「共同参画」2012年 1月号

「共同参画」2012年 1月号

特集

国立大学における男女共同参画の取組
文部科学省生涯学習政策局男女共同参画学習課

今回の特集では、平成22年度国立大学法人評価で報告された取組のうち、女性教員の採用・登用、女性研究者への支援、他大学との連携の視点から、3大学の取組を紹介します。

男女共同参画社会を実現するためには、男女が共に自立して個性と能力を発揮し、社会形成に参画する必要があり、その基礎として、学校、家庭、地域、職場など社会のあらゆる分野における教育・学習の果たす役割は極めて重要です。

内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」(平成21年10月)によると、それぞれの分野で男女の地位は平等になっていると思うか聞いたところ、「平等」と答えた者の割合は「学校教育の場」では68.1%となっており、他の分野に比べもっとも高い割合となっています。

一方、政治、経済、社会など多くの分野における政策・方針決定過程への女性の参画は未だ低調であり、男女共同参画社会基本法の制定から10年余りを経過した現在もなお大きな課題となっています。

大学における女性教員の割合も、年々増加傾向にあるものの、依然低い水準となっており、平成23年度学校基本調査によると、国立大学では11.1%(4,970人)、公立大学では23.8%(2,336人)、私立大学では20.9%(16,230人)、となっています。(図1)

  (図1)「大学における女性教員の割合」(本務者・講師以上)
(図1)「大学における女性教員の割合」(本務者・講師以上)
(学校基本調査より)

各大学の女性教員の採用については、各大学の権限に基づき、自主的・自律的な人事の一環として行われるものでありますが、政府が定める「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待する。」という目標を踏まえ、平成22年12月に策定された第3次男女共同参画基本計画(以下「第3次計画」という。)において、「大学の教授等に占める女性の割合」を平成32年までに30%とする成果目標が掲げられたところです。

また、今後、我が国が科学技術・学術分野において国際競争力を維持・強化し、多様な視点や発想を取り入れた研究活動を活性化するためには、科学技術・学術分野における女性の参画拡大を積極的に推進することが重要です。(図2)

(図2)「女性研究者数及び研究者に占める女性割合の推移」
(図2)「女性研究者数及び研究者に占める女性割合の推移」

(平成23年度 男女共同参画白書から引用)

このため、第3次計画においては、「女性研究者の採用目標値(自然科学系)」の成果目標が掲げられるとともに、女性研究者の登用及び活躍の促進を加速するため、女性研究者の出産・子育て等と研究との両立のための環境づくりや、女子学生・生徒の理工系分野の進路選択の支援などの具体的施策の推進を図ることとされています。

これらの状況を踏まえ、文部科学省においては、大学評価等を通じて、各大学の積極的な取組を促すとともに、女性研究者支援施策の推進などにより、大学における男女共同参画の取組の促進を図っています。

平成22年度の国立大学法人評価においても、校内における組織体制の整備や女性研究者の採用・登用の促進、研究活動支援(研究費支援・研究補助者等の配置)等の特色ある取組について、注目事項等として積極的に取り上げています。今回は、各大学の取組から、3校の事例を紹介します。

なお、静岡大学(P.3)・香川大学(P.5)の取組に記載されている「女性研究者支援モデル育成」とは、文部科学省による大学や公的研究機関を対象として、女性研究者が研究と出産・育児等を両立し、その能力を十分に発揮しつつ研究活動を行える仕組みの構築を支援する事業(平成18年~22年)のことです。(平成23年度からは、「女性研究者研究活動支援事業」として実施中。)

静岡大学における女性の採用と登用。そして更なる前進。
国立大学法人静岡大学
男女共同参画推進室

1 これまでの背景と経緯

静岡大学における法人化直後(平成16年5月)の女性教員割合は、8.5%と低いものでした。また、平成19年に行った学内アンケートにおいても、女性を少ないと感じるという回答が6割近くありました。

