「共同参画」2011年 7月号

「共同参画」2011年 7月号

連載 その1

ダイバーシティ経営の理念と実際(3) 女性社員の多様性Part1 株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美 由喜

『女性』を一括りにするのは誤り

日本企業では、ダイバーシティ=女性社員の活躍というイメージが強い。女性活躍自体には、筆者も大いに賛成だが、『女性』と一括りにしたうえで、女性vs男性という対立軸で捉えてしまうと、かえってダイバーシティの本質を見誤るのではないかと危惧する。

なぜなら、女性社員自体が多様化しており、企業の現場ではしばしば女性vs女性という構図も見かけるからだ。

10年9月号で、筆者は「ワーク軸とライフ軸でみた、社員の4タイプ」という考え方を紹介した(図表1)。

図表1 社員の4タイプ

女性社員は、 役職や年齢で、 4タイプの分布状況がかなり異なる(図表2)。

図表2 女性社員の役職別・年齢別にみた4タイプの分布

男性優位な職場で頑張ってきた、女性活躍の第一世代は、有能かつ勤勉な一方でライフ軸が弱い『過労バリバリ』が多いが、一部ではワークもライフも完璧にこなす『スーパーウーマン』もいる。

イキイキ女性社員は四面楚歌

第二世代以降は『イキイキ』も増えるが、彼女たちは四面楚歌になりやすい。

第一世代の過労バリバリ女性からは「職場に家庭を持ち込むな」と男性以上に厳しい目で見られ、スーパーウーマンからは「私たちの頃よりも制度は充実しているのに甘えている」と批判される。

上の世代の男性からは、「子育てが大変だろうから、仕事はほどほどでいいよ」と配慮と遠慮を履き違えた接し方をされ、「自分はワークで期待されていない」とイキイキ女性は落胆してしまう。

同世代の男性からは、「女性だから得をしていいね」と嫌味を言われ、同世代や下の世代の過労バリバリ女性からは「私たちにしわ寄せがくる」と迷惑がられる。同世代のヌクヌク女性や専業主婦からは、「ワークもライフも頑張りたいなんて贅沢だ」と冷ややかな目で見られる。

イキイキ女性の唯一の味方はイクメンや介護男子だが、男性グループの異端児である彼らには、いかんせん力がない。

かくして、イキイキ女性は孤立感を深め、辞めてしまうという状況が妊娠・出産・育児を機に女性の6割が辞めるという数字の背景にある。

女性活躍と経営効果

女性活躍には、(1)数が増える→(2)役職が上がる→(3)仕事と生活が中立的に選択できる、という『発展3段階』があると筆者は考えている。 前々回、Divは企業業績を伸ばすと述べたが、第3段階に至って初めて真のDivの経営効果が期待できる(図表3)。

図表3 女性活躍の発展3段階からみた企業業績への影響

しかし、上述のとおり、現在の日本企業は女性活躍の先進企業といえども大半は第2段階にとどまっており、なかなか第3段階に移行できていない。

これは男性の意識改革が遅れているからだけではなく、「女性の敵は女性」という状況が足を引っ張っている面もある。

イキイキ女性が活躍できない職場には未来がない。ついでに、筆者のように育児や介護をせざるをえない男性たちにも展望がない。さらに、少子化という大きな社会的課題の解決も難航する一方だ。

したがって、イキイキ女性が仕事を辞めずに、ワークも頑張り、キャリア形成できる職場風土の醸成は喫緊の課題だ。

次回は、その方策の一つとしてポジティブアクションについて論じたい。

株式会社東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜
あつみ・なおき/東京大学法学部卒業。
複数のシンクタンクを経て、2009年東レ経営研究所入社。内閣府『ワークライフバランス官民連絡会議』『子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(内閣総理大臣表彰)』選挙委員会委員、厚生労働省『イクメンプロジェクト』委員等の公職を歴任。