「共同参画」2011年 11月号

「共同参画」2011年 11月号

特集

市町村の配偶者暴力相談支援センター設置促進に向けて
内閣府男女共同参画局推進課

平成23年に、埼玉県草加市、神奈川県横浜市、大阪府吹田市、兵庫県宝塚市、長崎県長崎市が、配偶者暴力相談支援センターを設立しました。それぞれの市が、同センターを設立するまでの経緯や現在の状況をご紹介します。

1 市町村の努力義務

市町村に対しては、平成19年の配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下「法」という。)の改正により、「市町村が設置する適切な施設において、各施設が配偶者暴力相談支援センター(以下「支援センター」という。)としての機能を果たすよう努める」旨の努力義務が規定されました(法第3条第2項)。これは、改正前の法において、市町村の適切な施設において支援センターの機能を果たすことができることとされていたところ、被害者にとってより身近な行政主体における被害者保護の取組を更に進めるため、努力義務へと強化されたものです。

2 市町村における支援センターの設置状況等

改正法施行から約3年10か月が経過し、市町村では、34市区35か所が支援センターとしての機能を設けるまでになっており(平成23年10月3日現在)、その数は年々増加しています【図参照】。施設の種類別内訳は、市町村女性センター(男女共同参画センター)が28.6%、市町村福祉事務所・保健所が14.3%、その他(配偶者暴力担当部署など)が60.0%となっています。

図 市町村における配偶者暴力相談支援センターの設置状況
及び第3次男女共同参画基本計画における平成27年までの目標数

図 市町村における配偶者暴力相談支援センターの設置状況及び第3次男女共同参画基本計画における平成27年までの目標数

3 市町村における支援センターの設置促進に向けた取組

法制定以来支援センターは、主に一時保護を行う婦人相談所をはじめ都道府県の施設を中心に設置が進められてきましたが、今後は、都道府県が支援等の中核的な役割を果たしつつ、市町村が身近な行政主体としての中心的役割を果たすといったように、適切な役割分担の下、相互に連携しながら取組を進めていく必要があります。こうした考えに基づき、第3次男女共同参画基本計画(平成22年12月閣議決定)には、市町村における支援センターの数を平成27年までに100か所にするとの目標を掲げ、内閣府においてその設置促進に向けた取組を進めています。

内閣府が平成22年度に行った調査によると、市町村における支援センターの未設置の理由として多かったのは「専門の職員の配置が困難」72.7%、「運営費の確保が困難」62.2%、また、支援センター設置に必要なものとして多かったのは「専門性を有する相談員の育成」81.1%、「運営費の補助」72.9%、「都道府県と市町村の役割分担、連携のあり方の明確化」63.6%などでした。

こうした点に対しては、内閣府や都道府県における各種研修を通じた専門性を有する相談員の育成、総務省による特別交付税や「住民生活に光をそそぐ交付金」による財政的支援、厚生労働省による婦人相談員の人件費の2分の1補助、といった取組を行っているところですが、更に、都道府県と市町村の役割分担や連携の在り方の明確化等についても検討を進めているところです。

本特集では、すでに支援センターを設置した市町村の取組を紹介しています。地域の事情に応じて、「新たなハコモノは設けず、既存の施設を活用」「日時を設定して相談員を配置」といった工夫により、支援センターを設置できることを改めてご理解いただき、地域の実情に応じた支援センターを設置する市町村が各地に拡がることを期待しています。

配偶者暴力支援センターの6つの機能

草加市における配偶者暴力相談支援センターの取組について
草加市人権共生課

1 草加市配偶者暴力相談支援センター(以下、草加市支援センター)が出来るまでの経緯

草加市では、平成23年7月1日に草加市支援センターを設置しました。設置した背景と、その機能の必要性を感じた理由は3つあります。

1つ目は相談件数が増加していることです。草加市人権共生課で受けた配偶者暴力相談件数が、平成18年度の42件から平成22年度には150件と、5年間で約3倍になっています。

2つ目は、相談内容が多様化、複雑化していることです。緊急性が高いことが多く、暴力団が絡んでいたり、加害者のもとに何度も戻ってしまったりなど、事案が多様化・深刻化しています。

3つ目として、市の現状の相談対応に限界を感じたことです。相談件数の増加や内容の複雑化で市職員だけでは対応が難しくなり、より専門的な相談体制の整備が必要となっていました。

このような現状を踏まえ、平成23年3月に策定した「草加市男女共同参画プラン2011」の中に「配偶者等からの暴力防止及び被害者支援基本計画」を位置づけ、その計画の主要な取組のひとつとして草加市支援センターの設置を掲げました。

