土台をつくり、女性の生涯に影響を及ぼします。例えば中学卒の女性の貧困率が高いことが示されましたが、その背景には学歴による正社員比率の違いなどがあると考えられます。日本の女性の高等教育在学率は男性と比較しても、また先進諸国と比較しても低く、女性の進学の状況は世帯所得による影響を受けやすいとの指摘もあります。これら教育が女性の生涯に与える影響などに関する情報提供を行いつつ、経済状況に関わりなく進学や修学継続を可能とする奨学金等の充実が必要です。また仕事に対する意欲とロールモデルやメンターの存在や職場の状況等には関連が見られることから、キャリア形成支援が重要であり、これらの取組を推進することとしています。

今後これらの施策を着実に推進するともに、ここに示された考え方については、社会保障・税一体改革、子ども・子育て新システム、日本再生戦略など、政府の重要政策の中にしっかり反映していきたいと考えています。

第2部:政治分野、行政分野、雇用分野及び科学技術・学術分野におけるポジティブ・アクションの推進方策

1.ポジティブ・アクションの必要性

我が国における女性の参画は徐々に増加しているものの、他の先進諸国と比べて低い水準であり、その格差は拡大しています(図表5)。これは、我が国では、固定的性別役割分担意識や女性の能力に関する偏見が根強く、男女の置かれた社会的状況において個人の能力・努力に寄らない格差があることに起因すると考えられます。

女性の参画が進んでいないという現状について、危機感を社会全体で共有しつつ、暫定的に必要な範囲において、女性に積極的な機会を提供するポジティブ・アクションを進めていくことが必要です。

図表5 我が国及び諸外国における女性の参画状況

【政治分野】
【政治分野】

【雇用分野】
【雇用分野】

【科学技術・学術分野】
【科学技術・学術分野】

2.ポジティブ・アクションの考え方

ポジティブ・アクションを一義的に定義することは困難ですが、一般的には、社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等の実現を目的として講じる暫定的な措置のことをいいます。

ポジティブ・アクションには、多種多様な手法があります。例えば、(1)一定の人数や割合を割り当てることによって実現するクオータ制等、指導的地位に就く女性等の数値に関する枠などを設定することによって、その実現を確保する方式、(2)指導的地位に就く女性等の数値に関して、達成すべき目標と達成までの期間の目安を示し、その実現に向けて努力するゴール・アンド・タイムテーブル方式、(3)研修の機会の充実、仕事と生活の調和など基盤整備を推進する方式、などがあります。

こうした各機関・団体の取組を推進するための国の方策についても、取組の義務付けや、政策的に誘導するインセンティブ付与、自主的な取組の要請など、働きかけの程度に応じて様々なレベルがあります。こうしたバリエーションの中から、各団体の特性に応じて最も効果的な方法を選択することが重要です。

また、企業、大学などにおける採用・登用はいわゆる「能力主義」の下で行われるのが一般的ですが、能力の評価基準が必ずしも客観的とは限らないことや、評価基準が男女で同様に適用されない場合などもあり、採用・登用の際には、女性に対する機会の平等を実質的に担保するポジティブ・アクションの検討も有効です。

さらに、ポジティブ・アクションは、女性本人だけでなく、社会全体にとってもメリットがあり、女性にとっても男性にとっても生きやすい社会である男女共同参画社会を実現する最も効果的な施策の一つであることのアピールが必要です。

3.各分野におけるポジティブ・アクションの推進方策

次の四分野についての検討を行い、以下のとおり具体的な推進方策を盛り込んでいます。

(1)政治分野

○女性の政治参画に関する社会的気運の醸成及び政党への働きかけ

・我が国と世界の状況を平成23年版白書の特集等を活用し、広く周知

・政党に対し女性候補者の増加とポジティブ・アクションの導入の検討を更に働きかけ

○ポジティブ・アクションの検討に資する具体的事例の提示

・政党関係者の間で具体的な議論が喚起されるよう、87か国で導入されているクオータ制の取組等の中から、我が国の参考になりうる事例等を分かりやすく提示

○選挙制度と女性の政治参画

・小・中・大選挙区制、比例代表制、更には定員・区割りといった選挙制度は女性議員の選出されやすさに大きく影響。選挙制度等の在り方の検討の際には女性の政治参画を重要な論点として考慮することが必要。

(2)行政分野

○女性国家公務員の採用・登用の促進

・各府省における「女性職員の採用・登用拡大計画」の着実な実施

・第3次男女共同参画基本計画の成果目標の確実な達成

○国のあらゆる施策における男女共同参画の視点の反映

・私的懇談会等における女性の参画の拡大

○国家公務員制度改革の推進

・採用から幹部登用までの各段階に応じた人事制度改革において、女性登用の促進のための官民人材交流、職員公募の一層の推進

(3)雇用分野

○具体的な目標の設定の促進等

・ゴール・アンド・タイムテーブル方式等を取り入れた企業の具体例・成功例の公表、情報共有

・ポジティブ・アクションに取り組む企業を表彰等により積極的に評価

○公共契約を通じた推進方策

・内閣府から地方公共団体に対し、(1)競争参加資格設定において社会性等を評価する審査項目を設定する場合、(2)調査、広報、研究開発事業等において総合評価落札方式を適用する場合で男女共同参画等に関連する事業を実施する際は、男女共同参画等に関する項目設定の検討を依頼

・内閣府において、地方公共団体における上記取組状況や事例を調査し、その成果を広く情報発信

・現在、国において総合評価落札方式が適用されている、調査、広報、研究開発事業のうち、男女共同参画等に関連する事業を実施する際は、内閣府から各府省に対し、男女共同参画等に関する評価項目の設定を依頼するとともに、その取組状況を調査

○補助金等における推進方策の積極的な活用

・先進的な事例としての男女共同参画を要件とするクロスコンプライアンスの積極的な活用の検討・推進

(4)科学技術・学術分野

○具体的な目標の設定の促進

・ゴール・アンド・タイムテーブル方式やプラス・ファクター方式等に取り組む研究機関等の具体例・成功例の公表、情報共有

○女性研究者の参画の拡大に向けた環境づくり

・コーディネーターの配置、出産・子育て期間中の研究活動を支える研究・実験補助者等の雇用の支援など、環境整備の取組の支援

・研究費の申請等に際し、出産・育児を考慮した年齢制限の緩和や業績評価、任期等の弾力化などの研究を続けやすい環境整備の充実・促進

・日本学術会議に対して、科学者コミュニティにおける女性の参画を拡大する方策についての検討を要請

おわりに

女性の活躍促進、男女共同参画の促進は「全員参加型社会」に向けて大きな鍵となります。関係府省、様々な関係者及び国民各位の更なるご尽力をお願いします。

※詳しくは、内閣府ホームページでご覧ください。

 http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/kihon/kihon_eikyou/senmon.html