そのような状況のなか、平成20年7月、女性研究者支援モデル育成に、本学の「女性研究者と家族が輝くオンデマンド支援」が採択され、23年3月まで同事業により、「全学的な男女共同参画推進体制の整備」、「意識改革」、「研究環境の改善」、「女性研究者の裾野の拡大」を軸に多くの課題に取組み、女性研究者が教育・研究を継続できる環境作りと女性研究者(教員)を増やす活動を続けてきました。

2 平成22年度の取組み状況

女性教員採用比率を平成22年度末までに18%、女性教員比率を平成24年度末までに15%(将来的に25%)まで引上げることを、数値目標として掲げました。積極的な取組みの結果、採用比率は目標を上回り、教員比率は順調に目標に近づいています。

これらの成果をあげるためには、体制整備と推進策が必要です。体制整備のために、男女共同参画担当副学長に女性教授を登用し、その下で全学推進委員会と推進室が活動しています。また、学長補佐に女性教授を登用し、経営協議会の外部委員にも女性委員を委嘱して、大学運営に女性が参画する体制をとっています。

共同参画を進める上で最初の取組みは、「男女共同参画憲章」を定め、「行動計画」を策定し、年度毎に重点項目を定め、実行することでした。さらに大学の中期目標に「男女共同参画の推進」を掲げ、中期計画に「女性の採用と登用」と「ワーク・ライフ・バランスの推進」の2項目を立てて、大学全体の取組としました。

次に女性研究者(教員)の採用比率、在職比率に係る目標達成のため、本学独自の「採用加速システム」を構築しました。これは、女性研究者を採用する際、優先採用する部局に一定のインセンティブ(学長裁量経費により人件費の一部を部局に措置)を付与するもので、文字通り女性研究者の採用を加速する仕組みです。この制度が適用された女性教員の採用は、22年度は4名(23年度は6名)でした。

3 さらなる前進

上記のほか、22年度は相談体制の充実が図られ、相談窓口の設置だけでなく、積極的に出向いて行って相談を受ける体制を構築しました。

また、静岡キャンパスでは、多目的保育施設「たけのこ」を整備し、23年度から運用しています。一時保育の受入れとともに、空き時間には、ミーティング、子連れ研究会、授乳スペース等として使用されています。さらに、浜松キャンパスでは、23年3月(春休み)に学童保育を試行し、好評を得て、23年7・8月(夏休み)には、学童保育を本格実施しました。

育児・介護の休暇制度等では、育児休業、短時間勤務制度、育児・看護休暇及び介護休暇があり、いずれも法定基準を大幅に上回る制度として普及に務めています。

そのほか、セミナーやシンポジウムの開催、学際科目や広報活動を通じて教職員・学生の意識改革に取り組み、さらにジェンダー統計の発表、オープンキャンパス女子高生進学相談会、出前授業など、草の根の取組を多数行っています。22年8月には、次世代育成支援対策推進法に基づく認定マーク「くるみん」も取得しました。

4 最後に

静岡大学の男女共同参画推進については、他の大学・研究機関から問合せや視察も多く、地方中核大学の一つのモデルになると考えています。今後も積極的に男女共同参画を推進・発展させていきます。

「女性教員採用比率」と「女性教員比率」の推移
「女性教員採用比率」と「女性教員比率」の推移

「国立大学法人金沢大学 女性研究者キャリアアッププラン」
国立大学法人金沢大学
男女共同参画キャリアデザインラボラトリー

金沢大学では、平成20年度より男女共同参画キャリアデザインラボラトリー(CDラボ)を設置し、ラボラトリー長をはじめとして9名のラボラトリー教員を配置するとともに、プロジェクトオフィサー(PO)と事務補佐員を雇用し、女性研究者支援のための制度の構築とその効果の検証を行っています。主な取組としては、(1)人材サロンWILと人材バンクによるネットワークの構築、(2)取得容易な育児・介護休業制度金沢プランの構築、(3)既存の保育施設と連携した学童保育支援の構築、(4)学長裁量経費・研究パートナー制度を活用した研究支援、(5)優秀な若手女性研究者やスキルドスペシャリストの雇用などの多様なキャリアパスの創出、(6)講演会や研究会等による人材の育成と発信などです。ここでは、特に、効果の高い取り組み、特徴のある取り組みについてご紹介します。