埼玉県では吉川市が平成21年6月に最初に支援センターを設置し、本年3月から7月にかけて草加市を含め4市が新たに支援センターを設置しています。

2 支援体制について

草加市支援センターは、市人権共生課にセンターの看板を掲げ、月曜日から金曜日の午前8時30分から午後5時まで開設しています。相談時間は、月、水、金曜日の午前10時から午後4時の間は専門の女性相談員が対応し、その日時以外の開設時間帯は、課職員が相談の対応にあたっています。

3 庁内・庁外の関係機関との連携による相談体制の強化

庁内については草加市支援センターを軸として「配偶者暴力対策庁内連携会議」を設置し、関係各課と情報共有を深め、被害者の安全確保及び自立支援に関して迅速な対応ができるよう連携を図っています。庁外については各種研修等をとおして、埼玉県婦人相談センターや他市町村と連携を図るとともに、埼玉県東南部の5市1町で構成する「東南部地域DV対策連絡協議会」で、警察や保健所、児童相談所や法務局等とも情報交換を行い、幅広いネットワークを構築しています。

また、職員のスキル向上のために、埼玉県のスーパービジョン研修を活用するなど担当職員研修を充実させ、相談者に対し、よりきめ細やかで継続的な支援ができるように相談機能を整えています。

4 草加市支援センターのこれからについて

草加市支援センターは7月に開設したばかりです。DV相談支援センターを設置した利点としては、DV相談に関する証明書を発行できるようになったことです。これにより相談者の利便性が向上し、被害者の希望に沿った支援を進めやすくなりました。これからの課題は、相談件数の更なる増加や加害者の追及の矛先が職員に向かうことなどが想定されるので、職員体制の更なる整備や、被害者だけでなく相談員も含めた職員の安全の確保、つまり危機管理体制を整備することです。

草加市では、引き続き、被害者が相談しやすい窓口として継続的な支援ができるように、機能の充実を図っていきます。

草加市人権共生課で受けたDV相談件数
草加市人権共生課で受けたDV相談件数

横浜市におけるDV相談支援センターの取組について
~相談、安全確保から自立までの切れ目のない支援を目指して~
横浜市こども青少年局こども家庭課 市民局男女共同参画推進課

1.これまでの経緯

横浜市では、平成20年度に「配偶者等からの暴力(DV)に関するアンケート調査及び被害者実態調査(面接調査)(以下「DVに関するアンケート調査」)」や関係団体に対するヒヤリング等を行い、現状の分析や課題の抽出を行ってきました。また、平成21年度に「横浜市DV施策検討会議」を、平成22年度には「横浜市DV施策推進会議」を設置し、外部の有識者も含めて、市町村基本計画策定をはじめとする施策の体系、方向性について検討してきました。

それらの検討の中で、平成23年1月に「横浜市DV施策に関する基本方針及び行動計画」を策定するとともに、市民に最も身近な行政機関である市において、支援センター業務を行うことで、配偶者暴力等に関する相談に幅広く対応することができると考え、横浜市DV相談支援センターを設置することとしました。

2.横浜市DV相談支援センターの開設

神奈川県内の市町村としては初となる「横浜市DV相談支援センター」を平成23年9月1日に開設しました。支援センターは、市内に18か所ある区福祉保健センター(福祉事務所・保健所支所)と、市内に3館ある男女共同参画センターという既存の組織における相談事業等を活用し、それらを統括・調整する部署をこども青少年局に設け、3者を支援センターと位置付けています。

3者が一体的に同センターとしての機能を果たすことにより、福祉部門と男女共同参画部門のさらなる連携を進め、被害者に対する支援機能を強化し、相談、安全確保から自立までの切れ目のない支援を行っていきます。

3.支援センターの業務内容

配偶者暴力相談専用の電話回線を新たに2回線設けて相談を受け付けるとともに、必要に応じて面接相談を実施しており、問題解決に役立つ情報提供や福祉制度利用の調整、緊急時の安全確保の相談に応じています。専用電話回線による相談を開始して1か月で、合計で約130件の相談が寄せられました。

また、被害を受けた方が、健康保険や国民年金に関連した手続きをする際に必要となる、来所相談証明書の発行や、保護命令の申し立てに係る事前相談、地方裁判所への書面提出業務等を行います。

支援センターとしてこれらの業務を直接行うことで、より迅速に市民の方々にサービス提供を行うことができます。

4.課題と今後の取組

「DVに関するアンケート調査」によると、配偶者やパートナーから暴力にあたる行為を受けたことがある人のうち、75.5%の人が「相談しなかった」と答えています。配偶者からの暴力に対する正しい理解を進めるとともに、市民にとって身近な相談窓口の周知がより一層必要です。

また、被害を受けた方の支援にあたっては、横浜市における福祉部門と男女共同参画部門との連携や、県、県警、シェルター等民間団体等をはじめとする関係機関とのさらなる連携はもちろんのこと、危機管理も含めて情報共有のあり方を検討していくことが大変重要です。

