「共同参画」2012年 3月号

「共同参画」2012年 3月号

特集1

地域農業の活性化や6次産業化に女性の能力を活かすために
農林水産省経営局就農・女性課 女性・高齢者活動推進室

女性は農林水産業や地域の担い手として活躍しているだけでなく、「6次産業化」の取組においても大きく期待されています。

農林水産省では、このような女性たちの活躍を更に応援するため、24年度予算より女性向け施策を充実強化しました。

女性は、農林水産業や地域の活性化において重要な役割を果たし、6次産業化の担い手としても大きく期待されています。今後、農林水産業の再生に向けて、消費者マインド、アイディア、行動力に優れる女性の能力の発揮を一層促進する必要があります。このため、「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」(平成23年10月25日、食と農林漁業の再生推進本部決定)において、「農林水産施策における女性優先枠の設定、計画づくりに際して女性の参画を求めるなどの措置を講ずる」とされたところです。
農林水産省としては、平成24年度から実施する各般の施策において、女性優先採択枠の設置等の女性の能力を積極的に活用するための措置を以下のとおり講じることとしました。

1 企画・立案段階からの女性の参画促進

地域の方針を企画・立案する段階から、女性の参画を促進するため、市町村等の単位で地域農業の目指すべき方向や確保すべき経営体の姿を定める「人・農地プラン」の検討メンバーには、女性が概ね3割以上参画することを要件とすることとしました。

(戸別所得補償経営安定推進事業)

2 6次産業化などにチャレンジする女性への支援

6次産業化などでの女性の実践活動を促進するため、関連する補助事業の実施に当たって、女性農業者等が応募した場合に優先的に採択される枠(女性起業家枠)を設定したり、ポイントを加算することによって採択されやすくする等の配慮を行うこととしました。

女性起業家枠が設けられる事業としては、「経営体育成支援事業」、「6次産業総合推進事業」、「6次産業化推進整備事業」などがあり、それぞれの事業において予算額の約1割程度を女性起業家枠とすることとしています。

また、これ以外にも、女性農業者等が補助事業に応募した場合に、採択ポイントの加算や要件緩和等の配慮を行うこととしています。主なものを別表にとりまとめましたのでご参照ください。

3 地域で活躍する女性経営者の飛躍的な発展支援

地域で活躍する女性経営者の飛躍的な発展を支援するため、「女性経営者発展支援事業」を新規に実施します。この事業は、女性経営者の声の集約やそれぞれの経営の発展に資するよう、女性経営者相互のネットワークの形成や異業種・民間企業経営者との交流・情報交換の場となる地域段階でのワークショップの開催、全国レベルの情報交換による等の取組を支援することとしております。

これらの施策を通じて、農山漁村の女性の活躍を強力に支援してまいりたいと考えております。

6次産業化などにチャレンジする女性を優先的に支援します
6次産業化などにチャレンジする女性を優先的に支援します

「農山漁村女性の日」について

農林水産省では、3月10日を「農山漁村女性の日」と定め、農山漁村女性の役割を正しく認識し、適正な評価を行うとともに女性の能力発揮を促進し、農山漁村における男女共同参画の啓発、気運の醸成に努めてきました。

昭和63年3月に第1回目の全国記念行事が開催されて以来、毎年、農山漁村の女性参画関係8団体の主催による記念行事(約千人規模)が東京で開催されています。

第25回目となる本年度は、大会キャッチフレーズを「男女(とも)に興そう未来のふるさと」と定め、記念講演とともに表彰式や優良事例発表などが行われました。

日時:平成24年3月8日(木)

  10:30~16:00

場所:きゅりあん(東京都品川区)

内容:表彰式

  活動報告

  講演:「<生きる>と<食べる>はくっついている」

  講師:枝元なほみ氏(料理研究家)

「農山漁村女性の日」設立の経緯
この日は、「国際婦人の10年」ナイロビ世界会議(昭和60年)で採択された「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」を受け、我が国において決定された、「西暦2000年に向けての新国内行動計画」(昭和62年策定)の具体的施策の一つとして、位置付けられたものです。 3月10日に設定することについては、まず第1に国際的な視点として「国際婦人の10年」の基本となる世界行動計画草案が検討された時期であること、第2に農家・農村の生活リズムの視点から、農作業が比較的少なく社会生活においても女性が学習や話し合いを共にする条件が整っていること、第3に女性自身の視点として農山漁村女性の3つの能力(知恵、技、経験)をトータル(10(とお))に発揮してほしいという願いも込められています。