1) 出産育児・介護で多忙な研究者に対する研究費助成およびパートナー支援

出産・育児で中断した研究を加速することを目的に、金沢大学重点戦略経費に女性枠を設け、毎年300万円程度の助成を行っています。応募数は4年間で30件、採択数は18件であり、本経費を獲得した女性研究者のうち57%が翌年の科研費を獲得するなど、研究の加速に役立っています。また、出産・育児及び介護にかかわる多忙な女性研究者に研究パートナーを派遣する制度を設け、現在まで延べ75名が利用しています。その成果として、制度を利用した研究者からは、研究・実験の時間の確保、教育活動の効率化・活性化、精神的負担が軽減できた、パートナーからは研究にやりがいを感じられたなどの点で特に高い評価が得られています。また、制度の利用により、論文数が増加し、研究費を獲得するなど、研究の活性化につなげることができました。昨年度からは、育児休業制度を利用した男性研究者にも門戸を広げ、男性の育児休業取得の促進を目指しています。

2) 多様なキャリアパスの創出

高度なスキルを持ち女性研究者を支援しながら自らも研究を行っていく職としてスキルドスペシャリスト(SS)を定義して、試行を行うとともに、研究費を獲得しているにもかかわらずポストのない女性研究者を短時間で雇用する若手女性研究者支援制度を設け、博士の学位を有する女性研究者の採用を行っています。さらに、CDラボのPOについても、博士、修士の学位を有した専門性のある女性を特任教員として採用するとともに、研究パートナーも、単なるパート職員ではなく、専門性を有し研究者を志向する女性を非常勤研究員として雇用し、自らのキャリアアップを図ることを目指しました。その結果、 SS、若手研究者支援制度利用者及びCDラボのPOのうちから3名が国立大学及び私立大学教員に採用されています。また、研究パートナーとして雇用した女性のうちから4名が研究職を得て新たな道に進んでいます。大学院博士課程に進学した例もありました。このように、支援する側も支援される側もキャリアアップにつながる仕組みを構築することができたことが、金沢大学の女性研究者支援の大きな特徴です。

3) 地域と連携した人材の育成と情報の発信

中高生の理系選択支援事業として、高校への出前実験や進学相談などを積極的に行うとともに、理工系の女性研究者及び女子学生から研究に関連する写真を公募し、大学祭及びオープンキャンパスにおいて「Beauty in Science」と題した写真展を開催しています。平成21年度からは、大学内だけでなく、金沢市や石川県の施設など各地で開催しています。これ以外にも地域と連携した様々な活動を行っています。

金沢大学の立地する金沢市は、保育待機児童ゼロという非常に恵まれた地域であり、子育て支援も非常に充実しています。女性研究者が育児をしながら働くには非常に適した土地柄です。この特徴を生かし、地域と連携した地方都市としての支援策を構築し、効果をあげてきました。しかし、若い女性研究者がパートナーとともに職を得やすい都市部に転出する例も多いことから、今後は、すべての女性にとってより魅力ある大学を目指すとともに、採用された女性研究者の育成にも一層力を注いでいきます。

香川大学 “地域ぐるみ女性研究者支援の高波を”の取組
国立大学法人香川大学
男女共同参画推進室

くるみんから「香大発、地域ぐるみ女性研究者支援の高波を」プランへ

香川大学は、6学部8大学院研究科で構成され、地域に根差した大学を目指しています。平成22年7月に次世代育成法の「くるみんマーク」を取得。男性にとっても、仕事や教育・研究と子育て等の両立が可能な制度づくりに力を入れてきました。

