「共同参画」2011年 6月号

「共同参画」2011年 6月号

行政施策トピックス

配偶者からの暴力の被害者に対する自立支援モデル事業について
内閣府男女共同参画局推進課

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下、「配偶者暴力防止法」という。)では、第2条において、 国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力を防止するとともに、被害者の自立を支援することを含め、その適切な保護を図る責務を有することを規定しています。

内閣府が平成18年に実施した「配偶者からの暴力の被害者の自立支援等に関する調査」(回答者799人)によると、被害者は、相手から離れて生活を始めるにあたって、様々な困難を抱えていることがわかっています。「当面の生活をするために必要なお金がない」と答えた人は54.9%と最も多く、「適当な就職先が見つからない」も36.7%に上っています(図参照)。

図 離れた生活を始めるにあたっての困難
あなたが相手と離れて生活を始めるにあたって、どのようなことに困りましたか。(複数回答可)
図 離れた生活を始めるにあたっての困難
平成18年 内閣府「配偶者からの暴力の被害者の自立支援等に関する調査」

被害者が自立して生活するためには、地域において安定した生活を送ることができるようになることが必要です。しかし、被害者によっては長年にわたって暴力を受け続け、社会とのつながりも断たれてしまっている、あるいは、相手から避難し地域において生活していても、安心してつきあえる人間関係がなく孤立しがちであるなど、厳しい状況に置かれていることがわかりました。

内閣府では、こういった状況に置かれている被害者に対してどのような支援ができるのかなどを検討するため、平成20年度から22年度まで配偶者からの暴力被害者自立支援モデル事業を実施しました。

この事業は、配偶者からの暴力の被害者が暴力から避難しても相手からの追跡が続いていることなどから被害者の安全の確保に最大限の注意を払いつつ実施する必要があること、対象は被害経験を持つ方に限定されること、実施にあたっては被害者の直接支援と暴力に関する知見を有する人材を確保する必要があることなどから、それらの経験の豊富な民間団体に委嘱しました。

平成20年度「居場所づくり」

平成20年度は、予約などをしなくても安心してふらっと気軽に立ち寄れる居場所をつくることを目的としたプログラムを実施しました。

上述のように、配偶者からの暴力被害から逃れても、すぐに心身の健康を回復できる人は多くはありません。体調が安定せず、何か約束をしても、当日になって体調の悪さを理由に出かけられないこともあります。また、当日キャンセルの連絡をすることが心理的な負荷となり、事前申込を必要とするイベントなどは、最初から参加を諦めざるを得ない場合もあります。プログラム参加の間、子どもを預けられるところがないなどの事情を抱えている場合もあります。

そこで、それらの事情を抱えている場合でも、自立後の生活について、誰かに相談したり、悩みを分かち合ったりすることのできるようなプログラムを策定し実施した結果をもとに、『配偶者からの暴力の被害者の居場所づくりスタートアップマニュアル』を作成し、関係機関等に配布しました。

平成21年度「社会参画促進」

平成21年度は、「社会参画促進プログラム」と名付け、「居場所づくり」から一歩進んで、地域社会に少しでも参画していけることを目的としたプログラム案を試行しました。

プログラムの具体的な内容は、前年度の「居場所づくり」をベースとして、新たに「職場体験」などを加えました。「職場体験」とは、すぐには就労できない被害者のために、配偶者暴力の被害者支援に理解のある企業等協力者から職場に迎えてもらい、本格的に就労する前段階として職場に慣れたり仕事の体験をしたりしてもらうことです。

平成22年度「定着促進」

 平成22年度は、「定着促進プログラム」と名付け、より一層地域への定着を促進していくことを目的としました。具体的には、過去2年のプログラムに新たなものを付加する形で、たとえば、21年度にも「一閑張り」(いっかんばり)の製作をしていましたが、さらに、販売も行うという職場体験の試みも行い、好評のうちに完売するなど成功を収めました。

心身の回復の状態がよい被害者の中には、経済的に自立して働いていくために、資格取得のための勉強に励む方もいます。しかし、一般に、試験勉強を一人で進めるのは難しいものです。ある民間支援団体では、資格試験の勉強を支援していくためのプログラムを試みました。ご本人の努力と支援がうまくいったこともあり、資格取得の大きな動機付けになりました。

モデル事業を通じて明らかになったこと

3年度にわたったモデル事業は、それぞれ単年度でのテーマを決めて実施してきましたが、全体を通して「居場所づくり」をベースにしたプログラムになっています。これは、配偶者からの暴力被害というものが大変過酷な経験であり、心身の回復には個人差があるとはいえ、多くの場合、時間をかけてゆっくりと進むものだからと言えます。

次々とステップアップできるようなペースで進めることを前提とした自立支援は、被害者の方々にとって負担になるばかりか、むしろ、回復しかけていた心身の状態を悪化させる可能性もあることを、自立支援にかかわる支援者は十分に認識する必要があります。

また、地域において協力者を増やしていくことは、配偶者からの暴力という問題に対する理解者を増やしていくことでもあります。自立支援を小さな支援者のグループだけに閉じず、どうすれば地域において協力者の輪を広げていくことができるのかを考えるとともに、安全の確保がなされる方法を実現していくことが望まれています。

市町村を主体とした取組の促進

配偶者暴力防止法に基づき定めている「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策に関する基本的な方針」(以下、「基本方針」という。)においては、市町村の基本的な役割として、「一時保護の後、被害者が地域で生活していく際に、関係機関等との連絡調整を行い、自立に向けた継続的な支援を行うことが考えられる」としており、また、昨年12月に閣議決定された第3次男女共同参画基本計画(以下、「基本計画」という。)においても、市町村は、最も身近な行政主体として主体的に被害者の支援に取り組むことが盛り込まれています。

すでに基本方針及び基本計画の趣旨に沿った自立支援を進めている市町村においては、より効果的な取組の参考になることを、取組に困難を抱えている市町村においては、その困難を解決し取組が進むヒントとなることなどを目的として、21年度、22年度の実施結果から得られた知見をまとめた自立支援プログラム実施のためのマニュアルを今後とりまとめ、関係機関等に配布する予定です。ぜひ積極的にご活用ください。