このような課題認識のもと、支援センターがその役割の中心となって、配偶者等からの暴力に対する施策を推進していきます。


(ホームページアドレス)
http://www.city.yokohama.lg.jp/shimin/danjo/dvcenter/

吹田市におけるDV防止対策事業について
すいたストップDVステーション(DV相談室)

1 背景と経過

大阪府吹田市では平成14年に「吹田市男女共同参画推進条例」を制定し、具体的な行動計画である「第2次すいた男女共同参画プラン」(平成20~24年度)のもと、被害者支援や予防啓発等、女性に対するあらゆる暴力の根絶に取り組んできました。

吹田市において配偶者暴力相談支援センター機能を含むDV防止対策事業を実施するに至った経過としは、平成21年度に実施しました「男女共同参画に関する市民意識調査」で、(1)DV被害を受けたことのある女性の割合は12.4パーセントと、10人に1人以上が被害を受けていること、(2)被害を受けた時に「公的機関に相談した」のは6.9パーセントであるのに比べ、DV被害を減らすために必要なこととして「相談できるところを増やす」と回答している割合は62.4パーセントであったこと、(3)男女共同参画センターで実施しているDV相談の予約がなかなか取れない状況が恒常化していること等、潜在するニーズに対応するために新たな対策を構築する必要がありました。

平成23年4月1日、大阪府内の市町村では初めての支援センターを開設し、総合的な配偶者暴力防止対策の取り組みを開始しました。

2 事業の概要

「すいたストップDVステーション(DV相談室)」は、大きく4つのステージに分けて事業を実施しています(下図参照)。これらの業務のうち、主に「発見」と「支援」には、市の行政実務に精通したケースワーカー経験のある一般事務職を配置し、他の行政部局との調整や連携に重点をおいて対応しています。

支援センターへの相談件数としましては、毎月20~35件の相談があり、そのうち一時保護のケースは4件でした。

平成23年度吹田市DV防止対策イメージ図

3 今後の展望

このように被害者にとって最も身近な行政主体である市の支援窓口として、継続した支援を実施し、個々のケースへのきめ細やかな対応を心がけています。

今後は、相談に寄せられるさまざまなニーズを集約し、自立生活を支援するための多様なプログラムの導入や若年層への予防啓発を重視した取り組み等、実効性のある事業を目指して諸課題に取り組んでいく必要があると考えています。

また、被害者が地域社会の中で安心して住み続けられるよう、また地域社会から暴力を排除し連鎖をさせないためにも、この事業はあらゆる関係機関とネットワークを構築し、協働して取り組む体制が重要であると考えています。そのためには、庁内関係部署や吹田警察、吹田子ども家庭センターで組織する「DV被害者に関連する部署の連絡会議」の拡充を図り、さらに幅広い層の参画を想定した「DV防止対策ネットワーク」の構築に向けて、検討を進めていく所存です。

宝塚市におけるDV対策の取組について
宝塚市

1 これまでの背景と経緯

宝塚市では、平成18年に策定した「宝塚市男女共同参画プラン」において、「潜在しやすい配偶者等への暴力の排除」を重点事業として、相談体制の整備や支援体制の充実を行うとともに配偶者暴力防止のための啓発として、男女共同参画センターにおいて配偶者暴力防止に関するセミナーや情報誌で特集記事を掲載する等の啓発事業に取り組んできました。

また、配偶者暴力対策について、関係各課が相互の連携を図り、その防止及び被害者への適切な支援等の取組を推進するため、平成20年5月には庁内関係課長等で構成する「DV対策連絡会」を設置し、関係課間でさらなる連携を図るとともに、どの窓口でも被害者の視点・立場に立った同質の対応ができるよう、被害者対応上の留意事項や関係課の職務と役割を明記した「DV対策マニュアル」を作成し関係課に周知を行いました。また、「DVに関する電話交換担当者マニュアル」も作成し、相談体制を整えました。

本市におけるDVに関する相談は平成21年度の相談件数が平成17年度の約3.3倍になる等、増加傾向にありました。

このような背景を踏まえて、平成22年7月、「配偶者等からの暴力対策基本計画」の策定に向けて、宝塚市配偶者等からの暴力対策基本計画策定委員会を設置するとともに、庁内検討会を設置し、同委員会、同検討会での審議・検討、及びパブリック・コメントでの意見を踏まえ、平成23年3月に「宝塚市DV対策基本計画」を策定しました。

同計画は、被害者の視点に立った対策の実施等を図るとともに、市民一人ひとりが、「DVは身近にある重大な人権侵害であること」をよく理解し、これを許さない社会の実現に向けて、総合的、体系的に取り組むため、具体的な施策を掲げています。