文部科学省の平成22年度女性研究者支援モデル育成の採択を受け、10月に男女共同参画推進室を立ち上げ、支援体制を整備し、女性研究者支援育成に取り組んでいます。

日本で一番小さな県である香川県は、職場と住居、保育園等の社会資源、そして研究のフィールドも隣接しているため、子育て中の若い研究者にとって住みやすく、多くの女性研究者が研究の場を求め、香川にやってきます。

しかし、実際、親戚も知りあいもない地域での子育ては、保育園探し・病気や仕事が遅くなる時の二重保育の確保等で、苦労が絶えません。

男女共同参画推進室では、HPで社会資源や利用できる制度を情報提供しています。また、セイフティネットとして、学内において、サポーターを利用した託児の提供や病気の時の子育てタクシーを利用した病児保育施設への移送サービス、ベビーシッター割引券の発行、休日託児事業等を試行的に行っています。

四国女性研究者の実態調査を通して見えてきた現状と課題

平成22年、香川大学は四国の女性研究者の実態調査を実施しました。四国内国立5大学の女性研究者は498名で、そのうち自然科学系の研究者の割合は67.8%と高く、女性比率は全体で15.6%、自然科学系で15.0%となっています。そして、自然科学系女性研究者が抱える女子学生の数は、全体では研究者1人に対し学生は19人ですが、理学・工学系では55人、農学部に至っては98人も抱えていることがわかりました。また、職階の状況を見ると、特に自然科学系では調査した女性研究者の6割が助教であり、上位職である教授の割合は1割にすぎません。

自然科学系の若い研究者が多い四国の女性研究者の問題を整理すると、ロールモデル等の研究者の育成の問題と、採用や登用に関するジェンダーバランスへの配慮、結婚や出産子育て等ライフイベントに応じた両立支援の充実が浮き彫りになりました。

「四国内国立5大学による男女共同参画推進共同宣言」への広がり

四国こそ、女性が活躍できる地域であることを広く伝え、大学として女性研究者による優れた教育研究活動の支援に努めていくために、平成23年2月22日「四国内国立5大学男女共同参画宣言」を宣言しました。これは、女性研究者支援モデル育成に採択された徳島大学、愛媛大学との豊かな連携と、鳴門教育大学、高知大学との女性研究者支援を通じた広がりの中で生まれました。多くの優秀な女性研究者に四国の地に来てもらい、力をつけ、すばらしい教育・研究の成果を上げ、全国発信してほしいという願いが込められています。

四国女性研究者フォーラムの展開

平成23年2月23日「第1回四国女性研究者フォーラム~女性研究者は未来の宝箱~」が香川大学主催、四国内国立大学共催で開催されました。四国だけでなく、近隣地域の大学・高等教育機関も参加し、ランチ交流会やパネルディスカッション、ポスターセッションを通して、女性研究者や支援者である教職員が顔の見える連携を深めました。

基調講演では、都河明子先生に「女性科学者として生きる」をテーマに、女性研究者への社会的要請、支援の取組事例と課題についてご講演いただきました。フォーラムを通して、大学の活性化に向けてなぜ四国で女性研究者の支援が必要なのか、女性研究者に期待すること等が活発に討議され、それに向けた次世代の育成や両立支援の重要性が語られました。

本年度11月11日「中国・四国地区国立大学 男女共同参画推進のための共同宣言」が「第3回中国四国男女共同参画シンポジウム」にあわせ宣言され、平成24年1月27日には愛媛大学で「第2回四国女性研究者フォーラム」が継続開催されます。そして、来年は香川大学で「第4回中国四国男女共同参画シンポジウム」を開催予定です。大学を超え地域を超えた、緩やかでしなやかな女性研究者支援の連携の輪が広がっています。

第1回四国女性研究者フォーラム開催
第1回四国女性研究者フォーラム開催