農山漁村でいきいきと活躍する女性達

農山漁村においては、数多くの女性達が、いきいきと活動を展開されており、これらの方々の素晴らしい活躍を広く知っていただくため、様々な表彰が行われています。3月8日に開催された記念行事においても、表彰式が行われました。これらの受賞者の中から、特に優れた活動を行っている女性達の活動を以下にご紹介します。

1 「平成23年度農山漁村男女共同参画優良活動表彰」農林水産大臣賞受賞者の紹介

この表彰は、農林水産業分野において、次世代を担う地域リーダーとなることが見込まれている女性や、女性の参画を積極的に推進している組織等を表彰することによって、農山漁村における男女共同参画の取組の推進に資することを目的に行っています。

(1)次世代を担う地域リーダー部門

「美味しい卵で豊かな食卓を」の気持ちをこめ、卵屋の直売店・食堂を切り盛りする熊野さん
「美味しい卵で豊かな食卓を」の気持ちをこめ、卵屋の直売店・食堂を切り盛りする熊野さん

(1) 熊野 智子氏 (愛媛県四国中央市)

熊野さんは、「熊野養鶏」の後継者である夫との結婚を機に就業しました。当初は、自動販売機による直売の管理を担当していましたが、栄養士の資格を活かし、加工品の試作・研究に取り組み、塩味卵、燻製卵の商品化に成功しました。平成19年には、卵販売店舗を併設した農家食堂“卵かけご飯の店「熊福」”をオープンし、店長として経営を担っています。畜産農家女性のネットワーク「めぐり愛*媛ネットワーク」などの役員も務め、リーダーシップを発揮しています。

経営者、農業委員として活躍中の矢走さん
経営者、農業委員として活躍中の矢走さん

(2) 矢走 恵美子氏 (宮城県大崎市)

矢走さんは、平成9年に就農後、30代で認定農業者となり、平成21年には実父から農業経営の移譲を受け、経営主となりました。その経営規模は県内有数で、作業日誌の記帳と経理管理により安定した農業所得を確保しています。平成20年には、30代の若さで農業委員に立候補し、現在2期目となっています。農業委員として、遊休地解消に向けて取り組むとともに、JA女性部の仲間と地元小中学校における食育活動にも取り組んでいます。

(2)組織における女性登用部門

百貨店において農業・加工品のPRをする吉岡さん(右側)
百貨店において農業・加工品のPRをする吉岡さん(右側)

(1) 吉岡 敏子氏 (兵庫県加古川市)

吉岡さんは、稲美町町議会議員を16年(うち議長歴2回)、農業委員1期、兵庫県JA女性会会長、東はりま生活研究連絡協議会会長を務め、特に、町議会議長に就任した際には、農業委員への女性登用を強く訴え、平成22年度から稲美町で3名の女性農業委員が誕生しました。また、平成21年にJA兵庫南で発足した「経営改革総合審議会」の女性委員として活躍され、女性登用を強く訴えられた結果、平成24年度から女性理事を2名以上にすることが定款で定められ、女性登用への一歩が踏み出されました。

横手市農業委員会に設けられた食農教育推進委員会での協議風景
横手市農業委員会に設けられた食農教育推進委員会での協議風景

(2) 秋田県横手市農業委員会 (秋田県横手市)

市町村合併前の横手市においては、13名(平成14年)もの女性農業委員が選任されていましたが、合併後はわずか2名となりました。

このため、女性農業委員拡大に向けて、市や市議会に強く要請した結果、議会推薦の選任委員4名はすべて女性農業委員となりました。選挙委員1名をあわせ合計5名の女性農業委員が選任された結果、女性の割合が4.2%(平成20年度)から10.4%(平成22年度)に倍増しました。

2 「平成23年度農山漁村女性・シニア活動表彰」農林水産大臣賞受賞者の紹介

この表彰は、農林水産業及び農山漁村の生活、農山漁村の活性化に優れた活動の実績をもち、男女共同参画の推進又はいきいきとした高齢者の活動の推進のために積極的に活動している経験豊富な女性・高齢者の個人又は団体を表彰することにより、女性や高齢者といった地域の多様な人材が農山漁村でいきいきと活躍できる環境づくりの推進に資することを目的に行っています。

(1)女性地域社会参画部門

小学校で食育活動をする久保さん
小学校で食育活動をする久保さん

(1) 久保 八百子氏 (群馬県嬬恋村)