2 たからづかDV相談室の開設

この計画を踏まえ、具体的な取組として、平成23年7月に、「たからづかDV相談室(宝塚市配偶者暴力相談支援センター)」を開設いたしました。

たからづかDV相談室は、女性相談員1人のほか、相談に応じて関係機関等と調整・連絡を行うケース担当職員2人を配置し、相談に対応しています。相談日時は、毎週月曜日から金曜日まで(祝休日を除く)の午前9時から午後5時30分までとし、相談の所管部署、場所は被害者の安全確保のため非公開としています。

相談室では相談業務のほか、被害者及び同伴家族等の緊急時における安全確保及び一時保護、また、被害者の自立支援のための情報や保護命令制度の利用についての情報提供及び助言、住民票閲覧制限に必要な証明等の発行を行っています。

開設から、約4ヶ月が経過し、10月末現在で102件の相談が寄せられました。相談には、被害の内容が深刻なものが少なくありません。性別役割分担意識にとらわれている事例もあり、経済的自立の必要性も大きな問題となっています。

今後の課題としては、相談体制の充実や関係機関とのさらなる連携、一時保護後の行き先や移送の対応をどのようにするかといったことが挙げられます。

これからも、被害者が一人で悩むことなく安心して相談できる相談室であるとともに、配偶者からの暴力を許さない社会の実現に向けて、家庭、地域、職場、学校等における教育や啓発など、様々な対策に取り組みます。

長崎市における配偶者暴力相談支援センターの取組について
長崎市男女共同参画推進センター(アマランス)

1 これまでの経緯

長崎市男女共同参画推進センターは、平成4年10月に「女性センター」として開設し、「アマランス」の愛称で市民の皆様に親しまれています。開設とともに相談窓口を設け、平成22年度は、年間約1,500件の様々な相談を受けています。

長崎市では、法の改正を受け、平成21年5月に「長崎市DVの防止及び被害者の支援に関する基本計画」を策定しました。

同計画に基づき、同年12月に、庁内の関係部局による「長崎市DV被害者支援連絡会議」を設置し、平成22年4月には「長崎市ドメスティック・バイオレンス等の被害者にかかる住居情報を保護する措置の実施に関する要綱」を施行し、住民基本台帳における支援措置の実施にあたって、情報の遺漏を防ぎ、関係課で情報を共有し、連携を図ることとしました。

また、本年5月に新たに策定した「第2次長崎市男女共同参画計画」の中でも、今後の施策の中で、「男女間における暴力の根絶」にかかる事業を積極的に推進していくべきこととしています。

アマランスの相談窓口に寄せられた配偶者からの暴力に関する相談件数は、増加の傾向にあり、平成18年度の94件から平成21年度の141件に50%増加しました。また、同じ長崎市内にある県のセンターに寄せられた相談件数も、本市にかかるものが、近年急増しているとのことでした。

このため、本市としては、被害者が相談しやすい体制を住民に最も身近な機関として整える必要があると考えました。

配偶者暴力相談支援センター(以下「支援センター」)は、法において規定されている6つの機能をすべて果たさなければならないものではなく、アマランスが行っている相談業務だけでも、その位置づけを行うことは可能でした。そこで、新たに、支援センターとして、より積極的に被害者の自立支援に向けた取組を図ることとしました。このとき、国の「住民生活に光をそそぐ交付金」を活用し、基金を設置することにより、平成24年度末までの活用が可能であったことも大きな後押しとなりました。

2 現状及び今後の課題

以上の経過を踏まえ、平成23年度から従来の相談窓口に、支援センターとしての機能を位置づけ、被害者の心のケアをより専門的な立場から支援できるよう臨床心理士による心の健康相談を月1回から月2回に増やしました。さらに、5月からは相談員を1人増員し、3人体制にするとともに、6月からは日曜日も相談窓口を開設するなど相談体制の拡充を図っています。

また、従来の相談のしおりに加え、相談専用電話を記載した名刺サイズのカードも新たに作成し、関係機関へ配布するとともに、市役所庁舎内女子トイレへも設置しました。

平成23年度以降の配偶者からの暴力に関する相談件数は、9月末で84件と昨年度同時期の61件に比べて約38%の増加となっています。

支援措置をはじめとするDVの相談に関する証明書も、支援センターとして発行することにより、被害者の利便性が図られるようになりました。

そのほか、配偶者からの暴力の防止に取り組む民間団体と連携し、啓発のための連続講座や中学生を対象とした、いわゆるデートDV防止授業を派遣講座として実施しています。

今後、支援センターとして、どのように庁内の関係部局や関係機関と連携を図っていくか、また、基金終了後の平成25年度以降、相談体制をどう維持していくかが大きな課題であると考えています。