久保氏の女性農業者リーダーとしての活躍の始まりは、平成9年の村主催の講習受講がきっかけだそうです。その後、平成11年には村議会の推薦により村で初の女性農業委員に選任され、4期目には公選によって選出されるなど、地域で認められる存在となっています。

家族経営協定の推進や女性農業委員への女性登用等に取り組んでおり、群馬県農村生活アドバイザー協議会会長、ぐんま農村女性会議会長なども歴任し、男女共同参画社会の構築に大きく貢献しています。

仲良しの浦さん御夫妻、牛舎にて
仲良しの浦さん御夫妻、牛舎にて

(2) 浦 久美子氏 (石川県白山市)

浦氏は、JAの女性部長に就任後、農産物直売所の設置等に取り組み、現在は、地域の「ふれあい市」の推進委員として出品の勧誘や宣伝に奔走し、地域の活性化に大きく貢献しています。また、県JA女性部組織協議会会長を始め、多くの組織や団体の長を歴任し、「女性が自ら発言し行動する」ことを提案、組織活動を通じて女性の経営・社会参画に向けた啓発にも取り組み、女性参画の牽引役となっています。他の女性団体と連携した取組の結果、平成20年には市初の女性農業委員が2名誕生しました。

(2)女性起業・経営参画部門

自慢の浅漬け、丁寧にまごころこめて作ります
自慢の浅漬け、丁寧にまごころこめて作ります

(1) 明神農産加工組合 (栃木県日光市)

同組合は、昭和61年に県内起業第1号として設立され、24年を経過してもなお、女性起業の先駆者として評価されています。共同仕入れや配送、多忙時の労働力の融通など、協力体制を構築しつつ、製造・販売は個別に行って独立採算制をとる「のれん分け」方式で運営することで、組合員の高い意欲を保っています。地産地消をモットーにした地元のJA直売所での販売のほか、食育活動、伝統料理の伝承、商店街活性化に向けての地域間交流など、地域活性化に貢献しています。

下島さん御夫妻
下島さん御夫妻

(2) 下島 和子氏 (愛媛県碧南市)

下島さんは、昭和53年から養豚経営に取り組み、豚肉の直接販売で生産者と消費者の顔の見える関係を構築してきました。平成元年には、法人化し豚肉加工部門を立ち上げ、単身ドイツに渡って本場のハム・ソーセージ加工技術を学び、最高のモノづくりに取り組んできました。さらに平成19年に農家レストランを立ち上げ、味のみならず接客・社員教育にも力を注ぎ、手づくりソーセージの体験講座の講師として延べ5,000名余りの受講生を指導してきました。ソーセージは、小中学校の給食にも使われており、地元食材活用の推進にも貢献しています。

(3)シニア起業・地域活性化部門

邑橋氏と女性グループの仲間たち
邑橋氏と女性グループの仲間たち

(1) 邑橋(むらはし) 裕惠氏 (兵庫県新温泉町)

邑橋氏は、昭和61年に仲間と「すずしろグループ」を設立して以来、3つの女性グループを設立する等により延べ60人の仲間と共に安全安心な食の実践に継続的に取り組んできました。また、グループ活動における後継者育成、郷土食の普及啓発と学校などにおける食育活動の推進なども行ってきました。さらに、地域の温泉旅館の女将グループとの連携のもとに、地域農産物の活用や農作業体験などの農村資源を活用した地域おこし、地域農産物を活用した特産物の開発にも取り組んでいます。

作業を終えた直後のかも寿会のみなさん
作業を終えた直後のかも寿会のみなさん

(2) かも寿会 (岡山県津山市)

かも寿会は、平均年齢が72歳のベテランぞろいのグループです。減農薬・減化学肥料、架干(かけぼ)しを行うことで、高品質、安全に配慮したもち米を栽培し、菓子会社への契約販売により高単価を実現しました。稲作情報を年4回発信するとともに、田植えや収穫作業を契約先の菓子会社の社員に手伝ってもらうなどの交流も行い、菓子会社の信頼も高く、契約は14年間にも及んでいます。この活動には地元営農組合も協力しており、定年退職者が新たに会員になるなど高齢者活動のモデルにもなっています。

まとめ

農山漁村においても女性が中心となった様々な優れた活動が展開されています。このような女性の視点を活かした活動は、農山漁村の活性化の牽引役として大いに期待されており、その期待に応えるためにも、農山漁村それぞれの地域での地に足のついた取組展開により女性の参画促進を図って行く必要があります。